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二大政党制批判を批判してみる。

一党優位多党制のメリットを書き連ねた著者だが、そのデメリットには触れられていないようなので、ここで明示してみようと思う。
 
 自民党は1955年の党結成から続く55年体制を維持し、約8ヶ月間の政権を失う時期はあったものの、民主党に政権を奪われるまでは、ほぼ不変の政権与党として日本の政治を担ってきた、と同時に経済界の業界団体と癒着し、官僚とも癒着を極めた。つまり長い間一つの党だけが政権を担ってしまったがゆえに、あらゆる業界団体の利権が集中してしまい、特定の団体や官僚が利益を享受する構造が継続されてきたのである。
 
 これらの利権は派閥間の争いだけで解消できるものではない。
 官僚は大企業に天下り先を確保してもらい、その見返りに大企業に有利な法の発議や解釈を行い、また各業界団体には随意契約を横行し、国民の税金を垂れ流すようになった。
 
 特筆すべきは福島第一原発事故である。
 
 東京電力と癒着した経済産業省が内部に原子力安全保安員を作り、いかにも原発の安全管理を行っていると見せかけ、結局は安全管理など行っていなかったどころか、国会において共産党議員に津波による外部電源喪失の懸念を指摘されるも、その危険性を否定し、安全を主張した。当時の安倍首相も「外部電源全喪失などありえない」と言い切ってみせたのだが、その結果は知っての通りである。
 それだけではない。欧米先進国では電力の発電・送電に関しては分離し、多数の企業による発送電の電力供給競争を促すことでの電気料金の低料金化を果たしている。しかし、日本では電力会社が独占して発送電を行っており、電気料金は高額のまま維持され、それを経済産業庁が黙認する図式となっていた。もちろん東京電力は経産省官僚たちの最大の天下り先である。つまり、官僚は自分の利益のために国民の利益を犠牲にしてきたのである。

 公務員は国民のために仕事をするのであって、彼等の利益のために働くのではないはずだが?

 これは一例だが、政治家・官僚・経済団体の癒着は無知な国民に見えない形で大きな利益構造を建設してきたのである。

 こういった官僚独裁にメスを入れる手段が小選挙区制導入による二大政党制への転換であり、それによって導かれやすい定期的な政権交代であった。
 自民党から民主党へ政権与党が変わることにより、政・官・財の癒着を解消させる重要な目的があったのだが、いざ政権を取ってみると、データは官僚が握っており、データが無ければ政策が打てないというジレンマに気づかされ、結局、政治主導で政権運営を担おうとした民主党だったが、官僚の軍門に降らざるを得なかった。結局、官僚主導の政治に戻ってしまったのだ。
では、二大政党制は間違いだったのか?と問えば、決してそんなことはない。
自民党が政権を握り続けるということは、すなわち大企業で働く労働者や企業経営者ばかりが既得権益を享受する構造は変わらず、中小企業で働く中間層以下の労働者の利益は失われたままとなり、挙げ句、収入格差の拡大、相対的貧困率の悪化を招き、多数派が疲弊していくのである。
 
 定期的に政権交代が繰り返されれば、利益の浄化作用が働き、バランスの良い社会が構築され、大企業のサラリーマンと中小企業のサラリーマンの間に鎮座している格差の是正が期待できる。
 
 しかし、日本には自民党の票田は確かなものがあるにせよ、民主党の票田は不確かで、浮動票に頼らざるを得ないきらいがある。

 自民党ならば、各業界団体(道路族、建築族、経団連、経済同友会、日本商工会)の票田が期待できるが、民主党は労働組合(連合、自治労)である。日本では労働組合はかなり分断化されており、世界の先進国の中では極めて弱小な団体である。その多くは大企業の内部に設けられた企業内労組ばかりで、中小企業の労組に至っては御用組合ばかりで機能不全に陥っている労組が多い。もちろんほとんどの中小企業は労働組合を持たない。さらに個人加入型の労組(全労連)などは共産党を支持しているといった状態で、労働組合自体が分裂し、決して一枚岩ではない。票は自民にも民主にも共産にも渡る状況である。
 世界で二大政党制を持つ国では、それぞれ経営者や財界の利益を代表する中道右翼政党か労働者や労働組合の利益を代表する中道左翼政党の2つの党による二大政党制となっており、それぞれが拮抗した票田を持つ事で、定期的な政権交代を実現し、市場原理と再配分を入れ替わりで機能させているのである。また中道であることが浮動票を呼び込むので、極右も極左も浮動票を得づらいことを考えると共産党が政権を取ることは夢物語と言えるだろう。
 
 日本で二大政党制をこれからも継続していくなら、全労連などの労組が極左的な共産党を支持するのではなく、中道左翼的な立場をとる民主党を支持しなければ現実的に労働者の利益を政治の舞台で獲得するのは非常に難しい状況と言えるだろう。さらに、労働者が個人加入型の地域別や産業別労組へ相当数が加入しなければ、自民党がこれからも選挙で勝ち続け、財界ばかりが利権を蝕み、労働者は疲弊していく一方である。
 非正規雇用が全労働者の4割を占める昨今では、非正規労組の拡大は必須と言えるだろう。

 二大政党制をうまく機能させるためには、雇用されている労働者一人一人が賢くなり、投票行動に移さなければ、選挙における立候補者の公認権を持つ時の官邸(派閥)の独裁を許すことになるだろう。

 すでに日本は一党優位性で失敗してきた事実を忘れてはならない。
 
 

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