見出し画像

【小説】惑星Kより

「お久しぶりです。そちらでは7年が経った頃でしょうか? 輸送が遅れて、20年経っているかもしれませんね。あの頃と、お変わりありませんでしょうか?

 こちらはたいして変わっておりません。私達のコモン・スペースは未だに正常に動作しております。あなたは随分と私達の技術を疑っておりましたけれど、この星では私達のやり方が正しいのです。仮にあなた方の種の細胞がこちらへ輸送されて、この星で人類が育つ事になれば、私達と同じ感想を持つでしょう。

 さて、本題に入りましょうか。私達の星の名前の事です。

 あなた方は、未だに私達の星を惑星Kと呼んでおられるのでしょうか? それとも、月日を速く感じる人類の事ですから、もうちゃんとした名前で呼んでくださるようになりましたか? お返事を、くださいね。あまり期待していませんけれど。

 あなた方がどうして、私達の星を正式名称で呼んでくださらないのか、私には本当に理解できません。私達は、そうですね、あなた方の存在を観測してからというもの、トイウンの民としての誇りを大切に大切に、種族やら方言やらの違いを乗り越えて、育んできたのです。あなた方に引けを取らないように、1対1で立派に話し合えるように、懸命に努力してきたのです。あなた方は、友好な関係を築きたいと、互いに相手の文字を解読できた頃に手紙に書いてくださったではありませんか。私達は、その時本当に喜んだのです。どうか、良き友人である為に、ここは1つ、私達の尊厳を、尊重していただきたいのです。

 私達は、あなた方の住む星の名前を、そちらの言葉できちんと記す事が出来ます。子どもから大人まで、貧富の差を超えて、皆が記せるのです。earth。発音する事は私達には出来ませんが、誰一人、もじをまちがえたりはしません。ハートを書いて、その右側にearth、左側にtuiwunと記したマークが、街中に描かれています。そちらでも、同じような事が行われていますか?

 もしかしたら、あなた方は名称に拘らないのかもしれませんね。だから私達のお願いの意味が、分からないのかもしれません。名前に意味があるのか? 名前なんて、どうでも良い事ではないのか? 私は敢えて申し上げましょう。ええ、実の所、その通りですと。互いに相手の名前を知らなくても、素晴らしい関係でいる事は出来るでしょう。けれども、最近のあなた方のお手紙からは、そのような関係を望んでいるような気持ちが読み取れないのです。それが恐ろしいのです。手紙が届くのが遅いし、内容は簡素になってきています。最初の頃の丁寧な文章はどこへ行ってしまったのですか?

 正直に申しましょう。私どもは、この星があなた方に攻撃されるのではないかと心配なのです。私達には、宇宙戦争をする技術はありません。そんな技術を開発してもおりません。あなた方の言葉を信用していたからです。今でも信用しております。どうか、互いに幸せに生きてゆけるように、努力してくださいませんか。それでこそ、真の友情と言えませんか。私達のあなた方への信頼を裏切らないでくださいませんかと、そうお願いする事を、許してはいただけませんか。」

   *  *  *

「との事ですが、いかが致しましょうか」
「これが、降ってきたのか」
「はい。でっかい箱が降ってきました」
「中にこれが入っていたと。また手紙か。年を経るごとに文章が長くなっているな」
「ええ。銅板ですから、重くて重くて。持ってくるのも大変でした」
「返信装置は?」
「入っておりました」
「そうか……。しかし、厄介な問題を抱えてしまったな。我が国はそれどころではないのだが。遠くの宇宙人よりも隣の国の事の方が、よっぽど気掛かりだわ。もうこうなったら、最初から返信しない方がマシだった。何か使えるかと思ったのにな。うっかり英語で返信したのが良くなかった。私が読めないのでは、どんな手紙にも意味などないわ。何で自国語にしなかったのか悔やまれる。いや、今はどうでもいい。西部はどうなんだ」
「はい、こちらの勢力は十分です」
「そうじゃない。向こうはやって来そうなのか」
「いえ、その兆候はありません」
「そうか、しかし油断するでないぞ。油断した方が先に負けるのだ」
「では、返信は如何いたしますか?」
「貴様、まだその話をする気か。まあいい。返したいなら適当に返しておけ」
「はい」
「おい、本気で返信する気なのか? はっは、笑えるな。今はそんな場合じゃないだろ! もし仮にだ。仮にお前が返信するというのならばな、その時はちゃんと私の言葉で『地球』と書いておけ。earthなんて字面は、二度と見たくはない!」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?