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「まちの自分ごと化」のために、共感で巻き込み続ける仕組みとエネルギーをつくるには:渋谷区 田坂克郎

新しい価値観や眼差しを見つけ出し、共に実践していくために小さな実験を繰り返す実験の場『Shibuya Scramble Lab(仮称)』
第一弾では、なぜ「行政にイノベーションラボが必要なのか」という観点から経緯をお話しました。

SHIBUYA STARTUP SUPPORT*」や渋谷区のメンバーを中心に検討を進めているこのラボが、どういったラボを目指しているのか。メンバーはどういった想いでこのラボを立ち上げようと思ったのか、このラボが持つ可能性は何なのか、当インタビューシリーズでは、検討の中心メンバーに話を聞きながら、このラボについて解き明かしていきます。

第一弾は、2020年から渋谷区においてスタートアップ・エコシステム構築と渋谷区の国際化を担当する田坂克郎に、サンフランシスコの現地で感じた行政と住民の関わり、このラボで実現したい事を聞きました。

※「SHIBUYA STARTUP SUPPORT」は、渋谷区が中心となって、国内外のスタートアップビジネスを渋谷に招き、渋谷という街で一緒に成長していこうという取り組みです。
田坂克郎:渋谷区グローバル拠点推進室にてスタートアップ支援や都市のグローバル化に向けた様々な施策を推進

サンフランシスコで感じた「政治の自分事化」

-田坂さんについてとバックグラウンドについて教えてください。
田坂克郎(以下略)
:もともとサンフランシスコの日本領事館で働いていました。その頃の縁などがあり、2020年にスタートアップを支援する部署を作りたいということで渋谷区から話がありました。
日本領事館での仕事は現地のコミュニティ担当という位置づけで、地域のコミュニティとつながって、日本のためにそのコミュニティを動かしたり、なにかあったときなどに助けてもらったりすることなどをしていました。

-サンフランシスコで印象的だったことはありますか。
当時勉強になったなと思っているのは「地域で政治に参加している」こと
例えば僕の場合サンフランシスコ市だと日本街のコミュニティとすごく関係が深かったんですけど、日本コミュニティの中でも自分たちでルールを考えるという枠組みがあって、その枠組みを使って、例えば「あのチェーン店は出店させない」というルールを作るところもあれば、「ここに橋を作りたい」とか、「ここに高速道路の入り口作りたい」とか、そういうものを自分たちで決めることをやっていたのが面白かったです。
あとはその仕組みを実現するために、コミュニティが政治家に働きかけをするということがすごくあって、(市民が)市議会とかに本当に毎日よく行くんですよね。長蛇の列で。みんなすごい熱心だなあっていう印象でした。 

サンフランシスコの街なみ

-その「ルールを自分たちで考えられる」というのは、行政がその仕組みを導入しているのですか?サンフランシスコ市のみなさんは、自主的に議会に来ているのか、体制的に来る仕組みが出来ているのか、どちらに近いのでしょう。

そうですね。例えば再開発だと、サンフランシスコ市には「Better Neighborhood Plan」という企画があって、地域それぞれが自分たちで再開発のルール決めや最下層の計画を立てる。「ここにじゃあビル建てよう」とか「ここも駐車場にしよう」とか、自分たちで決められる枠組みが作られている。
それ以外でも、選職ポストってがとても多くて、議員以外でも議会でもいろんなポストがあって入っている人も多いし、指名ポストも多い。市長が例えば「文化保全委員会は誰々にします?」とか言ったら、その委員会に名に人を送り込みたい人たちがロビイングするとかが起こる。常に人と地域と、人と街をつなぐ、行政を繋ぐようなパイプが無数にあるというイメージがありましたね。

-住民起点の中で、行政の人の役割・立ち位置はどういったものなのですか?

特に都市計画局は、都市計画をデザインするっていうよりはファシリテーターみたいな役割をする人が多かったなと思います。

-あくまでデザインして行くのは、住んでる人たち・参加する人たちで、それを受け止めたり実現に繋げていくのが行政といった役割分担なのですね。

「行政構造の課題」解決にラボが果たす役割について

-続いて渋谷区での問題意識についてお伺いしたいと思います。
サンフランシスコから日本、そして渋谷区に帰ってきて、実際にまだ足りていない部分、これが必要だと思っている部分はありますか?

