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私は、先生がピンヒールの靴を履いているのが好きでした。職業柄もあるのかもしれませんが、先生はカジュアルは好まず、フォーマルな服装がほとんどでした。時には上品なジャケットに真っ直ぐなパンツ、大ぶりのアクセサリーとピンヒールのパンプスでバッチリ決まった先生は、外見からして仕事ができる女性そのものという感じで、私の憧れの対象でした。

先生は退院してからしばらくの間、スニーカーを履いていました。先生に似合わない真新しく真っ白なスニーカーは、歩きやすさを重視したものなのでしょう。私はそれを見て、心が締め付けられるような何かを感じました。

先生と喧嘩して以来、私は久しぶりに先生のライブに行きました。ライブが終わり外に出ると、他の出口から先生が出てくるのが見えました。私が声をかけようとした束の間、先生は私に気付かず、白いスニーカーでスタスタと歩いていきました。先生との距離を感じながら、痩せた先生の後ろ姿をしばらく見つめていました。

駅で電車を待っていると先生からメールが届きました。

「あなたの笑顔を見たら元気が出ました。ありがとう」

私は涙が溢れて止まりませんでした。

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