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中国で太極拳をならう。

「中国発祥の何かにトライしよう」
というマインドで、この夏新たに挑戦したのが太極拳。6週間のお試し版に参加した。先生は北京出身の方。「外で練習することに意味がある」というような方だったので、夕暮れ時に公園内で1時間半ほど、ときどき人目を気にしながら(笑)、練習に励んだ。

ちなみにこの太極拳、同世代の中国人の友達に話すとなぜか決まって爆笑される。中国では、"お年寄りのエクササイズ"という感覚が強いみたい。(確かによく目にするのです、早朝から公園でエクササイズに励むご年配の集団を。)
今日は、そんな“超初級レベル”な私ではあるが、学んだことをフル活用しながら太極拳の魅力に迫っていきたい。



①老荘思想(道教)に基づく太極拳

太極拳とは、数ある中国武術の流派の一つ。英語では、Shadow boxing や Water boxing とも言われる。

太極拳の特徴は、主にこのような点がある。

・動作がゆっくりであること
・「柔よく剛を制す」水の動きから発想を得ている
・健康促進、長寿の効果が期待
・陰陽のバランスを整える
・動く瞑想の一種
・(武術であるがゆえ)自衛のメリットあり


私はまず、ジェット・リー主演のTaichi Master(1993)を観るように勧められた。この物語は、元々は少林寺の僧侶(仏教、禅宗)であった人物が問題を起こして破門されたのち、太極拳を構築していくまでを描いたストーリー。フィクションではあるが、太極拳と他の武術との違いなど、参考になる部分もある。道教に基づき、自然や水の動きから発想を得ていくシーンはとても印象的だ。

(参考)少林寺拳法についてはこちら↓

太極拳の起源は諸説あるよう。先生からは宋代(960-1279年)に誕生したと聞いたが、宋、元、明、どの時代なのかははっきりしていないといった記述も目にしている。
ただ、創始者として名が上がっている張三峯ちょうさんぼうという人物が、「蛇と鶴が絡み合う(戦い合う)姿」を見て着想を得た、というエピソードは有名だ。蛇の這うような動きと、鶴の美しい大きな動作。この二者の攻防から、柔が剛を制し、静が動を制する原理を悟ったとされている。太極拳の中では、蛇行歩行や鶴を模したポーズなども実際に出てくる。

そして、不老不死の思想(道教、老子思想)に基づく太極拳。創設者は、太極拳のお陰で149歳まで生きたという伝説があるほど。私が習っていた先生の恩師も104歳まで生きたらしい。真偽のほどは不明だが、その方は血液型を知らなかった(一度も病院に行ったことがなかったから)、という話も聞いた。
科学的根拠があるわけではないので、太極拳をやれば病が治る、という類のものではないが、腰から体全体を使っていくので、全体のバランスが整うこと、やり続けることで体の不調が減るなどの効果を感じる方も少なくないそう。


②太極拳と気功の関係

中国では唐代(618-907年)には長寿気功が存在していたといわれる。気功も道教の教えからきており、太極拳=気功と考えてまず問題ないそう。
そもそも気功の「功」とはトレーニングという意味。それゆえ、気功=気のトレーニングであり、太極拳を練習すること自体も「気のトレーニング」といえるそう。

では「気」ってなに?という話になるのだが、今回のコースでは太極拳と気を結び付けながら練習することはなかった。あまり馴染みのない思想なので、先生も、初心者がいきなりここまで踏み込むのは難しいと思ったみたいだ。ただ自分なりに調べてみて理解した「気」とはこんなところだ。

森羅万象はすべて「気」によって成り立っている。

いわば分子のような存在だが、物質ではないので目には見えない。私たちの体の中にも、私たちの周りにもある、どこにでもありふれた存在と考えられている。
そして体内の「気」は、流れが滞ると「痛み」や「不快感」を引き起こす。「気」を動かすには液体が必要で、つまりは全身の血液の流れをよくしていくことが、体内の「気」のエネルギーを最大化していくことにも繋がるという理解だ。既に我々の体内にある「気」の力を、太極拳を実践することで最大化していく。

"Qi is the Commander of Blood, Blood is the Mother of Qi. "
気は血(けつ)の流れを司る指揮官であり、血は気を養う母なる存在。

中医学で学んだ、陰と陽の関係にある「気と血」

全身の「気」の流れを活発にできれば健康体になれる、というのがつまるところだろうか。

ちなみに太極拳には、軽い中腰で「休め」をするポーズ(立ち姿勢の瞑想)があるのだが。(下記の動画で紹介されているもの)

先生がいうには、このポーズをとり続けることで、「気」のエネルギーがお腹に集まってくるとか。効果を実感するには日々40分は続けてみる必要があるそう。
慣れてくれば快適に休めるようになるらしいが、とにかく足腰が強くないとポーズし続けられないので、噓でしょ!!!という感じ。上級者になると、休みながら内臓の動きも感じられるようになるらしい。
そして、いずれは動きながら resistance (周囲にある「気」の存在?)を感じられるようになるのが上級者らしい。いずれにせよ、初心者はまず型を覚えるところからだそうだ。


