チャイメリカ

チャイメリカの多角的な世界

田中圭くん主演の舞台「チャイメリカ」を観てきました。前半ネタバレなしで感想書きます。

お芝居を観終わってまず感じたのは、「物事を多角的に捉えるのはなんて難しいんだろう」ということでした。

わたしたちは、ついこの世界のことを〈分かっている〉と思いがちです。
ニュースを見ている、ネットを見ている、本を読んでいる、故に分かっていると。
だけどそれは、ある側面からみた世界を〈分かっている〉だけ。
アメリカから見た中国、中国から見たアメリカ、イギリスから見たアメリカ……。

このお芝居はイギリス人戯曲家ルーシー・カークウッドの作品であるが故にイギリスの視点がイギリス人女性テスを通じて入っています。
彼女は言います「あなたたちアメリカ人は…」と、少しやれやれとした表情で。
イギリスから見たら、アメリカが拘るものをとっくに手放しているのだから。

そして、この作品を日本で日本人が演じるということ。ここに新たに日本の視点が入ってくるのではないでしょうか。
日本はほぼ単一民族国家で島国、言語も日本語だけというのもあり、多角的な視点を持ちにくい気がします。圧倒的に情報量が少ないし、いい意味ではそのことで平和的に暮らしている。悪い意味では多くの社会的な出来事が他人事になる。
別に他人事なのが悪いと言っているわけではないのですが……ただ、こういうことに他人事でいるというのは、他のあらゆる事象にも他人事でいる癖がついてしまうことにもなると思っています。
そして、そのあらゆる事象というのは、実は社会情勢などの問題ではなく、意外と日常生活においてかもと……。

相手の立場や視点が想像出来ないというのは本当に致命的なことを招きがちです。
そう、ジョーが花屋の中国人夫妻にしてしまったことのように。

さて、ここからはもう少し舞台の話を詳しくしますね。ネタバレ入るかもしれないのでネタバレNGな人はここでUターンね!

舞台は3時間の長丁場なのにそれを感じさせず間延びしません。
脚本の力もあると思うけれど、ジョーを中心にした〈動〉のお芝居と、ヂャン・リンを中心にした〈静〉のお芝居。
静と動、陰と陽、二極のコントラストを付けて魅せる演出が巧みだからかもしれません。
対極にあるものを舞台という限られた空間で表現することの凄さ。

わたしは田中圭くんのファンなので、もちろん彼を中心に見がちだけど、本当に素晴らしいお芝居というのは、それを忘れてしまう。
舞台上にいるのは田中圭ではなく、ジョーだから。ジョーの優柔不断さ、こだわりの強すぎるところ、すけこまし(圭くんがそう言ってた)なところ。すけこましなところはどうかわからんけど、それ以外はおそらく田中圭本人にはあまりなさそうな資質。なのに、それを当たり前のようにやってジョーになる。
飛行機で怯えるテスの手を軽々と握って自己紹介をするような優男。

そして、もう一人の主役でしょう、満島真之介くんの演技もとても印象的でした。口角泡を飛ばして吐くセリフ。全身から漂う絶望。過去に生きる男。
過去なんて気にするな、と言って優しく背中をさすってあげたいと思わせてしまう。
それでも、彼の抱えている過去がとてつもないものだと、私たちは最後に知ることになる。
彼は、なんて深い闇と恐怖と闘ってきたのだろうと。
そしてそれを知って、自分がヂャン・リンに対してしてきたこと、話したことがフラッシュバックのように蘇り、うずくまるジョーと私たちは一体化する。

私たちはなんて軽々しく、他人に「立ち直れ」とか「前を向け」とか言ってしまうんだろう。
そして、なんて他人の話を自分のバイアスを通してしか聞いていないのだろうと。

ジョーは私たちそのものです。

この舞台は受け取る人によって、様々な受け取り方、感じ方ができます。
実は同じルーシー・カークウッドの「チルドレン」を見たときにもそれを感じました。その人が興味のある物事によって、どんな風にでも受け取れる作品。
そして、戯曲を読んでみて思ったのは、演じる役者にもそれを自由にさせているところがあると言うこと。
演じる役者に「何を受け取って、どう演じる?」と聞いているかのような戯曲。

恐ろしいくらいの表現者が書いた戯曲を、一流の演出家と、一流の役者たちが演じる。身悶えするくらいに彼ら表現者の才能に嫉妬してしまいそうになる。

こんな贅沢な舞台はそうそうないのじゃないでしょうか?

もし、まだ行かれていない方で気になっている方、チケットは完売していますが、当日券も出ることがありますので、ぜひ見て欲しいです。

あー!今日は終始真面目モードで書いちゃった!
えっと、あと何かあったっけ?
あとなんだ?

田中圭の長くて白いおみ脚も拝めます!!!

最後まで読んでくれて、ありがとう!
では、また!


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