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火花(又吉直樹)

_火花(又吉直樹)

なんだかんだタイミングを逃し、この夏にようやく手にした火花。
熱海で火花(ドラマ)の撮影に出くわしたのが懐かしい。
ひどく昔に感じたけれど、2年ぐらいしか経ってないのか。
時の流れが私にははやすぎる。

器用そうではないからこそ、書ける物語なんだろうと思った。
不器用な性格と"人を笑わせたい"という気持ちとで上手くいかず苦しむ主人公の、生き辛さがそこにはあって。
それは本人の苦しみのようにも感じられて。
上手く立ち回れないからこそ、見える世界、書ける世界があって。
否定されがちな"繊細さ"を、繊細であるからこそできることがあると肯定してくれるような、そんな作品でした。

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自分が早く話せないことに苛立つ時があった。
頭の中には膨大なイメージが渦巻いているのに、それを取り出そうとすると言葉は液体のように崩れ落ちて捉まえることが出来ない。
複数人での会話になるとさらに症状は顕著だった。
人の数が増えると言葉の数も増える。
一つの言葉が耳に入ると、そこから派生した別個の流れが生まれ、頭の中でいくつものイメージが交錯して、どこから手をつければいいのかわからなくなるのだ。
神谷さんは、そんな僕を面白がってくれた。
ーそんなお前やからこそ、人と違う表現が出来るんやんけ。

僕はただ不器用なだけで、その不器用さえも売り物に出来ない程の単なる不器用に過ぎなかった。
ー僕が思っていたよりも事態は深刻だったのだ。

この長い月日をかけた無謀な挑戦によって、僕は自分の人生を得たのだと思う。

神谷さんのおかげで、僕は早口で話すことを諦められた。不良でないことを後ろめたくも思わなくなった。神谷さんから僕が学んだことは、「自分らしく生きる」という、居酒屋の便所に貼ってあるような単純な言葉の血の通った激情の実践編だった。僕は、そろそろ神谷さんから離れて自分の人生を歩まなければならない。

#火花 #又吉直樹 #言葉 #読書 #日記

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