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子どもの問いからはじめる文学教材の授業ー問いの質の高さとその方法(内山,2023)

0 きっかけ(レビュー者)


 本論文はタイトルにあるように、子どもの問いからはじめる文学教材の授業の「問いの質の高さ」と質の高い問いをつくることができるための「手立て」について書かれている。
 国語の文学教材を扱う際、多くの指導書には、最初に作品を読んだ感想(初発の感想)を書かせるという学習過程がある。では、なんのためにそれをするのだろうか。初発の感想が今後の学習過程にどのように関係するのだろうか。
 恥ずかしながらレビュー者は何年も経ってからの意義を実感してきた。レビュー者はその意義を①児童の興味関心を知る、②児童が単元の振り返りに初発の感想と比較できるという2つだと考える。
 本論文では、この初発の感想から問題意識を共有し「問い」をつくることに焦点を当てている。

1 問題と目的

  • 文学的な文章を扱う国語授業の多くは、教師が予め単元を構成し、一単位時間の授業も教師からの発問で進められていくことが一般的である。

  • しかし、児童は、教師からの発問がなければ読み深めたり、読みを楽しんだりすることができないのだろうか。

  • 学習者主体の授業を考える上で「問いづくり」は有効な手段の一つであると考えられるが、問いづくりに関する実践はあまり例が多くない。

  • 授業として文学を扱う以上、達成すべきねらいが必要であるが、児童に問いをつくらせた際「活動あって学びなし」の授業になってしまうという不安が教師にあるからではないだろうか。

  • そこで、児童がつくった問いの質の高さを検討するとともに、質の高い問いを児童がつくれるようになるための方略について検討していく必要がある。

  • 問いづくりの手法についての実践を見てみると、初読の感想を活用して問いづくりを行う場合と、初読の感想を交流してから問いづくりを行う場合がある。

  • 前者については、一読で物語の内容の大体を捉えていないと問いをつくることは難しい。一方、初読の感想を交流する時間を確保することは、より質の高い問いをつくるのに有効なのではないだろうか。

  • さらに、“ 個人で問いをつくる ” のではなく、“ グループで問いをつくる ” ことで、交流を通して読みが深まり、より質の高い問いがつくれる。

  • 本研究では、初読の感想を交流し、グループで問いづくりを行う。

  • 「質の高い問い」とは、①適度に深い問い(適度なズレ)、②テクストを根拠にして考えられる問い、③多様な解釈・読みが可能な問い、④国語科の指導事項に関わる問い、の4つである。

  • 本研究では「大造じいさんとがん」と「海のいのち」の教材をもとに、問いづくりを行い、児童の問いを「質の高い問い」の4観点で分類した。

  • 例えば、前者の教材であれば、「なぜはやぶさと戦っているときに、大造じいさんは撃たなかったのか」「なんで大造じいさんはがんを助けたのか」は質の高い問いのどれにもあてはまる。

2 結果

  • 児童たちが出す問いは、国語科の目標から大きく外れるものは少なかった。

  • また、対話をし、問題意識を共有することで、様々な読みの視点を獲得し、より意欲的に学習に取り組んでいた。

3 成果と課題

  • 「多様な解釈・読みが可能な問い」、「指導事項に関わる問い」など、より質の高い問いが出される可能性が確認された。

  • 対話を通して “ 読みの視点” が広がることも明らかになった。

  • 自分で疑問に思ったことを「問い」として持ち続け、授業中にとどまらず、家庭学習でもその問いを解決しようとする姿が見られた。

  • これは、児童がテクストに主体的に関わるようになった姿であり、学習者の意欲面に関しての有効性をも示唆している。

  • 「問いづくり」を行うと、グループの対話とグループでの問いづくり、そしてクラス全員で話し合いたい問いの選択までを行う必要があり、単元が長くなってしまうことである。軽重をつけて指導するなど、単元構成に工夫が必要であろう。

  • また、「問いづくり」によって児童の読みがどのように変化し、国語科の学習においてどのような作用を及ぼしていくのか、そして、「問いづくり」によって児童の “ 生涯を通じて読書に親しむ態度 ” の育成にどれだけ寄与しているのかなど、検討すべきことは多く残されている。

4 所感(レビュー者)


 本論文では、「質の高い問い」を①適度に深い問い(適度なズレ)、②テクストを根拠にして考えられる問い、③多様な解釈・読みが可能な問い、④国語科の指導事項に関わる問い、の4つとしている。また、「その方法」として、初読の感想を交流し、グループで問いづくりを行うことを論じていた。
 レビュー者は、哲学対話という手法を国語科でも取り入れた実践を行っている。この手法を取り入れた国語の授業は、児童も教師も気づきが多く、何より「子どもも先生も楽しい授業」である。しかしながら、著者も記している通り、「活動あって学びなし」「そもそもその授業は国語なの?道徳なの?」という批判もある。
 先行研究を探している際にこの論文に出会った。
 著者と同様、レビュー者も教材を読んで感想を共有しながら問題意識を高め、グループで問いをつくることをしている。しかし、これも児童の段階に合わせ、実践を重ねるごとに、児童たち一人ひとりに問いを出させることもいいのではないかと本論文を読みながら考えた。
 もちろん、最初は全体で、あるいは教師が質の高い問いを示すことも必要である。しかし、最終的には一人ひとりが自分の問いをもち学習してほしい。
 本論文では、児童が個人でつくった問いから、グループで問いをつくる研究をしていた。そのつくった問いをどのようにクラス全体の問いにするのか、またその問いで対話をしたり、児童がどのような学びをしたのかは示されていない。ここに今後の可能性を感じている。

内山季方(2023)「文学的な文章教材における「問いづくり」の研究─グループでの「問いづくり」で質の高い問いをつくることを目指して─」『国語教育探求』36 巻 pp. 18-25
https://www.jstage.jst.go.jp/article/expjlt/36/0/36_18/_article/-char/ja


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