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【いまどきの世界史教科書?】表記が変わった用語

前回にひきつづき、新科目・世界史探究の教科書(山川出版社『詳説世界史探究』)において表記の変更された用語を紹介します。
(旧)は最新版の『詳説世界史B』の索引項目で、(新)はそれがどう変化したかを示しています。

変更の理由は学説の変化によるものもありますが、その文字ほんらいの音や現地語の発音に忠実なものとするための措置も少なくありません。

マホメットと呼ばれていたイスラーム教の開祖が、1990年代以降は原音に近い「ムハンマド」に変更されたように、ヨーロッパ以外のアジア、アフリカ諸国の用語が対象となることが多いです。

ただ、そういった「現地語主義」をあまりに推し進めるのも考えものです。

つきつめるならば、歴史学者の桃木至朗も述べるように、ベトナムは「ヴィエッナーム」とするべきでしょうし、「サレカット=イスラーム」はインドネシア語なら「サレカット=イスラム」のはずです(第4回全国高等学校歴史教育研究会 「東南アジア史 誤解と正解」(2006 年8月2日・於大阪大学))。

中等教育の段階では、現地語に忠実であることの正しさを求めるより、まずは広く通用し、コミュニケーションの基盤をつくっていくことのほうが大切ではないでしょうか。
機械的な「生かじりの現地語主義」(桃木氏)の罠にはまるのでなく、そもそも一つの対象について、複数の名付けが存在することを前提としたうえで、「なぜそのように呼ばれるか?」「なぜ複数の呼称があるのか?」ということを問うほうが、実りがあるものと考えます。

また、第一外国語としての英語学習を前提とするならば、たとえば中国の人名については、「しゅうきんぺい」と習っても「シージンピン」の読みがわからなければ、コミュニケーションへの回路がひらかれません。なんでもかんでも現地語読みにというわけにはいかないと思うものの、バランス感覚が問われると思っています。




(旧) アジア=アフリカ会議 →(新) アジア=アフリカ会議→アジア=アフリカ会議(バンドン会議)

(旧) アメンホテプ4世 →(新) アクエンアテン→アメンヘテプ4世
 古代エジプトの用語の表記が、より正確な転写をほどこしたものにあらためられた。ここでいうアクエンアテンは、従来「イクナートン」と表記されていたものだ。


(旧) アッシリア →(新) アッシリア王国


(旧) アトン →(新) アテン
 ヒエログリフの正確な転写。

(旧) アフガン戦争 →(新) アフガン戦争(第1次・第2次)
(旧) アフガン戦争 →(新) アフガン戦争(第3次)
(旧) アメリカ=イギリス戦争 →(新) アメリカ=イギリス(米英)戦争 
(旧) アメリカ=スペイン戦争 →(新) アメリカ=スペイン(米西)戦争
(旧) アモン →(新) アメン
 ヒエログリフの正確な転写。

(旧) アメンホテプ4世(イクナートン) →(新) アメンヘテプ4世(アクエンアテン)
 ヒエログリフの正確な転写。
(旧) アモン=ラー →(新) アメン=ラー 
 ヒエログリフの正確な転写。



