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財金委:世銀増資法案 質疑(野田佳彦2019/03/15)

国際通貨基金及び国際復興開発銀行への加盟に伴う措置に関する法律の一部を改正する法律案【衆議院財務金融委員会】※要旨

G20 議長国として冷静な議論を

○野田佳彦委員 前回、関税定率法の質疑の一番最後に、G20で経常収支を議題として取り上げる意味とその立ち位置についてお尋ねした。今審議している世銀増資法案の日切れ扱いの理由は、4月10日からワシントンで始まるG20財務大臣・中央銀行総裁会議と世銀・IMF春季会合に法案成立を間に合わせるためと聞いているので、G20について改めてお聞きしたい。
 経常収支がG20の主要な議題になるのは9年ぶりのことだ。2010年の秋、韓国・慶州でのG20会議に私は財務大臣で出席した。そのときアメリカが、人民元がドルにペッグしている感じで経常収支を為替を通じて調整できないいら立ちがあったと思うが、経常収支をテーマにして具体的な提案があった。会合初日に、2015年までに経常収支が黒字でも赤字でも、その幅を対GDP比の4%以内におさめようという提案を、アメリカの当時のガイトナー財務長官と議長国の韓国が共同提案してきた。
 そのときに私が主張したのは、経常収支は民間のセクターも含めてさまざまな主体がかかわっていることであり、その結果出てくる数字で、政府がコントロールできるものではないこと。特にアメリカは経常収支の中で貿易収支を中心に考えているが、所得収支やサービス収支もあり、日本の経常収支の黒字は日本企業の海外子会社からの配当などによる所得収支が9割くらいを占めていること。そういう事情なども言って、コントロールできるものではないと申し上げ、ドイツや一部の新興国なども同様の意見を言って、結局、数値目標が見送られた経緯があった。
 そういう議論が9年ぶりに持ち上がってきたのは、やはり米中の貿易摩擦が世界経済減速の大きな要因になってきたからだ。
 貿易収支ばかり考えて、しかも2国間の問題で捉えようとするアメリカの姿勢に対して、マルチの舞台で「冷静な議論をしようよ」と言うところに意義があるのだろうと思う。「2国間の問題ではない」「経常収支の中にはサービス収支や所得収支もあり、そういうものをちゃんと分析しよう」「貯蓄・投資のバランスの問題、それぞれ固有の問題もあるのではないか。アメリカは貯蓄不足ではないか」と、ストレートに言うかは別として、冷静に、マルチのところで「冷静な議論をしていこう」と言うところに、今回のG20で取り上げる意味があると思う。
 アメリカだけ追いやって1対19の構図で追い詰めるのではなくて、冷静にアメリカにも問題意識を共有してもらうところに主眼があるのではないか。見解を伺いたい。
○麻生太郎財務大臣 基本的に、そうだ。
 経常収支の不均衡は財務大臣・中央銀行総裁会議において2010年以来の話だが、その背景は、あのときは持続不可能な経常収支の不均衡が拡大した結果、2008年のリーマンブラザーズの破綻、世界金融危機につながったのではないかという話が背景にあったと思う。
 過度な経常収支の不均衡は是正しないといけない、これは再認識しなければならないということになってきていると思うが、今の世界経済の大きなリスクは、米中2国間における貿易収支に偏った貿易紛争だ。
 日本の場合は85年のプラザ合意以降、所得収支、海外投資の利息・配当などで経常収支が黒になっており、ほかにも特許収支やサービス収支などいろいろな収支があり、貿易収支に偏った議論はいかがなものかと。結果としての経常収支で考えないといけないし、2国間だけの話ではそんなうまくいかないので、全体でバランスすることを考えないといけない。そういう当たり前の話をしないといけなくなってきているのではないかと思っている。
 かつてアメリカの対外貿易赤字の50%が日本、今は中国が50%。中国と日本の位置が置きかわった形になっていると思うが、いずれにしても貿易収支に偏らず全体としてのバランスという話をG20の場でしておかないと、2国間だけの争いでほかの国が全部影響されるのはかなわんというのが正直な実感だ。
○野田佳彦委員 ぜひ議長国・リーダー国として、世界第1位と第2位のトラブルを、第3位が議長国となって、新興国も先進国も入った中で、冷静な建設的な議論ができることを期待したい。

世銀・卒業基準の厳格運用

○野田佳彦委員 世銀にかかわることを質問させていただくが、日本は新幹線を初め、農業用水、ダム、高速道路など、随分世銀にお世話になり、「アジアの奇跡」と言われる戦後の復興を果たすことができた。そこから卒業し、今はまさにドナー国、出資額も第2位で大きく貢献しているが、そういう卒業生をどんどんつくっていくことが本当は大事なことだ。
 卒業国は数十カ国ぐらいあると思う。卒業要件があるはずだが、運用がちゃんとうまくいっているのか心配だ。それぞれ借りている側の自主的な判断も入ったりするようだが、厳格に適用しなければいけない。先ほど来、中国の話なども出ていたが、随分留年している国もあるのではないか。あるいは、支援は一回終わったが、また厳しくなったと復学してくる国もあるように思う。
 やはり要件は厳しくしっかりと厳格に適用することが大事ではないかと思うが、大臣の考えをお聞きしたい。
○麻生太郎財務大臣 世界銀行(IBRD)の支援基準では、1人当たりGNIが6895ドルより高い国は卒業してくださいとルールは決まっているが、私の知っている範囲では、卒業するルールについて正式な議論をしたことはないと思う。
 今回の増資に関して、この卒業政策を厳格にやれと。中国は8690ドル、明らかに卒業しているのに、都合のいいときには途上国になり、都合のいいときは先進国、そんな都合のいい話ばかりあるかと申し上げた。
 いずれにしても、こういったものを厳格にきちんとやると、1100ドルとか1200ドルのところにかける資金の余裕が出るので、そういったような形から、将来的な卒業の枠組みは合意されているのだから、これをきちっと実行する形にさせていきたい。

