誰か褒めてください。私は一つのプロジェクトを潰そうとしました。

「嫌な予感がします」

大分前ですが、得意先のある部署からシステム開発の相談を受けました。

内容を聞いて「あ、嫌な予感…」と思いました。

数年前に流行ったけれども、最近は評判が悪いと私が認識していたものだったからです。

調査しました

感覚でモノを言うのは苦手なので、見積もりの傍ら調査をしました。他企業でそのシステムがどう事業に貢献しているかの調査です。

集客に関するものなので、コネと頑張りで数値を集めることが出来ましたが、実はコレは結構大変でした。とても仲の良い会社さんなので良かれと思って頑張りました。

それは役に立たなそうでした

結果、そのシステムは事業に貢献していないと判断できるデータが出てきました。

また、ビジネスを取り巻く環境の変化にそのシステムが対応出来ていないことも客観的に説明が付く状況でした。

とても良くやれば上手く行くこともあるかもしれません。が、それは最終回で逆転しなければ敗けるゲームに挑むようなものです。

「いまさら出来ないとは言えません」

簡単なレポートにして「このシステムはダメそうです」とミーティングを設けて報告しました。

レポートは簡潔で説得力があるものだったと思います。レポートを見てプロジェクトリーダーは絶句していました。

が、次いで出た彼女の言葉は、

「でも、もうプロジェクトの承認はされています。予算もついています。いまさら出来ないとは言えません」

というものでした。

その言葉は私にはとても重く聞こえました。その声は心を絞って出しているようでした。

単に私が「いまさら出来ないとは言えない」という言葉に思い入れがあるだけかもしれませんが。

彼女の立場は分かります。何日も掛けて企画を練り上げて、頑張って説得して通したプロジェクトです。

その企画書はとても偉い人の所まで届いて、プロジェクトに期待を掛けられている状態です。

前回彼女の手がけた仕事は大成功をしているので、とても大きな期待を掛けられていたことでしょう。

「折れるわけには行かない」

彼女の立場は分かります。分かりますが、だからこそ私は折れるわけには行きませんでした。

彼女は頭が良い人なので、会社に貢献できるのはどの決断なのか、長期的に得な立ち回りはどちらなのか、理解してくれるはずです。

その場で色々な数値を出しながら「1年後、2年後だとこんな成績になりそうですね。コレを報告するのは厳しくないですかね……」等と色々ディスカッションを重ねました。

やるにはやる。が、方法は未定

結果、プロジェクト自体が白紙になる事はありませんでした。

「やるにはやる。が、方法は未定」という状態です。

解決策が間違っているだけで、解決したい課題自体は正しいものでした。妥当な結論です。

とは言え、解決策ありきのプロジェクトだったので、代替案を見つけるのは非常に難しい状況となりました。

お通夜のようなミーティング

そのミーティングの終盤は出口のない部屋で出口を探すように、議論が堂々巡りになったり、皆が黙りこんでしまったり、重い空気に支配されました。

その空気を引き起こした私も心が痛み、ついでに私の財布も痛む事になりました。受注ほぼ確実の案件が一つ保留になり、未だに音沙汰が無いのですから。

でも必要でした

でも、私は必要な事をしたと思っていますし、彼女も適切な判断をしたと思います。偉そうですが。

私は上司が「いまさら出来ないとは言えない」と突っ張って、大きなお金を無駄にしたプロジェクトを知っています。その時は止めることは出来ませんでした。

更に恥ずかしいことに、私自身も「いまさら出来ないとは言えない」と無理筋を押し付けて、優秀な部下に見限られたことがあります。

適切なときに方向転換が出来ないと大変な目にあう事を、事例からも自身の経験からも知っているので、今回は未然に防げて良かったと考えています。

褒めてください

ので、誰か彼女を褒めてください。

外部の人間のくせにプロジェクトを潰そうとした私が褒めても、煽りにしか聞こえません。

「忠告通り中止を決定しましたか……。なかなか勇気ある決断ですね。素晴らしい!ワーッハッハッハ!!」

これは悪役の台詞です。

だから、誰かが彼女を褒めて欲しいです。できれば彼女の同僚や上司が。

「すみません、色々あってやっぱり無理でした」をキチンと言ってきた時、「えぇーー?期待してたのに!」の気持ちは勿論あります。ですが、そこに合理性があれば褒めるべきです。

その言葉を発する時は、過去の自分を否定して、今の自分の評価が下がる事を覚悟して、割り切れない思いに蓋をして、やっとの思いで言葉にしているのかもしれません。

褒めないと、お金と人を失う

その言葉を叱り飛ばすと、失敗が分かっていても「いや、いまさら無理とは言えない」という空気がはびこります。

これは、問題を先送りすることに他なりません。

問題が解決不能な状態になったタイミングでは、当初とは比較にならない大きな損失を産みます。

また、大抵の場合それを引き起こした当事者はその前に離職してしまいます。


以上、誰かに褒めてほしくて書きました。

ついでに私のことも、何かいい感じにそれっぽく褒めて欲しいです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?