木星衛星軌道都市マルドゥーク(『早稲田短歌』47号収録)
衛星や小惑星を建てて住み太陽系に足場を伸ばす
星ごとに暦はずれて人間の争いの種になることもある
朝晩と粉を溶かして茶を沸かす衛星労働向けのチープな
金持ちの代替労働力どもと肩を並べる階級に生き
同僚の疲れた顔に手を振って 疲れちまった空気を吸って
定まった休暇と娯楽この星のあらゆるものが部品に見える
合理的仕組みだという本国のエリートによる世界のすべて
月軌道土星軌道にも親戚はいるけど互いに気兼ねしている
マルドゥーク木星歴の正月に地球でとれた緑茶が届く
鎮圧は治りきらない傷だから上の世代に牙はもうない
碑銘なき共同墓地よ没年は等しく独立闘争の年
血でできた碑ではないのか艶やかな黒いキューブは行儀良く立つ
三世代かけて築いた衛星に酸素のような管理は満ちて
人類のためなんだろう俺たちは木星圏の人類なんだ
冗談じゃねえ って 吼え立ててやれもう一度どうして地球ばかりが青い
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