そうですね。仕組みというより取り組みとして現地でもう一つ面白かったのが、都市外交、と呼んだりしますけど、町が自分達で外に出て投資を持ってくるという動きをしていたんですよね。
なぜそういうことをするかと言うと、自立したいんです。例えば、大統領がイスラム系の住民を追い出したいと言ったとしても、サンフランシスコではその人たちを守る、とうことができるとか。「サンクチュアリー都市宣言」というのを400ぐらいの自治体が出してたんですけど、国の言う事を聞きませんよ、みたいなことを宣言する主体がそれだけあって、そうすると補助金とか落ちて来なくなることが起こる。でも「別に大丈夫。だってお金自分で稼いでいるもん」みたいなところが自律した町にはありました。
日本は自治体のお金がどんどんなくなっていて、ほとんどが交付金で賄われている。国がお金を出さなくなったら、立ち行かない自治体が多い中で、自治体をどうやって自立させるのかはこれからの課題なのかなと思っています。
あとはそもそも組織的に民主主義は社会資本がないと成り立たないと思っているのですけど、日本ってほとんど社会資本がない国だなと思いました。仕事以外とか税金以外で社会に使うお金とか時間というのがほぼ無い。そんな日本で何が起こるかと言うと、例えば、政治家への働きかけがされず、政治家は好きなことができるようになることが起こる。行政自体も進化していかなくてはいけないと思うのですが、民主主義みたいなところがすごく弱い国なのかなと思っています。

-その中で、これから官民連携のラボを作り、どんなことを実現したいと思っていますか?ラボのミッションや、果たす役割はどう考えているのでしょうか。

欧米などにあるような、社会課題があるなかで、住民・一般の人々をどれだけ巻き込める存在になるかっていうところが大事で、それこそが課題の解決に直結すると思っています。

-目指す姿に近い事例やイメージはありますか?
ラボと言っても、リビングラボと言われるもの、イノベーションに特化してるもの、一部の課題に特化してるもの等色々あって、その比較ができない部分はあります。
ただ僕が最初におもしろいなと思ったのはアムステルダムにあるラボで、新しいイノベーション、アプリがどんどん生まれてくる。バス停で充電ができて、その充電自体もソーラーパネルから電気がきていてとか、いろんなものがポンポン出てくる場所でした。

-そういった良い事例がある中で、渋谷ではどのような形を求めていくのでしょうか。
渋谷ならでは、という部分も追求できたら一番良いですね。欧米と同じものを作っても面白くもないし、そもそも課題も違う。まだ明確には想像出来ていないですけど、渋谷だからっていうのは作りたいですよね。

-渋谷のポテンシャルはどういったところに感じていますか?
人が集まってくるまちなので、巻き込める人の質の高さはすごい。関わっている人のレベル、ポテンシャルが高いと思っています。
あとはデータが取りやすいこと。若い人が集まってるので、そのデータは取りやすいし、住んでいる人も情報の感度の高い人が多い。例えば今、実証実験のモニターを募集して実施していますが、その募集にものすごい数の人が登録してくれました。これは渋谷だからこその強みだと思いました。
あとは渋谷でなにかを実行するとメディアに取り上げられやすい。渋谷で実行したことがメディアを通じてほかの地域にも伝播し、全体がよくなるかもしれないという可能性を感じています。

世界的な知名度も高い「SHIBUYA」

-渋谷からモデルを作って、全国のほかの自治体に広げていく。そういった日本全体に波及するようなことも、渋谷区はできる可能性があるということですね。

共感を生み、巻き込んでいくために必要なこと

一方、住民の巻き込み方についてはどこの行政、組織でも難しいと感じている点だと思います。区民の巻き込み方で、どう巻き込んでいくか、どういう形で参加して欲しいか等といったイメージはありますか?
サンフランシスコ市を見ていると、実態は結構大変そうでした。Aという人もいるしBという人もいるし、全然まとまらないんですよね。それでも根気よくやり続けているなと思っていたりしました。一つはそういう手間はかかるけれど、ひたすら会話するという巻き込み方もあると思うんですよ。
そしてもう一つがテクノロジーを活かした巻き込み方。台湾のオードリータンさんがやっているようなことかもしれないし、バルセロナがやっているようなことかもしれないんですけど、もう少し無意識を汲み取れるような仕組みみたいなのは、テクノロジーでできるのかもしれないと。

