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完璧な彼女(ショートショート)

今日は彼女と初デートである。

彼女とは1ヶ月前にマッチングアプリで出会った。
名前はアイという。
とても美しい女性だ。
艶やかで長い黒髪。大きな眼に高い鼻、上品な口元、
透き通るような白い肌に、少し華奢だが程よく張った胸とヒップ。
そして表現がやや下品なのを承知で言うならば、
腰のくびれ具合、ラインがとても艶めかしい。

完璧な容姿。

アホみたいだが本当にそう思った。
現実にこんな女性がいるなんて。

しかし、なるほどそうか。とも思った。
おそらくは内面、性格に何かしら問題を
抱えているのだろうと。
アプリを通してのコミュニケーションで
彼女の素性が明らかになる。
などと踏んでいたが実際そんなことはなく、
ハッキリいってもの凄く好きなタイプだった。

彼女の優しい笑顔と声で、
私は心を鷲掴みにされてしまった。
生き物好きなところでも話が合った。
彼女は鳥が好きで、私は魚が好き。

ともかく彼女は内面も申し分なかったのだ。

マッチングアプリで知り合った完璧な彼女。
ありがたいことに、とてもありがたいことに
こんな私のことを彼女も気に入ってくれているようだった。
少々卑屈かもしれないが私の容姿は、良いとは言い難い。
まさに平凡そのものと言っていい顔立ち、背格好なのだが
彼女はそこにこそ惹かれているというのだ。

その辺の感覚は少し変わっているのかもしれない。
しかし、彼女に対してそんなことを思うのは
大げさかもしれないが、失礼千万だ。
などとしょうもないことを考えながら、
私は彼女と直に会う約束をした。

待ち合わせ場所は、大きな広場の噴水の前。
私が住んでいる港町の定番の待ち合わせ場所である。

私は前日の夜から緊張してしまい、当日、
待ち合わせ時間の1時間前に到着してしまった。

実物の彼女は一体どんな感じなのだろう。
予めアプリの映像で確認できているので、
実際に会ってみると全然印象が違った、
などとということにはならないだろうが、
ついそんな不安が頭をよぎる。
早く彼女に会いたい。会って話をしたい。
私は逸る気持ちを抑えながら彼女を待った。

待ち合わせ時間の5分前になって、
遠くの空から何かが見えた。

あれは何だ?

と目を凝らしていると、
その何かは悠々とこちらへ近づいてきた。
明らかにこちらの噴水を目指して飛んできている。
距離にして100メートル程になった時に、
その何かがハッキリと確認できた。

数羽のカラスに運んでもらっている彼女だった。

カラスの身体に縄をくくりつけ、
そこから伸びた複数の縄を束ねて椅子にしていた。
カラスのヘリコプター。
昔読んだ有名な漫画に登場したソレである。

私は驚いた。
彼女、アイがまさかそんな移動手段で
待ち合わせ場所に現れるとは。
時間ピッタリに到着した彼女は、アプリの映像で見たとおり
いやそれ以上の美貌、そして優しい笑顔と声だった。

カラスのヘリコプターには乗っていたが。

お互いに少しぎこちない挨拶を交わし、
私たちは並んで港の方へ歩き出した。

私は緊張しつつも、
自分が乗ってきた潜水艦まで彼女を案内した。

言い忘れていたが、私は待ち合わせ場所まで
マイカーならぬマイ潜水艦で来ていた。

私の大きな潜水艦を見れば、彼女もきっと喜んでくれるだろう。

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