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芥川賞と直木賞とギャラクシー賞の兄妹

「お子さん、3人とも立派に育って羨ましい限り」
「いえいえ、そんなことは……」
「偉大ですよ。近いうちにお母様の本を出したい、そう思っております」
「……困ります」
雑誌取材のライターからの賛辞に、いつも母親は謙遜する。それもそうだ。

長女の小枝は、18歳の若さで出した処女作で芥川賞を受賞した。目の前の光景がみずみずしい筆致で鮮やかな比喩を交える文体、現代を切り取ったテーマを評価された。

その弟・幹人は、驚きのどんでん返しとエンターテイメント性溢れるスパイ小説で、3度目の正直を成し遂げて直木賞を手にした。映画やドラマ化もされ、老若男女の支持を集めている売れっ子だ。彼もまた、現代を切り取ったテーマを評価されている。

そして、アタシ。専門学校を出てからお笑い事務所の養成所に通い、構成作家になった。人前がどうにもこうにも苦手だったのだ。
ただ、運良く同期の芸人が始めたYouTubeの作家に呼ばれ、このコンビは賞レースを総なめ。
なぜか彼らのテレビやラジオといった冠番組の作家になった。
運だ。諦めの悪さだ。アタシは何もしていない。

そんなアタシが構成を務めたラジオの企画がギャラクシー賞を取った。放送メディアに関わる賞だ。
関係者は喜んでくれたが、母や姉、兄は呆れていた。

泣けるベッドタイムというエロコーナーだったからだ。
夜の営みでの情けないエピソードをリスナーから募集するものだが、これが大きな反響を呼んだ。現代性はあるのだろうか……。

受賞後。
今までアタシの仕事に口出ししなかった母が初めてアタシに言った。
「あんた、まだそんなことやってるの?」

ビジネス雑誌の表紙を飾ったアタシたち3人と母が寄り添う写真。
見出しに大きく被るようにアタシの体の2/3が覆われていた。


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