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この世界で、我が家はどこに


2023.5.26 金

 昨夜尾道から帰ってきた。といっても、二週間の滞在のあとに我が家だと思って帰った場所はそんなに我が家でもなかった。二週間も旅先にいれば、洗面所のドライヤーの在り処、台所のふきんのかかっている場所やごみ袋の位置を尾道の宿のそれで体が覚えているから、ついそこに向かった動きをしてしまって、あ、ここじゃないんだとか、あれなんでないんだ?となったり。ここが家で、じぶんが帰ってきたのだという気がいまいちしない。新しい宿に来たみたい。庭のどくだみが満開。


 旅疲れはこず昼間は元気でスーツケースの片付け、部屋の掃除、水やり、洗濯機を二度回す、フリマサイトの発送、お土産の整理、仕事も少し。ecomoでごはん。食材買い出し中にあたまが痛くなる。留守中に水やりや除湿機の水捨てをお願いしていたご近所のEさんのお家へ尾道土産を渡しに。途中、緑道のベンチに「禅」と書かれた白いキャンバストートバッグがうなだれるようにかかっている。Eさんのお家で、お土産を渡すだけのつもりがありがたくお茶までいただいてしまった。作ったばかりの梅のはちみつ塩づけも。
 
 zoomの時間に遅刻しそうで急いで帰っていると、初老の業界人ぽい男性五人組に「あの、写真をとってください」となんでもない道で話しかけられる。うげまじですかと思わず声に出してしまったが撮った。五分遅刻。夜ごはんに因島のちえこおかあちゃんにいただいた八分つき米を炊き、パートナーがかぶと玉ねぎの味噌汁を作ってくれた。納豆とぶりの刺身、くらかけ青大豆の残りとコーンを混ぜたサラダ。逗子海岸の花火があがるので七里ガ浜まで歩く。締めの和火がきれい。


2023.5.27 土

 朝、パートナーはとある農園の手伝いへ。私も行きたかったが起きられなかった。パートナーはずっと家で仕事していて遊びにいくこともほとんどないからどんどん外へ行ってくれるのはうれしい。お米と味噌汁で朝ごはん。布団を干す。今年初めて蚊取り線香を出して、庭でパソコン仕事。荷物を出しにコンビニへ行くと服を脱ぎ黒光りした肌で闊歩する男の人がちらほら。この冬あたりから隣の家が車のエンジンを何十分もふかしっぱなしにするということをしていて、その車が仕事場の窓に面しているのでどうにかしてほしいが、ここに住むのもあと二ヶ月くらいかもしれない。夜は炊き込みごはん、木耳の味噌汁、にんじんしりしりとトマトのサラダ、こんにゃく焼き、ズッキーニとカブと鱈の炒めもの。真木悠介小品集「うつくしい道を、しずかに歩く」を読む。

 「アメリカの原住民ホピ族のことばでは、これを調査したウォーフがくりかえしのべているように、〈過去〉と〈現在〉は区別されない。かつてあったものは、今あるものとおなじものとして感覚される。そして〈未来〉というものはなく、それに対応することがらは〈魂の中にあるもの〉というふうに考えられている。」


2023.5.28 日

 神奈川近代文学館の小津安二郎展、最終日。見応えたっぷり。きせきの食卓でマクロビごはん。おととい開催を知ったブックマーケット「本は港」へ。入場制限ありでけっこう並んでる。フードトラックでフライドポテトを買い「放浪記」を読み待つ。生活綴方さんでZINEを二冊購入。安達茉莉子さんにお会いできたのうれしかった。港まで歩く。ハマフェス開催中。横浜中のひとがいるんじゃ・・・?っていうくらい人人人。歩いていたら横断歩道の向こう側にGジャンを着た日に焼けたおじさんがいてなにか食べている、というかかじってるなと思い、すれ違うときそっと見たら立派な生の葉つきとうもろこしだった。中華街の好記園でヴィーガンの焼きビーフン、イカとセロリの炒め、ちまき。カフェのテラス席で「放浪記」つづきを読む。あじさいがいつのまにか満開だし、いつのまにかホタル飛んでいるし、いつのまにか首ぜんたいを覆っていたえりあしのおかげでやたら暑さを感じるし、季節ってこんなに無言でやってくるのだっけ。