(旧) アラブ文化の復興運動 →(新) アラビア語による文芸復興運動 
 
オスマン帝国統治下のシリア(現在のレバノンも含む)では、「アラブの覚醒」と呼ばれるアラブ文芸復興運動がおこされました。そのように聞くと、その初期の担い手は、きっとイスラーム教徒のアラブ人なのだろうと思われるかもしれませんが、実は少数派だったキリスト教徒たちであり、それが次第にイスラーム教徒を巻き込む運動に拡大していったものです(ベイルートのナーシフ・アルヤージジー、ブトルス・アルブスターニーらキリスト教徒知識人サークル)。どうしてそんなことになったのかというと、当時のオスマン帝国には列強が勢力拡張のために干渉し、宗教・宗派対立が煽られていた状況があり、それに危機感をもったシリア住民が「自分たちは宗教・宗派が違っても、同じアラビア語を使い、共通のアラブ文化に基づく「アラブ民族」じゃないかとの自覚を持ったためです。この運動はエジプトにも拡散しますが、アラブ人としての結束はなかなか実現しませんでした。その理由として、イスラーム教徒らはしだいに、イスラーム教徒の団結をめざすパン・イスラーム主義に傾斜したこと。また、オスマン帝国によるイスラーム教を強調した「オスマン人意識」の押し付けに対抗し、政治的自立を主張するアラブ民族主義が先鋭化していったことが挙げられます。
 アラビア語による文芸復興運動においては、アラビア語文法の整備、百科事典の執筆、聖書のアラビア語訳、印刷所や教育機関の建設(1866年シリア・プロテスタント大学、現・ベイルート・アメリカ大学)がみられ、宣教師により伝えられた西欧諸国のナショナリズム運動の影響が色濃いものでした。その意味で、「アラブ文化」よりも「アラビア語」に注目したほうが見通しが良くなるというわけです。
 同時期の日本も含め、同時代的の世界各地でみられた状況としてとらえることもできるでしょう(『西アジア史1』山川出版社、427頁以下)。




(旧) アルタン=ハン →(新) アルタン=ハーン

(旧) アルビジョワ派 →(新) アルビジョワ派(カタリ派)

(旧) アロー戦争 →(新) アロー戦争→第2次アヘン戦争

(旧) アンシャン=レジーム →(新) アンシャン=レジーム→旧体制
 
これまで「旧制度」と表記されることが多かったが、「旧体制」とされた。

(旧) アーリマン →(新) アンラ=マンユ(アーリマン) 
 
これも原音主義。



(旧) イギリス=オランダ戦争 →(新) イギリス=オランダ(英蘭)戦争
(旧) イスマーイール →(新) イスマーイール1世
(旧) イスラーム同盟(サレカット=イスラーム) →(新) イスラーム同盟(サレカット=イスラム)

これは上記のように、以前から指摘されていたもの。ただ「イスラーム」にこだわったところで、インドネシアでは「イスラム」になるし、イランでは「エスラーム」となる。行き過ぎは良くないというのが私の意見。

(旧) イスラーム文明 →(新) イスラーム文化
「文明」は古代文明など、各地域の基盤となる文明に使用しているようだが、「ヨーロッパ近代文明」とあるので、どのような一貫性があるか、理解できていない。

(旧) イスラーム法 →(新) イスラーム法(シャリーア)
(旧) イル=ハン国 →(新) イル=ハン国(フレグ=ウルス)
 中央ユーラシア関連。

(旧) 殷 →(新) 殷(商)

(旧)インド航路 → (新)アジア航路
 
インド航路から変更。
 ニュートラルな呼称にしたのだろうか。インディオ(インディアン)の項はそのままだし、インド航路のほうが、東西インド両航路を包含する呼称といえそうだが。

(旧) インフレーション →(新) インフレーション(ドイツ)

(旧) ヴィジャヤナガル →(新) ヴィジャヤナガル王国

(旧) ウィーン包囲(第1次) →(新) ウィーン包囲戦(第1次)
(旧) ウィーン包囲(第2次) →(新) ウィーン包囲戦(第2次)
「ウィーン包囲」で十分定着していると思うのだが…。

(旧) エセー →(新) エセー(随想録)

(旧) エピクロス →(新) エピクロス(派)

(旧) 遠隔地貿易(交易) →(新) 遠隔地貿易

(旧) 王党派 →(新) 王党(宮廷)派

(旧) 沖縄本島上陸 →(新) 沖縄本島占領
(旧)「45年…4月沖縄本島に上陸した」→(新)「45(昭和20)年6月には、沖縄本島がアメリカ軍に占領された」

(旧) オゴタイ →(新) オゴデイ

(旧) オコンネル →(新) オコネル

(旧) オスマン →(新) オスマン(オスマン帝国)

(旧) オスマン →(新) オスマン(フランス)

(旧) ミドハト憲法 →(新) オスマン帝国憲法(ミドハト憲法)

(旧) ハーン →(新) カアン 中央ユーラシア関連

(旧) 海禁 →(新) 海禁(政策)

