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私は、レッスン室で練習しながら先生を待っていると、初めて見るスカーフをした先生が遅れて入ってきました。先生は遅刻してきたにも拘らず謝らなかったので、どうして謝らないんだろう、あれ、なんか今日いつもよりオシャレしてる?と私が頭の中で考えていると、先生は言いました。

「どうしたの?大丈夫?」

怒らせようとしてわざとやったんだ、と私は思いました。今日は先生のお誕生日。そして少し前に喧嘩をしていました。最初はこの日がレッスンではなかったのに、先生の不自然なメールで日程を何度も変え、この日に落ち着きました。

レッスン後、近くのレストランに移動して二人でランチを食べました。私はセクシャルマイノリティのオフ会に行ったということを話すと、セクシャルマイノリティの話題になり、先生はこう言いました。

「友達にそういう人がいるから偏見ないけど、私はノーマルだから」

「先生と私って付き合ってるんじゃなかったの?」

「友達だよ」

「えー………。でもハグするぐらいならいいでしょ?」

私が先生をハグすると拒まれるどころか、指で目を擦っていました。

私はあっけなくフラれてしまいました。私の気持ちを踏みにじられたような憤りと、なかなか進展しなかった苛立ちからやっと解放されるという矛盾した思いが、頭の中で渦巻いていました。先生は、私が聞いても本心を打ち明けることはないでしょう。もしかしたら私は試されていたのかもしれません。

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