2023.5.30 火

 夕方、浜を散歩していたら、短いツノの生えた見たことのない黄色いぬめっとした生き物が打ち上げられて死んでいた。巨大ななめくじみたいな、とにかく黄色くて、背中らへんがピンクというか紫のようでもあって、でも死んでしまっているから、変色しているんだと思う。枝でつついてみたらぶにょっと気味のわるい感触。


2023.5.31 水

 髪を切る。子宮筋腫の経過観察で超音波検査。大きさは変わらず(前回より0.5mm小さい)。久々の鍼灸。明日のために鎌倉土産を買う。小川軒のレーズンバターサンド。夜は米麺でトマトソースパスタ。


2023.6.5 月

 奄美から帰ってきた。庭の隅にうす紫のようなピンクのような紫陽花が咲いていた。いつのまに!去年もおととしも咲かなかった。金柑をてのひらいっぱいに収穫。奄美のすももを齧る。だいぶ熟れてきたのがいくつか。掃除、片付け、仕事少し、庭でぶらぶら。夕方七里ヶ浜〜稲村ヶ崎を散歩。パートナーと話して今日から実験的に一日二食にもどすことに。朝と早い夜ごはん。とはいってもたぶん三食の日もあると思う。ケースバイケース。今日はどちらも五分つき米と湯葉と海苔とごまのふりかけ。納豆。夜はキャベツと大根葉とこんにゃくの蒸したもの。パートナーは残りのカレー。七月の引越しについて話す。いつまでもどこにもおちつかないこの身。さながら放浪記。


2023.6.6 火

 なんとなく今日は憂鬱な日になりそうだと思う。西鎌倉のよこいさんまで散歩。野菜とこんにゃくを買う。あまり陽の当たらない場所に山ゆりが咲いている。花が人の顔ほどもある。近づくと危険な香り。帰りは森を通ったら雨上がりで靴とズボンの裾が泥だらけ。午後はずっとオンラインミーティング。私、オンラインミーティングが苦手。その他にも苦手なのに無理してやっていることがいくつかある。それをやる必要が人生にほんとうにあるのだっけとはげしい頭痛のなか問う。


2023.6.7 水

 朝気持ちがいいので腕をぶんぶんふって散歩した。犬の散歩中のおばあさんにおはようございますと声をかけると、かっこいいね!というのでなにがですか?といったら、腕!といわれた。私は犬がいるからそういうふうに歩けないのよ。今日は五人くらいの人とすれちがってみんなにおはようございますと言った。ほんとうはだれにも会いたくなかったけどあえてそうしてみた。紫陽花があちこちで咲いている。こんなに種類があるんだと楽しくなる。鎌倉は紫陽花の名所が多いけどそのへんに咲いているので充分いい。夕方、茅ヶ崎の駅のスーパーにパック入りの蒸した野菜が沢山売っていた。ごぼうだけ、大根だけ、じゃがいもだけ、芋だけもあるし、ミックスもある。すれちがった車の運転手の女の人が氷嚢をあたまにのせて運転していた。テラスモールで「怪物」を観る。


2023.6.8 木

 関東も梅雨入り。朝一で大磯の物件を三つ内見。いまいちぴんとこず。そもそも神奈川に住みたいわけでもない。活気のある食堂で地魚丼をたべたが米も魚もふぬけていた。なんか、猛烈に思った、もっと一食一食を大事にしたい。そのためにできることが自炊なんだろう。疲れてるときすぐ外食でいいやって思うのやめよう。大磯駅前の地場屋ほっこりで野菜を買い、パートナーは帰宅、私は電車で原宿のゆきさんのおうちへ。明治神宮がまるまる見渡せる高層マンション。まるまるふとった毛並みのいい優雅な猫が四匹。猫はねるのが仕事なんだって。中国茶をいれてくださった。ゆきさんは素敵な人。お会いするとすこし体がかるくなる。新宿まで歩く。雨がふってくる。人が多いし音もすごい。タイ料理屋で佐々木さん、船川さんと会う。五日前に奄美で会っていたのがうそみたいに東京はちがう時空。やっぱり息ぐるしいな。帰宅は0時すぎ。熱いお風呂にはいって物件検索。おなじく東京に出ていたパートナーも帰ってくる。人生十度目の引越しが一月後に迫っている。





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