(旧) ライプツィヒの戦い →(新) 解放戦争(諸国民戦争)

(旧) 学寮制 →(新) 学寮制(コレッジ制)
 
本文にはもともと「コレッジ制」の記載はあった。

(旧) 仮名 →(新) 仮名文字 文字だもんね。

(旧) クヌート →(新) カヌート→クヌート

(旧) 加耶(加羅) →(新) 加耶(加羅)諸国
 
1つの国があったとの誤解を避けるためか。
(旧) 西遼 →(新) カラキタイ(西遼)
 
原語主義。もともと「カラキタイ」の立項はなかった。

(旧) 樺太 →(新) 樺太(サハリン)

(旧) 囲い込み(第2次) →(新) 囲い込み

(旧) カール大帝 →(新) カール大帝(シャルルマーニュ)

(旧) 漢王朝 →(新) 漢(前漢)

(旧) ハン →(新) カン(ハン) 中央ユーラシア関連

(旧) 環境破壊 →(新) 環境問題

(旧) 漢人 →(新) 漢人(元代)

(旧) 大西洋革命 →(新) 環大西洋革命

(旧) 漢倭奴国王の金印 →(新) 漢倭奴国王「金印」

(旧) 韓非 →(新) 韓非子


(旧) 責任内閣制 →(新) 議院内閣制(責任内閣制)

(旧) 機械うちこわし運動 →(新) 機械打ちこわし運動 ラッダイト運動ではないんですね

(旧) 徽州商人 →(新) 徽州商人(新安商人)

(旧) 契丹(キタイ) →(新) キタイ(契丹)  
 現地語主義。

(旧) 絹の道 →(新) 絹の道(シルク=ロード)

(旧) キープ(結縄) →(新) キープ 結縄がなくなった!

(旧) キプチャク=ハン国 →(新) キプチャク=ハン国(ジョチ=ウルス)

(旧) 九・三〇事件(きゅうさんじゅう) →(新) 九・三〇事件(くさんじゅう) 読み方を変更

(旧) 義勇軍 →(新) 義勇兵(フランス)

(旧) 旧制度 →(新) 旧体制(アンシャン=レジーム)

(旧) 教会大分裂 →(新) 教会大分裂(大シスマ)

(旧) 教皇党 →(新) 教皇党(ゲルフ)

(旧) 協商国 →(新) 協商国(連合国)

(旧) 郷紳(英) →(新) 郷紳(英)→ジェントリ

(旧) ギリシア独立戦争 →(新) ギリシア独立運動

(旧) キール軍港 →(新) キール軍港の水兵反乱

(旧) 義和団 →(新) 義和団戦争

(旧) 金 →(新) 金(後金)

(旧) 均輸 →(新) 均輸(法)

(旧) クヌート →(新) クヌート(カヌート)

(旧) フビライ →(新) クビライ

(旧) グリニッジ標準時 →(新) グリニッジ天文台

(旧) コーラン →(新) クルアーン→コーラン

(旧) 大ブリテン王国 →(新) グレートブリテン王国

(旧) 軍管区 →(新) 軍管区→テマ

(旧) 訓民正音 →(新) 訓民正音(ハングル)

(旧) 経験論 →(新) 経験主義

(旧) 慶州 →(新) 慶州→金城

(旧) ケマル=アタテュルク →(新) ムスタファ=ケマル
 ムスタファ=ケマル(のちのアタテュルク)との記載。

(旧) 国王至上法→首長法 →(新) 首長法

(旧) ケルト人 →(新) ケルト人(系)


(旧) 建業 →(新) 建康(建業)

(旧) 元首政 →(新) 元首政(プリンキパトゥス)

(旧) 甲午農民戦争 →(新) 甲午農民戦争(東学の乱)

(旧) 高祖(唐) →(新) 高祖(唐)→李淵

(旧) 皇帝党 →(新) 皇帝党(ギベリン) 原語を併記。

(旧) 黄土地帯 →(新) 黄土高原

(旧) UNESCO(国際連合教育科学文化機関) →(新) 国際連合教育科学文化機関→ユネスコ

(旧) 黒死病 →(新) 黒死病(ペスト)
 コロナウイルス感染症のパンデミックを機に、さまざまな場面で歴史上の感染症の名称にスポットライトがあたるようになりました。
 なお、ペストには肺ペストや腺ペストがあり、前者は19世紀に流行、後者は14世紀半ばの黒死病がそれであったとされます。

