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煙りまく足場にいつまでいるか

真冬の寒空の下、屋外の喫煙所で吸うタバコは実に美味い。カレーライスを食べた後の次ぐらい、だ。

喫煙者の身分が危ぶまれるようになってからは、はみ出し者たちがそろって足場を守りながら世間にため息を吐くさまも滑稽で好き、だ。しかし、その一人が自分であるということも頭をよぎるからタチが悪い。

宮前君と再会したのも喫煙者だった。西武新宿駅近くの端に追いやられた場所だ。宮前君は潰れたニキビ跡が残り、どこかあどけなさがあるが生粋のシティーボーイで今はプロスケートボーダーを目指しているとか、なんとか。

「お前、何やってんの? スポンサーとか知らない?」
「アタシ、フリーターだよ……」
「昔からお前、そういうの知ってたりしたじゃん」
「知らないし」

昔のアタシをどう思っているか分からないが、確かにアタシは生徒会長をやっていた。ゴリゴリにマニュフェストを掲げて。

あんまり他人には言ってないけれど、政治っぽいこともしようとして、選挙のスタッフから入り、議員秘書までやっていた。
でも、政治家の大半はアタシの体目当て。例えじゃなくて、今は相当有望な政治家に唾を吐いて逃げてきた。そいつはキレイなオーダーメイドのスーツズボンを完全に下ろしていた。

そんなこんなで今はフリーター。宮前君と同じ。
でも彼は来週の大会で優勝すれば、次のオリンピックに出られるかもしれないらしい。
「ま、人生逆転ですわ」

バミられた足形から去っていく姿はオリンピアンのそれに見えた。でも、アタシは見る目がない。

次に宮前君に会ったとき、彼は車いすに乗っていた。
「……久しぶり」
「…………」
黙っていた彼は痺れを切らしたのか、ニカリと笑った。

春の風がタバコの煙を運んできたように煙かったのを覚えている。
アタシたちは二人で歩くことにした。

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