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調査報告 店先の提灯

翌井よくいの中華料理屋の店先には、必ず提灯が吊るされている。全部で5店。全てだ。どこも内装は中華料理屋らしいが、特に雰囲気のある店ではない。それに、5店の場所はそれほど近くもないので、統一感が出ている訳でもない。だから、ほとんど気付かれる事はない。ただ、一度気付くと、不思議な気がする。提灯には「提灯」と記されている。

 何故こんな事になったのか。中華洒落の店長の小磯さんに話を聞いた所、以下の通りだった。

 まず、初めに提灯を吊るしたのは、小磯さんだそうだ。その時の提灯には「営業中」と書かれていた。それを他の中華料理屋も真似し出した。小磯さんとしては、そこに不満はなかったそうだ。元々提灯を吊るしていたのも、単なる趣味で、商売を考えての事ではなかったと言う。

 さて、当時は8店あった中華料理屋の内の1店、餃子位置で問題が起きた。そこの店長の蔵中さんが、忘れっぽく、営業が終わっても提灯を仕舞わない事が多かったそうだ。店の電気は消えているのだから、客が勘違いして店に入ってくる事はないから、特別大きな問題ではないのだが、蔵中さんはなんとかしようと思った。そこで新しい提灯に、自分で「提灯」と書いたのだと言う。そしてそれを、他の中華料理屋に配ったり、求めに応じて渡したりした。

 残念な事に蔵中さんは4年前に亡くなっていて、提灯と書かれた提灯はもう作られない。まあどうでもいい事だ。と言い切れるほど無情にはなれない。それにしても蔵中さんは素晴らしい。びっくり仰天だ。


   可

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