(旧) 黒人奴隷貿易 →(新) 黒人奴隷

(旧) 国土回復運動 →(新) 国土回復運動(レコンキスタ)
 
原語を併記。

(旧) 国民(国家)社会主義ドイツ労働者党→ナチ党 →(新) 国民社会主義ドイツ労働者党→ナチ党 ついに国家がとれた。

(旧) 五港(五口)通商章程 →(新) 五港通商章程


(旧) 胡椒 →(新) コショウ モノはカタカナ表記に統一?と思ったが、麦、牛、山羊などは漢字のまま

(旧) コーラン →(新) コーラン(クルアーン)

(旧) コリントス同盟 →(新) コリントス同盟(ヘラス同盟)

(旧) コンスル →(新) コンスル(執政官)

(旧) 最後の審判(欧近世) →(新) 最後の審判
 もともと「最後の審判(オリエント)」という項目があった。ゾロアスター教にみえる「最後の審判」の思想が、のちのユダヤ教やキリスト教にも影響を与えたという文脈での記載だ。
 新教科書では「影響を与えた」という記載のみであり、「最後の審判」を明示した説明とはなっていない。
 また、そもそもアケメネス朝が保護した宗教がゾロアスター教であると、はっきり述べられていないこともポイントだろう。
 なお、とくにモンゴル関連において原語主義を進めるわりに、アケメネス朝は「ハカーマニシュ朝」ではないし、ダレイオスも「ダーラヤウ」にはなっていない。このことについて、アケメネス朝研究者の阿部托児氏の次の指摘をひいておきたい。

ところで、歴代のペルシア大王は、被支配地域の文脈におうじて、自己の呼び名や見せ方を変えていた。したがって、現代の日本でキュロスやダレイオスといった、本来の発音から外れた表記がまかり通っていたとしても、そのことに怒りを抱きはしなかろうと想像したい。

阿部拓児『アケメネス朝』中央公論新社、25頁





(旧) シモン=ボリバル→ボリバル →(新) ボリバル  
 
フルネームの人名は、同姓で区別が必要な場合(ベーコンやチェンバレン、ローズヴェルト)を除いてはカット。

(旧) サライェヴォ →(新) サライェヴォ事件 地名は削除

(旧) サラディン →(新) サラーフ=アッディーン

(旧) ザール →(新) ザール(地方)

(旧) サレカット=イスラーム→イスラーム同盟 →(新) サレカット=イスラム→イスラーム同盟

(旧) 塩・鉄・酒の専売 →(新) 塩・鉄の専売
 
酒は削除。

(旧) 自然法思想 →(新) 自然法

(旧) 四帝分治制 →(新) 四帝分治制(テトラルキア)

(旧) 司馬炎 →(新) 司馬炎(武帝)

(旧) シパーヒーの乱 →(新) シパーヒー

(旧) 資本主義体制 →(新) 資本主義

(旧) 写実主義 →(新) 写実主義(リアリズム) 英語を併記。

(旧) シャリーア →(新) シャリーア→イスラーム法

(旧) 朱印船貿易 →(新) 朱印船

(旧) 宗教裁判所 →(新) 宗教裁判

(旧) 集住 →(新) 集住(シノイキスモス)
 
原語を併記。

(旧) シュールレアリスム →(新) シュルレアリスム 
 
フランス語の読みに忠実なものに。でも「ダダイズム」は「ダダイスム」(Dadaïsme)ではないんだよなあ(なら、どっちでもよいのでは…)。

(旧) 拝上帝会 →(新) 上帝会

(旧) 植民市 →(新) 植民市(ギリシア人)

(旧) 諸国民の富 →(新) 諸国民の富(国富論)

(旧) キプチャク=ハン国 →(新) ジョチ=ウルス→キプチャク=ハン国
 
中央ユーラシア関連

(旧) 晋 →(新) 晋(西晋)

