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MMT理論を考える4 MMTならベーシックインカムを実現できるのか

MMT理論の話題でよく登場するのがベーシックインカム。これは国民に等しく分配される生活費と思えばよいが、全面的に導入した国はほとんどない。過去にスイスが導入を議論したことがあったが、実現しなかった。

スイスの場合、やはり財源が問題になったようだ。
日本円換算で1人あたり月額30万円弱の支給が想定されたようだが、仮にスイスの総人口約800万の半分を成人人口とすると、月1兆2千億円必要になる。年間14.4兆円。2020年のスイスの歳入は8兆円ほどなので、まあ既存の経済理論では不可能だ。
しかもスイスの初任給は現在、月額70万円ほどだそうで、月額30万円のベーシックインカム単独ではおそらくまともに生活できないと思われる。

日本でもベーシックインカムが話題になることがあるが、月額7万円とか10万円くらいでの議論になっている。そのぐらいの金額では生活保障にはならないし、年金や生活保護などが改廃される可能性もあるのであまり意味が無いように思える。

ベーシックインカムをやる以上は最低限まともに生活ができて、働けばその分豊かさに回すことができる、そのくらい欲しいと思う。そのほうが働く意欲を高く持つことができ、生産性も意外と上がるような気もする。ベーシックインカムを導入したら勤労意欲が減るという心配を私はあまりしていない。

では理想の金額はどのくらいなのか。これは家族構成によっても変わってくると思う。例えば一人暮らしなら15万円、夫婦なら20万円、3人家族なら、、これは子供の年齢によって変わってくるだろう。
・・・実はこれに近い金額の制度があって、生活保護がそれにあたる。

さて、日本において生活保護相当額を全員に支給するベーシックインカムを導入するとして、必要な金額はいくらか。

実はその疑問や実現可能性についての論文がどういうわけかゆうちょ財団の季刊誌で読むことができる。

金額はやはり1人あたり月額7万円程度になっており、年間費用が100兆円といったところのようだ。私の想定だとその1.5倍くらいだろうか。

特に、名古屋商科大学ビジネススクール教授の原田氏の論文では、MMTとの関係にも言及している。氏によればMMTをベースとしたベーシックインカムではインフレ率との関係をどうするかが問題になると指摘している。
すなわち、ベーシックインカムを導入しても、国民がよほど怠惰でもない限りは労働を継続すると思われるため、当然ながらインフレ傾向になる。すると支給額の実質価値が下がるため、もし支給額を連動して増額すれば永遠にインフレが続くことになる。
その対策としてMMTの基本政策からすれば増税ということになるが、原田氏は支給額はインフレ率に連動せずに据え置いて、増税はしないほうがいいだろう、としている。

ただ、そうすると昨今の年金と似たようなことになる気がする。現在の年金は物価上昇率に届かない程度で改定されており、実質の支給額は減っている状態である。その状況を見ている現役世代は将来を危惧し、消費を抑えて貯蓄に走り、不景気になっている。これを同じ轍を踏むような気がする。
よってMMTをベースとする以上は、増税でインフレに対処するのがセオリーとなるだろう。
日本人の感覚だと、インフレの脅威に常にされられる緊張感に耐えられるか心配になるが、基本的に世界経済はインフレ傾向にあり、現在の経済理論でも欧米は驚異的なインフレに襲われている。よってベーシックインカムだけがインフレの原因というわけでもなく、程度の問題ともいえる。
問題はどの程度のインフレになるか。だが生産性が十分に高く、安定した政治状況を維持できれば問題ないと私は考える。そう、政治状況が安定していれば、の話だ。
次回はその点を考えてみたい。

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