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先生は、退院してからもしばらくは体調が不安定でした。そのせいで、私との約束がなくなることがあったりと、私も精神的に不安定になりました。その頃の私はまだ自信がなく、もっと先生の気持ちをわかってあげられたらよかったと、今になって思います。

ある夏の暑い日、いつも通りレッスンが終わり帰る間際、私は勇気を振り絞りました。私は先生に歩み寄り、先生の細い身体を、ぎゅっと抱きしめました。しばらくの間、抱きしめていると、先生が呟きました。

「誰か見てるかもしれないよ?」

私は先生と顔を見合わせて言いました。

「ハグすると元気になるんです、本当だよ」

「ありがとう、嬉しい~」

普段はサバサバしている先生が、女々しく可愛らしい声で言いながら、指で涙を拭っていました。


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