(旧) 新経済政策 →(新) 新経済政策(ネップ)
 
原語を併記。

(旧) 真珠湾 →(新) 真珠湾(パールハーバー)
 
原語を併記。

(旧) 神聖文字 →(新) 神聖文字(ヒエログリフ)
 ヒエログリフのより正確な転写。

(旧) 新バビロニア →(新) 新バビロニア(カルデア)

(旧) 神秘主義 →(新) 神秘主義(スーフィズム)
 
英語を併記。原語で表記しようものなら「タサウウフ」(岩波イスラーム辞典、p.546)となり、なんだかわからなくなってしまう。そういう意味でも英語がよい。

(旧) 人民戦線 →(新) 人民戦線戦術
(旧) 人民戦線 →(新) 人民戦線政府(スペイン)

(旧) 人民戦線 →(新) 人民戦線政府(フランス)

(旧) スターリング=ブロック →(新) スターリング=ブロック(ポンド=ブロック)

(旧) スペイン王国 →(新) スペイン(イスパニア)王国
 原語を併記。

(旧) 責任内閣制 →(新) 責任内閣制→議院内閣制

(旧) 石油危機(第1次) →(新) 石油危機(オイルショック、第1次)

(旧) 先進国首脳会議 →(新) 先進国首脳会議(サミット)

(旧) 専制君主政 →(新) 専制君主政(ドミナトゥス)

(旧) 宣統帝 →(新) 宣統帝(溥儀)

(旧) 戦略兵器削減交渉 →(新) 戦略兵器削減条約

(旧) ソヴィエト社会主義共和国連邦 →(新) ソヴィエト社会主義共和国連邦(ソ連邦)

(旧) 総力戦体制 →(新) 総力戦

(旧) 則天武后 →(新) 則天武后(武則天)



(旧) 租調庸制 →(新) 租・調・庸

 「均田制や租調庸制はなかった」という議論があります。当時の史料に見える言葉ではなく、後の時代の人が記した言葉にすぎず、しかも実態を把握していないというのです。

 渡辺信一郎氏によれば、身分や官品などにもとづき給田面積を規定することが「均田(均給)」の本来の意味であり、百姓に給田することのみをとりあげ、それと租庸調制を組み合わせたのは、北宋の司馬光の記述によるのだということです。
 また、唐代の租税の基本は「働くこと」により支払う税(正役・兵役)が基本で、租や調による代納は基本ではありませんでした。「働くこと」というのは、租税を輸送することが主な任務で、兵站も兼ねられていました。そしてたくさん働けば、日数に応じて、 租・調が免除されるしくみになっています。
 しかしこれもまた、司馬光など宋の人が「唐の頃はこうだった」と勝手に記したことで、 租・調が基本という話になってしまった。したがって、唐代の税制は租調庸制ではなく、租調役制と呼ぶべきとの了解がひろまっているようです。
 しかし山川教科書では、「小家族を単位とする穀物・布の納入と労役への従事( 租・調・庸)を税制の基本とした」とし、あくまで租・調と庸(労役)を並列させて記載されているのが特徴です。
 なお、「租庸調」は、司馬光の「均田租庸調の法」という表現が元ネタで、やはり当時の史料中の言葉ではありません(以上、下掲書を参照のこと)。

 他社の教科書をいくつか参照すると、租税と労役・兵役の関係性の記述が微妙に異なることがわかると思います。

  • 「…戸籍をもとに民衆に土地を支給し(均田制)、負担として租税・労租調役制)と兵(府兵制)を課すという土地制度・税制・兵制が一体となった制度をしいた。」(帝国書院)

  • 唐もまた隋の均田制を継承し、大土地所有に一定の制限を設けようとした。土地を貸与された農民は租・調と役(もしくは)・雑徭を負担し、軍府のある州では府兵制によって徴兵された。(東京書籍)

  • 「さらに、これらの制度の基盤として、成人男子に均等に土地を支給(均田制)し、それに対して均等な税役租庸調制)と兵役(府兵制)を負担させるという原則をたてた。」(実教出版)

