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人生はファンタジーなのか?

『サメと泳ぐ』を4回観劇して、そのたびに違う印象を受けてしまい、なかなか感想が書けませんでした。

(第1回目を見た感想はコチラ

ふぅ、参ったなぁ。
これが生の芝居の持つ魔力なのでしょうか?
そして、そんな舞台に毎年挑戦すると決めている田中圭くんの役者としての覚悟みたいなものを感じました。

わたしは舞台も詳しくないし、演出がどうのこうのとか、削られたセリフがどうのこうのとか難しいことはわかりません。
舞台に限らず、ドラマも小説も万人に受け入れられるはずもないし、万人が同じ感想を持つはずもないし、むしろ<違う>ってことが大切で、受け取る人間がそれぞれの解釈で受け取ればいいと思っています。

という真面目な前置きをしてから、感想を書きますね。
少しだけネタバレありますので、まだ舞台を見ていない方で気になる人は見ないでね。

千葉哲也さん演じるサイラスの言葉にこんな言葉がありました(ちょっとうろ覚え)

「もうファンタジーの洪水で人を惑わすのはうんざりなんだ」

アクション、ドンパチ、流血、みたいな映画をずっと撮って稼いできた男が、孫娘から言われた一言(おじいちゃんの映画が世界に悪影響を与えている的な)で自分の撮ってきた映画に疑問を抱き、それをバディに言うシーンでした。
あと、田中哲司さん演じるバディが田中圭くん演じるガイに言うこんなセリフではこんな言葉もありました。

「人生は映画じゃないんだ」

確か、バディは人生のことを「映画」だと言ったり「映画じゃない」と言ったり何回かそのシーンによって違う言い方をしていたように思います。
どっちが彼の本心なんだろう?
どっちも本心で言っているんじゃないだろうか?
食えない男、最後までとことん食えない男です。
でも、その臨機応変さ、「勝つ」ためには自分の本心すら誤魔化せる人間が、ビジネスでは勝ち残っていくのかもしれない。

ちょっと話が変わりますが、今わたしはこれを喫茶店で書いています。
おしゃれな町ではなく、庶民が多い、いわゆる下町と呼ばれる地域です。

窓の外にはロータリーで立ち話をしたり、目的もなさそうにベンチに座る人、杖をついてゆっくりと歩く老人。
喫茶店の隣の席のおばさんたちはどのスーパーが安いかの話。

わたしは彼らのことを物語のない人生と思っていないだろうか?

一瞬だけ冷めた目で自分のことを見ました。
彼らのことを平凡で夢もファンタジーもないと思ってはいないか?
そういう人たちをサイラスやバディのような人間が、何も考えなくていい映画を選ぶように洗脳しているんじゃないか?と。
多分、ちょっと前のわたしはそういうところがありました。
自分は人より物の理(ことわり)を理解していると思い込んでいた。
(今となっちゃ、大きな勘違いだとわかりますけどね!)

TVもバラエティも下らないと思って見ていなかった時期がありました。
ドラマもつまんないなって。
でも、ポーズだったんです、全部。
『おっさんずラブ』で、すごくドラマって楽しいなって思えた。
その後、どんな雑誌にも真摯にインタビューに答え、バラエティでも全力で自分に求められたものを提供する田中圭くんを見て、さらにブログの彼の言葉を読んで、「あぁ、もっと人生を楽しいことで溢れさせていいんだ」って思えたんです。

ハスに構えてインテリぶらなくていい。
あの人たちは何も考えていないって、人のことをバカにしたり糾弾しなくていい。
そう思ったら、ロータリーを歩く人たち全てにカラフルな物語があって、どれとして<価値のない>ものなんて一つもないことが分かった。

サイラスの言葉に戻りますね。

「もうファンタジーの洪水で人を惑わすのはうんざりなんだ」

わたしも、商業的ではないとはいえ一応物を書く人間として、心に留めていることがあります。

『自分の書いた文章が誰かの読む最後の文章になるかもしれない、自分が書く最後の文章になるかもしれないと思って書け』

という若松英輔さんの言葉です。
真面目かもしれないけど、SNSに書くときもちょっと意識してます。

いい意味のファンタジーに人をいざなうのは良いけれど、悪夢に連れこむようなことはしないようにしたい。だからこそ、わたしにはサイラスの言葉が心に残ったのかもしれないです。戒めのようなものとして。

さてと、長いですか?今日。
ごめんなさいね!

最後、ちょっと田中圭くんの演技にだけ特化して締めますね。

一番最後のシーン、ガイがゼンマイ仕掛けのおもちゃを動かして、舞台の真ん中で前を見据えたままどんどん照明が落ちていきます。
その時のガイの表情が、本当に目に焼き付いて離れないんです。
後悔と諦めと絶望と、それこそ受け取る側が本当に自由に受け取れるようななんとも言いようのない表情。
キスシーンよりも何よりもゾクゾクしました。
ああぁ、やだな、こんな表情ができる俳優を好きになっちゃったんだ、やだな!って(笑)

わたしにとってのサメがなんなのか、それは結局わからないままですが、サメと泳いだ4日間、田中圭という俳優の更なる虜になったのは間違いなく、

「わたしたちは、なんてなんて深い海にいるのだろう」

という喜びと諦めにも似た不思議な感情に浸っています。

最後まで読んでくれて、ありがとう!
では、また!

地方公演へ行く方、楽しんでねー!


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