文盲

文盲

ブルータスの「村上春樹の私的読書案内。51 BOOK GUIDE」でも紹介されていたアゴタ・クリストフの「自伝的物語(訳者あとがきより)」。
ひとつ前に投稿した「悪童日記」の作者で、悪童日記の前と後に1回ずつ読んだ。

以下、2か所より引用。

 寄宿舎の消灯は夜十時。舎監が寝室を見回りに来る。
 わたしはそれでも、何か読むものが手元にあるかぎり、街灯の明かりを頼りに読み続ける。そして涙にくれながら眠りに落ちる頃、いくつかのフレーズが闇の中に生まれる。それらがわたしの周りを飛び回り、囁きかけ、律動(リズム)を生み、韻を踏む。歌い出す。詩になる。

 《昨日はすべてがもっと美しかった、
  木々の間に音楽
  ぼくの髪に風
  そして、きみが伸ばした手には
  太陽。》

(「詩」より)

 かくして、砂漠の日々が始まる。社会的砂漠、文明的砂漠。革命と逃走の日々の高揚のあとに、沈黙が、空虚さが取って代わる。重要な何か、もしかしたら歴史を画することになるかもしれない何かに参加しているのだという、そんな印象を抱き得た日々へのノスタルジーが、ホームシックが、家族や友人と会えない淋しさが、取って代わる。
 この地に辿り着いたとき、わたしたちは何かを期待していた。いったい何を期待しているのか、わたしたち自身わかっていなかったが、間違ってもこんな生活を期待していたのではない。つまり、気の滅入る作業の午前と午後、物音ひとつしない夕べ、判で押したような、変化のない、驚きのない、希望のない生活。

(「砂漠」より)

*****

僕(誠心)からすると想像を絶する環境の変化。
環境の変化なんてものではない。その連続、変化が環境、変化も環境もいずれは砂漠に呑み込まれる。

何かを期待せずにはいられないのだけど、この先、僕の身にも何が起こるかわからない。

もしそれに備えられるとすれば、僕にとってのそれは限りなく身軽になることだろう。書棚には日本語の本が並んでいる。いつ手にとって、自由に読むことができる。それは僕にとっての営為か。

もっと自身の内面にあってもよいのではないか。あるいは脈々と受け継いできた先人たちの中に。

来週、僕は遠い地へと移住する。その前に多くの本を処分する。

文盲になるわけでもあるまい。

【出版社Webより】
世界的ベストセラー『悪童日記』の著者が初めて語る、壮絶なる半生。祖国ハンガリーを逃れ難民となり、母語ではない「敵語」で書くことを強いられた、亡命作家の苦悩と葛藤を描く。

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