③太極拳は陰陽論そのもの

そもそも「太極」とは、中国哲学における「万物生成の根源」であり、「宇宙の本体」。ここから陰陽の二元論が生ずる。

陰陽のシンボルであり、太極のシンボルでもあるこのマーク

Tao born one, one born two, two born three, three born everything.
道(タオ)から一が、一から二が、二から三が、三から万物が生まれる。

一=太極
二=陰、陽
三=天、地、生命(人)

老子の道(タオ)の考え方(先生より)

道(タオ)とは宇宙の原理原則のことで、すべてのものを生み出していくエネルギー。そこから生み出される一が「太極」と呼ばれる。そして、万物には陰陽があるというのが二元論。例えば、右と左、上と下、男と女など。すべてのものが陰陽の両極に分かれていく。

「無為自然」とは、老子の説く人間の生き方のこと。宇宙の原理原則(=道)に沿った生き方をすることを指す。「何もしないのではなく精一杯の努力をし、あとは自然の原理に逆らわずあるがままを受け入れる」といった生き方を意味する。

道教信者は、太極拳を実践することで長く生きていけると信じていた。そして彼らが目指すゴールは、"道"になること、或いは"道"に戻ること。無為自然の生き方を目指すことが長寿に生きる道、という風に考えていたそう。


④太極拳の実際の動き

太極拳は、始めから終わりまで動作が決まっている。私は6週間をかけて、その半分程度を学んだ。

まず習っていて不思議だなと思ったのは、必ずしも左右対称の動きを取らないこと。ヨガをやっている身としては、何か一つの動きを取れば、身体をバランスさせるために逆サイドも行うのが基本なので、このままではかえって身体が歪んで行くのではないか、という気がしてならなかった。
これについて、一つの考察を挙げている本を見つけた。

太極拳の動作は、左右対称の理解では分かりません。本来右と左は性質が異なるのです。

誰にも聞けない太極拳の「なぜ?」

ここにも、右は陽、左は陰などといった陰陽論が見え隠れしている。身体の右と左では役割が異なり、表面的には左右対称でも、人体の深いところで観察すると、アシンメトリーである(例えば心臓は左寄りにあり、脳も右脳と左脳では司る役割が異なる)。詳しい議論は割愛するが、右と左に求められる役割が違う、という思想が前提にあるからと思う。

次に、太極拳はただの体操ではなく、中国武術から発展してきたという点。一つ一つの動きには、相手の攻撃をかわし、攻める、といったストーリーが見え隠れしている。全身に力を入れていないように見えて、実は体幹を必要とする動作の連続であることに気が付いた。動作がゆっくりなので、すぐに自衛に役立つものではないかもしれないが、背景の意味を考えながら練習すると面白さも倍増すると思った。

最後に、これはよく先生が口にしていたのだが、「このポーズは腎臓、血圧に良い効果がある」ということを幾度となく言われた。
なぜに腎臓?と当初は疑問に思っていたのだが、中医学を学んでみてその意味が理解できた。中医学では、腎臓は「血液の采配を決める重要な臓器」と理解されているから。血液をどの臓器に送るかの指令を出すのが腎臓で、中医学の中では一番といっていいほど大事な臓器のようなのだ(中医の先生談)。また五行説(地球上のあらゆるものは、木・火・土・金・水の5要素から成立している)に基づくと、腎臓は「水」に分類される臓器。「水」はまさに「気」を動かすのに必要で、太極拳の思想ともリンクする。科学的根拠はさておき、ロジックは通っている。


おまけ:妊娠中に太極拳をする場合の注意点

「太極拳は体に優しいゆっくりな動きで、お年寄りも出来るエクササイズなので、妊婦でも問題ないよ!」といわれ、今回参加を決めたのだが。
決して舐めてはいけないというのがやってみた感想だ。太極拳は、その見た目以上に、かなり足腰の筋肉を使うということを覚えておいてほしい。

まず、基本的に立ちポーズしかない。瞑想ですら立って行うほどだ。初回で1時間半ずっと立って練習を行ったとき、妊娠経過に大きなトラブルのなかった私ですら、翌日はずっとお腹が張ってしまって辛かった(妊娠中期での参加)。その後は、瞑想の練習は座りながらさせてもらった。

日常的にヨガやピラティスを行ってきたが、考えてみればこれらは座ったり横になったりするポーズがどこかで必ずあるので無理なく行えていたということがわかった。

今後、妊婦さんにアドバイスするとしたら、妊娠中でも出来なくはないけど、体調と相談しながら、決して無理はしないで欲しい、と伝えたい。



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