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時間の無い夜〜11.27 ROTH BART BARON@名古屋城・本丸御殿中庭

様々な場所やスタイルでライブを行っているROTH BART BARON。今回、名古屋城の秋の夜間特別公開の企画「音と光と名古屋城」に出演し、名古屋城の本丸御殿中庭でROTH BART BARONを観るという滅多にない機会を得た。ブッキングを担当したのは「森、道、市場」のイベンターjellyfish。つくづく、この都市の音楽カルチャーを面白くしている重要なチームである。

そもそもはアートディレクターの服部浩之が手がけたこの企画。コンセプトは「景 NIGHT AND LIGHT」。「景」という文字が“ひかり”と“かげ”というふたつの読みを持つことをモチーフとし、闇の中に光を、光で際立つ闇を、というコントラストが意識された空間演出が名古屋城の至るところに示されていた。同時開催の「二の丸庭園 特別観覧」のライトアップもそれに則したもの。

庭園の演出を担当したのはPERIMETRON。King GnuやTempalayの演出でお馴染みなのでどんなサイケデリック空間にしているのか、と思っていたが光と影を厳かに、時に無機質に操る見事な美しさだった。そしてD.A.Nの櫻木大悟が担当した会場の音楽が没入感を高めてくれていた。庭園は宇宙を表現しているということもあり、スペイシーな彼の音遣いは抜群にマッチしていた。


すっかり名古屋城の夜に浸りきった後、天守閣方面へ向かう。まるで討ち入りのような高揚感を抱えながら、夜の中にぼうっと存在感を示す天守閣を眺めた後、いよいよライブ会場へ案内される。あまりの寒さだったのでカイロとブランケットをいただいて入場すると、かなりインパクトのあるのステージが眼前に。まるで櫓のようだし能舞台のようにも見える。ほとんど神事じゃないか。

ボーカルギターの三船雅也とキーボーディストの西池達也によるデュエット編成による今回。ゆっくりと音を重ねながら始まった「ウォーデンクリフのささやき」、その浸透度にのっけからうっとりした。しんと静まり返る寒い夜の空気に放たれる音色はとてつもなく純粋なものに聴こえる。なめらかなエレキギターが揺らぐ「みず/うみ」で、より一層にその透明度の高さを実感する。

《夜にこころを とかして》という歌い出しで始まる「みず/うみ」もそうだが、ロットの楽曲には夜をテーマにしたものが多い。三船がアコギに持ち替えて奏でられた古くからの1曲「Skiffle Song」もそう。歌の中にある花火は実際にはないが、瞬きながら発される音楽はそれに匹敵する輝きを持っている。遺構に囲まれた中で“記憶”にまつわる曲を聴く、そんな情緒も混ざってくる。


自然回帰的なことを歌う曲はもちろんのこと、ディストピア的な世界観を持つ楽曲が意外にもこの会場にとても映えた。その青春SF的なモチーフからして日本城には本来似つかわしくないはずの「電気の花嫁(Demian)」が、歪みきったアコギでガシガシと心を揺さぶってくる度に戦禍で燃え落ちた天守閣を持つこの場所のイメージが重なり土地の持つ記憶たちが強く胸に迫ってくるのだ。


音楽が潜在的に持つ神秘性を引き出すようなこのライブ。夏の青空を想起する「BLUE SOULS」は、最高密度の青色、を誇る夜空を想起しじっくりと胸に染み入る曲として届いた。「赤と青」は、混ざり合うその色彩、紫がかった今この瞬間の空のシーンと渾然一体となってこちらに届く。雑味のない空間ゆえ没入感も凄まじく、詩の輪郭がいつもよりくっきりと見えるように思えた。


後半「Ubugoe」以降はたまたま名古屋でライブをしていたトランペッターの竹内悠馬が急遽参加してトリオ編成に。この流動性、素晴らしすぎる。更に美しい音色が重ねられたアンサンブルが豊かに広がっていく。惜しくもそのタイミングでは月が隠れてしまっていたが、「月に吠える」は夜に鳴る歌として圧倒的な説得力を誇っていた。メッセージ性がしなやかに強化されていく。


ライブは終盤。「極彩 I G L (S)」の力強い鼓舞は、凍えた体をじっくりと温めてくれる。そして最後の「けもののなまえ」では三船がハンドマイクに持ち変え、櫓に腰掛けるように歌い始める。城の中庭で腰掛ける観客と、櫓の上で舞うように歌う演者となるとどうしても“指導者”ぽく見えがちなのだが、この日は同じ空間で同じ目線でともに語り合うような瞬間を共有できたように思う。


アンコールでも3人で登場。「熱いやつやるわ」と三船さんが言って歌われた「鳳と凰」では歌い出しからクラップが飛び交う、もっと“祭り”的な高揚感をもたらしてくれた。そして最後は、ライブのエンディング定番の「アルミニウム」。静謐な祈りが滴るようなこの1曲。大勢で観ているはずなのに、圧倒的にぽつんとした気分にさせてくれた。終演時、気づけば80分が過ぎていた。

“神事か?”と問いたくなるような雰囲気で始まったこのライブだが、ロットが歌うのはむき身な人間の生き様そのもので。軍用地であった歴史も持つこの光り輝く遺構を背に、歌に込められた未来を思う眼差しが真っ直ぐにこちらに届くとそこに様々な時間軸が立ち並んでいるかのようだった。まるで時間の存在しない夜。数日経てどもあの日の温度と格別な余韻をずっと噛み締めている。


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