【エッセイ】 “バジルチキン&トマトモッツァレラ 石窯フィローネ”
スターバックスなのに…
昨日は5メートルくらい離れたお客さんのタバコの臭いが伸びてきた。閉口した。
今夜はイタリア料理店のようなニンニクの香りが漂っている。これは心地いい。「この香りはメニューの何ですか」と聞いてしまった。“バジルチキン&トマトモッツァレラ 石窯フィローネ” だそうで、ニンニクではなくバジルの香りのようだ。そういえば、バジルである。
コーヒーなんて、わざわざ着替えてここに来なくても家で飲めばいい。とっておきの豆も数種類買ってあるのだから。
でも、夜のスターバックスは心地よくて、着替えて、メイクをし直してでも来てしまう。夜は、明かりも音楽も、そして、そこにいるお客さんもくつろいでいて、ゆったり時間が過ぎている。そんな空気に浸っていたい。
今夜は12月25日。ウィンドウに書かれたクリスマスの絵はいつ消すのだろう。どこもかしこも、一夜のうちに迎春に模様替えする夜である。そんなことを考えながらコーヒーを飲んでいたら、布巾と脚立を持って、お店の方がウィンドウに向かい始めた。いつだろうと考えていただけに、この瞬間に立ち会えたことがうれしかった。
祭りの後はあっけない。運動会も学園祭も。「もうひと山ある」と思い知らされるのは食事くらいだろう。今年もクリスマスは終わってしまった。
このウィンドウも明日は迎春になるのだろうか?
コンセントのある広いテーブルに座って、これを書いている。向かい合うお客さんは昨夜も同じ席でパソコンを操作しながらレポートか何かを書いていた。向こうは、同じように「向かいのお客さんは…」と思っただろうか?
彼女は、“聖夜”でもなく、ここでやるべきことをこなしているのだろう。
ウィンドウの絵が消えていく。
彼女も帰り支度を始めた。
私も、そろそろ帰ろうか。コーヒーがまだ残るマグに唇をつけながら、“バジルチキン&トマト~?” 一度では覚えられない名前を次回のために確認した。
(2023年12月25日)
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