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先生に期待したくなかったのと、もう一人でもやっていけるような気がしてレッスンを休会し、自ら距離を置きました。しばらくは先生に会わない、連絡も取らない、何もない平穏な日々が続いていたのに、ある日先生からメールが届きました。用も無く先生から連絡が来るのは珍しく、私は相変わらず嬉しくなってしまうのでした。

ある晴れた温かい午後、私は先生にもらったプレゼントと新しい楽器を持って出かけました。新しい服と靴、それに先生へのプレゼントまで用意して張り切っていました。久しぶりでも今まで通りの先生と私、何も変わらない私の気持ちと、嬉しそうな先生の顔に私は安心し、楽しい時間を過ごしました。

すると先生が、私が持ってきた楽器を吹くと言い出しました。私は、先生は潔癖症だとずっと思っていたので、それを聞いて驚きました。私は動揺を隠そうと平静を保ちつつ、楽器を渡しました。先生は私に、特別な何かを言うことはなかったけれど、とても楽しそうにしていました。私はとある出来事を思い出しました。

中学生の頃、吹奏楽部に所属していました。同じパートの女の子が、私物ではなく学校の楽器を吹いていました。私はわざわざ、その子が吹いているときに「練習したいから貸して」と言い、楽器を借りました。その子がどう思ったかはわからないけれど、嫌な顔をせず私に楽器を貸し、特に何もないただの出来事でした。けれど今思うと、私はその子と間接キスがしたかったのかもしれません。

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