見出し画像

ひとりの女性として、母として、声をあげるビヨンセ。ブラック・ライヴズ・マターの2020年を総括するグラミー賞の行方は……

第63回グラミー賞が3月14日(現地時間)に発表されます。2021年は1月に授賞式が予定されていたものの、新型コロナの影響で延期されていました。そして、3月13日は警察の不法侵入により撃たれたブレオナ・テイラーさんの命日。ブラック・ライヴズ・マターの抗議活動の視点からも見逃せない、賞の行方は……。

藤田正さん(以下、藤田) 3月は英米などでは「女性史月間(Women's History Month)」です。また、3月8日は「国際女性デー(International Women's Day)」でした。まだまだ課題はあるものの、アメリカのエンターテインメント業界においても、女性・LGBTQの人権問題には敏感になっており、今年のグラミー賞は見ものです。

――ジャズ・ラジオ局(アメリカ東海岸のWBGO局)でも、ビリー・ホリデイやニーナ・シモン、アレサ・フランクリンらも含めて、これまでの女性アーティストの功績をずっと紹介していますもんね。

藤田 今までが少なすぎたという反省がメディア側にはあるんだろうね。

――「アーバン」という言葉も問題になりました。『歌と映像で読み解くブラック・ライヴズ・マター』ではいち早く、このことにも触れています。

藤田 「最優秀アーバン・コンテンポラリー・アルバム賞(Best Urban Contemporary Album Category)」が、人権に配慮して「最優秀プログレッシブR&B・アルバム賞(Best Progressive R&B Album)」へ変更になりました。「アーバン」と「R&B(リズム&ブルース)」の由来を知る人には、ちょいとバカみたいんだけどね(笑)。どちらの言葉にしたって黒人系音楽を「別」に、ということだから。

――その前は「レイス(人種)音楽」というジャンル分けだったと、著書に書いてあります。

藤田 商業音楽一つを取っても、差別って根深い。そういった社会へ、女性アーティストがさらに、さらに台頭してきた。昨年、つまりブラック・ライヴズ・マターの年だったとも言える2020年において、社会性を打ち出しつつ優れた作品を作ったシンガーの多くは女性でした。これが「3/14」のグラミー賞にどう反映されるか。例えば、H.E.R.(ハー)は若いシンガー&プレイヤーだけど、昨年はジョージ・フロイド氏の殺害事件の直後に「I Can't Breathe」をうたって動画サイトに発表し話題になった。「ブラック・ライヴズ・マター2020」を象徴する1作です。

H.E.R. 「I Can't Breathe」

H.E.R の本ミュージックビデオには、シリアの戦禍の中、たったひとつ残された壁に警察によって絞殺されたジョージ・フロイドさんを描くグラフィティ・アーティストの姿も。同じシーンを捉えた写真が藤田さんの書籍『歌と映像で読み解くブラック・ライヴズ・マター』にも登場します。

――注目の筆頭はビヨンセですね。最多9部門にノミネート。彼女の愛娘、ブルー・アイビー=カーターも堂々ノミネートされました! ブルー・アイビーはビヨンセの「ブラウン・スキン・ガール」が最優秀ビデオ・ミュージック賞にノミネートされ、同曲のMVに出演したブルー・アイビーの名前は、主催のレコーディング・アカデミーによって正式に登録されています。

ビヨンセ「ブラウン・スキン・ガール」

藤田 ほんと、ビヨンセがどれだけ賞をかっさらうかだよね(笑)。ま、音楽的にも社会的にもブラック・アメリカンの頂点に立ち、その責任を果たそうとしている女性だから当然でしょ。先日、地元テキサスを襲った記録的な寒波に救済を表明したことも記憶に新しく、また、昨年のBLM抗議運動のさなかも、ブラックの人々のビジネスを応援するファンドを立ち上げるなど大きな活動を行いました。そして、ちょうど1年前の3月13日、警察の不法侵入により射殺されたブレオナ・テイラーさんの件で立ち上がったのも彼女でした。

――ビヨンセは、テイラーさんの殺人に関してケンタッキー州の司法長官へ正式な抗議文も送りつけています。『歌と映像で読み解くブラック・ライヴズ・マター』にもがっつり紹介しています。

藤田 森さんはブルー・アイビー推しだもんね。娘さん、堂々としてるもんねぇ。ただグラミー賞って業界のビジネスの一環であることは忘れてはいけません。芥川賞&直木賞と同じ。しかも今年の有力な候補って、ビヨンセ、テイラー・スウィフトほか全員が女性なんです。女性史月間の中のグラミー賞だから、彼女らの裏方さんたちはプロモーション(票集め)に励んでいるはずです。いい作品を作っても、イコール受賞とは行かないから。

――はぁ、そんなもんなんですか。しかし、何と言われようと、ブルー・アイビーかわいいから、トップ画像に置いときます!(同画像はビヨンセ オフィシャル動画より)

昨年夏発表された、「ブラウン・スキン・ガール」を含むビヨンセのビジュアル・アルバム『ブラック・イズ・キング』は、黒人として誇りを持て!とブルー・アイビーをはじめとするブラックおよびブラウンの娘たち(&息子たち)にビヨンセが呼び掛け、本当に素晴らしい映像&音楽だと思います。自らの表現を通じて子供たちに手本を見せる、この母子関係が私は好きなんですよ。

藤田 H.E.R.とはタイプが違うけど、元アラバマ・シェイクスのブリタニー・ハワードも優れている。彼女はレズビアンを公表している人で、ずいぶん辛い過去を背負っているんだけど、それを突き抜けて「Stay High」という秀作を作った。公式動画を見てください。人種差別が今も厳しい故郷アラバマで「普通の黒人男性の仕事帰り」をテーマにしています(主演、テリー・クルーズ)。ブラック・ライヴズ・マター運動のもう一つのメッセージが、ここに明瞭に表わされている。ずっと注目されてきた人だけど、今年はついに!……かもしれません(「最優秀ロック・パフォーマンス賞」「最優秀ロック・ソング」部門)。

ブリタニー・ハワード「Stay High」

【2021年3月16日追記】
第63回グラミー賞で、H.E.R.は「I Can't Breathe」で最優秀楽曲賞を受賞。また、ロバート・グラスパー featuring H.E.R. & ミシェル・ンデゲオチェロの「Better Than I Imagine」でも最優秀R&Bソング賞の受賞。

ビヨンセは「ブラック・パレード」で最優秀R&Bパフォーマンス賞受賞のほか四賞を獲得。グラミー賞の通算受賞数が28となって、女性アーティストとして歴代最多受賞に。娘のブルー・アイビー=カーターは、史上2番目に若さとなる9歳で最優秀ミュージックビデオ賞受賞の快挙! 

ブリタニー・ハワードも「Stay High」で最優秀ロック・ソング賞を受賞しました!

ロバート・グラスパーの受賞コメント(一部):人々はようやく、この国の体系的な人種差別に目を向ける準備ができたようです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?