世銀総裁人事

○野田佳彦委員 その中国に対して「もう卒業しろよ」と主張しているのが、次の総裁候補と言われている今の米財務次官だ。彼は中国だけではなく世銀全体についても厳しい人だ。もし彼が総裁になったら「キツネがニワトリ小屋の番をするようなもの」と評されているぐらいで、なかなか劇的な変化が起こるかもしれない。彼と大臣はたしか2月にお会いになっているが、大臣はこの財務次官を推していく立場か。端的にお聞きしたい。
○麻生太郎財務大臣 デービッド・マルパスの名前が向こうから上がってきたのはだいぶ前だが、スティーブン・ムニューシン財務長官からの推薦があった。デービッド・マルパスは財務次官補・財務次官として結構長いことあそこにいるので、中国に対して厳しいところは当時からはっきりしていた。
 少なくとも、経験はまずアメリカの中で一番。世銀などに関して、対中に限らずいろいろなものに関して、いろいろ意見がはっきりしていた。世銀の運営についても精通している。我々としては今回の増資に関してずっと交渉してきた相手でもあり、例えば卒業の話にしても、気候条件の話にしても、アメリカが反対であっても世銀の中ではやらないといけないことについて合意をしていたので、私どもとしては世銀の総裁としてはふさわしい人物ではないかと思っている。
○野田佳彦委員 ふさわしい人物として日本は基本的に認めていく方向なのだろうと思うが、前総裁のジム・ヨン・キムさんは、どちらかというと世銀の中でも気候変動の問題、地球温暖化問題のプロジェクトなどを熱心に推進してきた方だった。トランプ政権はパリ協定から離脱するなどの動きがあり、おそらくマルパス財務次官も同じような立場で、むしろ気候変動対策・地球温暖化対策は後退していく気がするが、その辺についてのお考えはどうか。
○麻生太郎財務大臣 キム氏はもともと銀行屋ではなく、大学の学長をしていた医学者で、銀行や金融には縁のない人だった。世界銀行の中での組織運営もさることながら、世銀と日本が一緒にやろうとしているユニバーサル・ヘルス・カバレッジに熱心だったり、感染症の権威であり、気候変動に関心があったという印象だ。
 デービッド・マルパスはそういう人ではなく、官僚であり、財務省等、金融関係・財政関係にずっといた人だ。世銀の中において、気候変動のことに関して優先順位が高いかといえば、キム前総裁のように高いという感じはしないのが正直なところだ。
 増資するに当たっての当時の交渉相手がマルパス氏だった。当時は総裁になるなんて全く思っておらず、キム総裁がやめるなんて話も全くなかったので、増資に当たっては気候変動関連の支援割合を28%から30%まで上げる話にアメリカが乗ってくれるという条件で話をした。今度の報道を見ても、世界銀行は気候変動対策関連の融資を推進する現在の取り組みを継続することができると期待をしていると自分で述べているので、そういった意味では増資のときの約束をそのまま履行してくれるものと思っている。
○野田佳彦委員 世銀の総裁は始まって以来ずっとアメリカ人、一方でIMFトップの専務理事はずっとヨーロッパ人。暗黙のすみ分けのように、世銀はアメリカ、IMFは欧州。
 日本は、IMFの副専務理事、世銀副総裁、OECD事務次長など、ナンバー2ぐらいにはいる。出資の割合など厳しいのかもしれないが、ナンバー1を狙っていくべきではないか。この間の質問で、国際機関に勤める日本人が少ないとあったが、国際機関のトップに立って日本人が頑張っている姿を見せることで、若い人たちが国際機関に関心を持つのではないか。
 かつて、石井菜穂子さんという大変優秀な官僚がいて、地球環境ファシリティの選挙のときに随分選挙運動をやった。アジア開発銀行総裁のときもそうだ。戦略的にトップをとりにいくことも心がけてはいかがか。お考えをお聞きしたい。
○麻生太郎財務大臣 IMFがヨーロッパ、世銀がアメリカ、アジア開発銀行は日本。これまでの経緯で何となくそういったものが一応決められている傾向があるのは事実だ。
 こういったものをやろうというと、それなりの知見なり経験なり、いろいろなバックグラウンドも必要なのだと思うが、石井菜穂子は地球環境ファシリティのCEOになって頑張っている。アジア開発銀行も黒田総裁の後に中尾がなり、今日まで総裁として頑張っている。国連の多数国間投資保証機関・MIGAでは本田桂子という日本人女性がトップをやっているが、それぐらいしか浮かばない。
 いずれにしても、英語が話せるだけでなく能力もある日本人もいっぱいいるが、そういった人が国際機関に行く気になってくれないといけないので、バックアップする雰囲気をつくらないといけない。結果的に国際社会における日本のプレゼンスが上がっていくことにもなろうかと思うので、引き続きそういった面は十分に検討していきたい。

(以上)

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