  • 「税・労役(租調庸)や兵(府兵制)を課した」(第一学習社)


 細かいことはさておき、動力機械の発達していない前近代にあっては、「働くことで支払う税」というものが大きなウエイトを占めていたんだ、という理解が、とても大切ですね。 



(旧) ソ連邦崩壊 →(新) ソ連邦消滅

(旧) 大越国 →(新) 大越(ダイベト)
 原語を併記。

(旧) 大夏(西夏) →(新) 西夏  
 
大夏がこれでなくなる。

(旧) 大憲章 →(新) 大憲章(マグナ=カルタ)
 原語を併記。

(旧) 第三勢力 →(新) 第三世界
 ややこしかったので、この統一は良いと思う。

(旧) 対比列伝 →(新) 対比列伝(英雄伝)

(旧) 大モンゴル国 →(新) 大モンゴル国(モンゴル帝国)
 
中央ユーラシア関連の修正。そもそもイルハン国→フレグ=ウルス、キプチャクハン国→ジョチ=ウルスとしているんだから、イェケ=モンゴル=ウルスとしてもよさそうなところだが、そこは自制がはたらいた。それでいいと思う。表記そのものよりも、「ウルス」という遊牧国家とはなにか(土地を基盤とする領域国家ではなく、人と家畜の群れとしての国家)を理解するほうが大事。

(旧) 太陽のしずまぬ国 →(新) 太陽の沈まぬ帝国

(旧) 三大陸周遊記→旅行記 →(新) 大旅行記
 
結局、『大旅行記』(家島彦一訳題)に落ち着く。

(旧) ダーダネルス・ボスフォラス海峡 →(新) ダーダネルス海峡

(旧) 断頭台 →(新) 断頭台(ギロチン)
 
原語を併記。

(旧) チェルノブイリ原子力発電所事故 →(新) チェルノブイリ原子力発電所事故→チョルノービリ原子力発電所事故

(旧) チャガタイ=ハン国 →(新) チャガタイ=ハン国→チャガタイ=ウルス
 
中央ユーラシア関連。

(旧) CIA(中央情報局) →(新) 中央情報局
 なぜこうなったかは不明。

(旧) チュノム(字喃) →(新) チュノム
 「チューノム」ではなかった。


(旧) 長城 →(新) 長城(万里の長城)
 長城は秦による統一以前から存在しているため、両者を区別か。



(旧) チェルノブイリ原子力発電所事故 →(新) チョルノービリ原子力発電所事故
 ウクライナ修正。さすがにキエフ公国→キーウ公国というような時代錯誤の修正はなかったが、チョルノービリへの修正はある。また、中世の地図ではさすがに「キエフ」表記のままだが、現代の地図におけるキエフは「キーウ」になっている。



(旧) テュルゴー →(新) テュルゴ
 原語の読みに近いものに変更。リンカーンが「リンカン」になったのと同じ波がテュルゴーにもやってきた。テュルゴーでいいよ…(本音)。



(旧) ドイツ=フランス戦争(プロイセン=フランス戦争) →(新) ドイツ=フランス(独仏)戦争(プロイセン=フランス戦争)

(旧) 陶淵明(陶潜) →(新) 陶淵明
 
名は潜、字が淵明。名はカット。


(旧) 同治の中興 →(新) 同治中興 
 
これもある意味、原語主義。

(旧) 陶片追放 →(新) 陶片追放(オストラキスモス)
 原語を併記。

(旧) 東方貿易 →(新) 東方貿易(レヴァント貿易)
 原語を併記。

(旧) 統領政府 →(新) 統領体制
 なぜ?


