【ショートショート】僕は何百回でも空の旅に出る

気づいたら空の上にいる。私はパイロットだ。しかし、万年『副』操縦士。
とにもかくにもポンコツだ。
雲を見ると酔ってしまう。耳抜きができない。ハンドルやボタンの操作も覚えられない。
こんな奴は正パイロットになれない。なれるはずがない。ストレスが溜まる一方だ。


そんな私が今、ハイジャックをしている。
「今すぐ操縦席を変われ!!」
パイロットも乗務員も驚いている。ハイジャック犯が顔見知りなのだから。

「いいから早く!」
初めて操縦席に座る。耳の痛みをこらえながら絶頂を味わう。
これ以上気持ちいいことはない。もうどうにでもなれ。
すると、意外にも今日は酔わない。雲がきれいにさえ見える。
行ける!

子供が走ってくる。
「やめて、お兄ちゃん!」
子供の同情なぞ聞く耳を持たない。

川へ向かってジャンボジェットは急降下していく。
もう死んだっていい。乗客もろともだ。行け!

気が付くと、風俗で美女に骨抜きにされていた。
お風呂で泡まみれにされて耳をなめられている。
「やめてくれ!!」
僕はハンドル操作を誤って、不時着してしまった。ほんとにポンコツだ。


さぁ。明日からまた、海外出張が待っている。




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