(旧) 独裁官 →(新) 独裁官(ディクタトル)
 原語を併記。


(旧) ドイツ=フランス戦争 →(新) 独仏戦争→ドイツ=フランス戦争

(旧) トランスヴァール →(新) トランスヴァール共和国

(旧) ドーリア人 →(新) ドーリア人(系)
 

(旧) ナジ=イムレ →(新) ナジ
 フルネームは廃止。

(旧) ナチ党 →(新) ナチ党(国民社会主義ドイツ労働者党)

(旧) ナポレオン3世 →(新) ナポレオン3世(ルイ=ナポレオン)
 


(旧) 南越 →(新) 南越国

(旧) ナントの王令(勅令) →(新) ナントの王令

(旧) アメリカ連合国 →(新) 南部連合→アメリカ連合国

(旧) 二月革命(ロシア) →(新) 二月(三月)革命(ロシア)
 なぜかすでに十月革命のほうは十月革命(十一月革命)と併記されていた。

(旧) 西ヨーロッパ連合条約 →(新) 西ヨーロッパ連合条約(ブリュッセル条約)

(旧) パクス=ロマーナ →(新) パクス=ロマーナ→ローマの平和

(旧) パスパ →(新) パクパ
(旧) パスパ文字 →(新) パクパ文字
 パスパはモンゴル語化した呼称。チベット語の言語に近い表記に。

(旧) パミール高原 →(新) パミール 

(旧) ハラージュ →(新) ハラージュ(土地税)

(旧) ハラッパー →(新) ハラッパー文明
 
傍注でインダス文明の異称として紹介。



(旧) ハン →(新) ハン→カン
 モンゴル関連。


(旧) パンセ →(新) パンセ(瞑想録)
 
そもそもパンセは『パンセ』で定着しているので、不要である気がします。『随想録』と混ざりやすい。


(旧) ワルシャワ条約機構 →(新) ワルシャワ条約機構→東ヨーロッパ相互援助条約

(旧) 秘密警察 →(新) 秘密警察(ゲシュタポ)
 
ナチ関連。原語を併記。

(旧) ヒューマニズム →(新) ヒューマニズム→人文主義

(旧) フセイン →(新) フセイン(フサイン)
 
エ行のないアラビア語表記に引きずられると「フサイン」が良さそうだが、発音的には結構微妙なところ(まさにどっちでもよいのでは)。



(旧) 武帝 →(新) 武帝(漢)

(旧) 司馬炎 →(新) 武帝(晋)→司馬炎

(旧) プラスティック →(新) プラスチック
 まあ、プラスティックとは言わないよなあ。

(旧) フランス領インドシナ →(新) フランス領インドシナ(連邦)

(旧) フリードリヒ2世 →(新) フリードリヒ2世(大王)

(旧) ブルジョワジー →(新) ブルジョワ

(旧) フラグ →(新) フレグ


(旧) プロイセン=フランス戦争→ドイツ=フランス戦争 →(新) プロイセン=フランス戦争→ドイツ=フランス(独仏)戦争

(旧) ペテルブルク(サンクトペテルブルク) →(新) ペテルブルク

(旧) ベルリン会議(1885) →(新) ベルリン=コンゴ会議
 1878年のベルリン会議と紛らわしいため、いっそのこと別の名称に変更した模様。

(旧) 募役 →(新) 募役法

(旧) お・ヘルツェゴヴィナ →(新) ボスニア=ヘルツェゴヴィナ(現代)

(旧) ボスニア・ヘルツェゴヴィナ →(新) ボスニア・ヘルツェゴヴィナ

 「=」はひとつづきの単語、「・」は前後の単語が別物であることを示す。ボスニア・ヘルツェゴヴィナは、中世以来の別々の政体・地域(オスマン帝国の州)を
指します。



(旧) ポトシ銀山 →(新) ポトシ

(旧) ポーランド反乱 →(新) ポーランドの蜂起(1863~64)
 反乱は為政者側による名付け、蜂起は被支配者側の名付けというニュアンスの
違い? 「インド人傭兵(シパーヒー)による大反乱」との違いはなんだろうか。
 なお、ポーランド語のpowstanieの訳は反乱と訳せそうだが、ポーランド史関連の書籍では、のきなみ「蜂起」という用語が用いられているので、慣用にならったものか(例:『ポーランド・ウクライナ・バルト史』山川出版社、206頁)。




(旧) スターリング=ブロック →(新) ポンド=ブロック→スターリング=ブロック

(旧) マフディー派の抵抗 →(新) マフディー運動
 「 − 派の抵抗」とはなんとも扱いづらい用語だったが、今度は「運動」に。
 アラビア語版wikipediaには「الثورة المهدية」(マフディー戦争)で立項されている。
 スーダンのマフディー国家による運動のみならず、ひろくマフディーを奉じる動き(18世紀末の西アフリカのフルベ系ジハード運動、聖モスク占拠事件(1979)など)ととらえると、もう少し見通しがよくなるかもしれない。


(旧) ミッレト →(新) ミッレト制
 
オスマン帝国関連。傍注に「これはイスラーム諸王朝に共通する仕組みであるが、オスマン帝国の場合、とくにミッレト制と呼ぶこともある」と記載。
 これに限らず、ある王朝に特徴的なものとして採りあげられた制度が、じつはほかのところでも実施されていたということは、よくある。目玉となる用語によって、かえって視野狭窄におちいってしまう例。

(旧) ミドハト →(新) ミドハト=パシャ
 
オスマン帝国関連。

(旧) ミドハト憲法 →(新) ミドハト憲法→オスマン帝国憲法
 
オスマン帝国関連。

(旧) 南アフリカ戦争 →(新) 南アフリカ(南ア、ブール)戦争

(旧) 南満州鉄道 →(新) 南満洲鉄道株式会社
 
もともと「洲」のさんずいがなかった点が改善された。

(旧) ミール →(新) ミール→農村共同体

(旧) 明朝 →(新) 明

(旧) 民用文字 →(新) 民用文字(デモティック)
 
原語を併記。

(旧) モンスーン →(新) モンスーン→季節風

(旧) 明白な運命 →(新) 明白なる運命

(旧) メシア →(新) メシア→救世主

(旧) モサデグ →(新) モサッデグ
 現代ペルシア語でMoḥammad-e Moṣaddeq。『岩波イスラーム辞典』999頁には、「モサッデ」で立項しているが、q音は「グ」のように濁る? どっち?


(旧) ユエ条約 →(新) ユエ条約→フエ条約

(旧) ユネスコ →(新) ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)

(旧) ヨーガ信仰 →(新) ヨーガ

(旧) ラタナコーシン朝 →(新) ラタナコーシン(チャクリ)朝

(旧) 写実主義 →(新) リアリズム→写実主義

(旧) 李淵 →(新) 李淵(高祖)

(旧) 李世民 →(新) 李世民(太宗)

(旧) 律令体制 →(新) 律令

(旧) 竜樹 →(新) 竜樹(ナーガールジュナ)

(旧) レジスタンス →(新) レジスタンス(運動)

(旧) 労働組合 →(新) 労働組合(運動)

(旧) ロンドン条約(1840) →(新) ロンドン条約

(旧) ワルシャワ条約機構 →(新) ワルシャワ条約機構(東ヨーロッパ相互援助条約)

(旧) コメコン→(新) COMECON→コメコン、経済相互援助会議

(旧) アウシュヴィッツ強制収容所 →(新) アウシュヴィッツ
アウシュヴィッツには、ポーランド現地語のオシフィエンチムが併記されているわけではない。

(旧) アラブ人 →(新) アラブ人(諸部族)
単一のまとまりがあったわけではないことから。でもそんなこと言ったら、前近代はおおかた同様の配慮が必要では?とも。

(旧) アラブ連盟(アラブ諸国連盟) →(新) アラブ連盟

(旧) 委任統治権 →(新) 委任統治

(旧) イラン革命 →(新) イラン=イスラーム革命
現地語主義をとれば羽田正氏のいうようにエスラームだが。

(旧) オラービー→ウラービー →(新) ウラービー



(旧) 辛丑和約→北京議定書 →(新) 北京議定書 中国史カット

(旧) セント=ソフィア聖堂→ハギア=ソフィア大聖堂 →(新) ハギア=ソフィア大聖堂


(旧) 免罪符→贖宥状 →(新) 贖宥状
 人口に膾炙した免罪符」はついに併記されず消滅(免罪と免は異なるため)




(旧) ライプツィヒの戦い →(新) 解放戦争(諸国民戦争)         


このたびはお読みくださり、どうもありがとうございます😊