-前者の強く対話していくことにおいて、行政や職員としてのスキルや素質・組織の体質として、住民の巻き込みに必要なものは何だと思いますか?
住民の声を引き取るにはいろんな方法があって、例えばアメリカだったら基本的には政治家がやっている。政治家が地域に出ていて、みんなと対話して「この地域はこうやりたいって言っているから、これやってくれよ」とちゃんと代弁者になっていた。日本では政治家に陳情に行くとかも聞かない。苦情は多いと思うけれど、町のことを考える声というのはあまり聞かない。
苦情ではない声をどういった方法で拾うかはまだできてなくて、構造的にやりたいという声は出てこないし、拾う機能もないので、そこが問題だと思っています。

-その中で、既存の構造と切り離すこと、例えば区から独立した組織でやっていくことなどは考えていますか?
違う組織を作るということは、既存の観点に縛られず進められることだと思っています。ラボで生み出されるものが技術であった場合、既存の枠組みに縛られなくなると思っていますが、逆にそれが新しい制度とかだと別れていると大変だとも思います。
そういう意味では公共の役割が民間に移ってくる、その中で次第に機能として良くなって流れができるといいなと思います。

パイロットプログラムから見えてきたこと

-パイロットプログラムをやってみて、どんな感触がありましたか。
去年フードロスチャレンジをやってみて感じたことは、何か社会のために行動したいと思っている人が多いということ。参加者の中では、仕事としてそのプロジェクトを頑張りたいと思ってくれていた人もいて、とてもポジティブな感触を受けました。

-一方で、今後もっと改善していく必要があると感じた点はありますか?

技術がある人を巻き込むことがまず重要で、そこは今後巻き込まないといけないと思っています。そういった特出した技術を持っている人たちの巻き込みに加えて、取り組む課題をなにとするかということが重要です。
これは行政の役割だと思うんですけど、課題を抽出するためには地域の人たちとの繋がりも必要です。実データを集めることも大事だけど、何が課題なのかを見つけ出すための地域の人たちとの関係性も大事だと感じています。

昨年度パイロットプログラムとして実施した「Shibuya Foodloss Challenge」
食への強い想いを持つ人々と、クリエイター‧技術者‧研究者など自分の専門性を活かしたい人が集い、約4週間(1/29~3/5)にわたりフードロスに関するプロジェクトを実施した。

-渋谷区やラボとして支援したり、提供していきたいのはどういった部分ですか?

必要な機能としては大学などと組んで研究者とか技術者がいる場所にすること。あとはクリエイティブ系の人も必要だと思うし、ビジネスを回せるような人も必要。つまりはできるだけ多様な人材がそこで課題を待っている状態を作っておかないといけないのだなと思っています。

渋谷区が生み出したい「イノベーション」とは

-未来に起こる選択肢というと、捉えようは色々あるのかなと思います。生活の質が上がっていくようなイノベーションもあれば、破壊的なイノベーションと言われるような、社会に大きな変化をもたらすようなイノベーションもあるかと思います。
このラボで生み出して生きたいものはどういったイノベーションなのか、イメージをお伺いできますか?

課題は課題で解決しないといけないのだけど、どうやっていろんな人を巻き込めるかといった、仕掛けを作っていくことも考えていきたい。
最近とある方に「感情ドリブンでイノベーションを考えた方がいいんじゃないか」って言われました。これはどうやって共感を生むかが大事ということで、例えば、ゴミ拾いとか環境問題は大事だけど大衆の共感をうみにくい。一部の意識の高い人は取り組むかもしれないけれど、興味ない人にとっては「環境問題って何?」となってしまっているのが現状だと思います。環境問題は重要な課題で、これから温暖化が進んでいく中で共感を生みながら進めなくてはいけない問題であると思っています。
単なるイノベーションで終わってしまわないように、どうやって普及されるか、どうやってみんなの支持を担保するかというのが、難しいですがやっていきたいことのひとつです。

-行政としてやるものとしても、一部の人だけに受け入れられてその人たちが良いということでなく、広く、区はもちろん日本全体に受け入れられるものが必要ですよね。

-渋谷区役所


「めっちゃ面白い未来」ための仕掛けやエネルギーをつくっていく

-今後の展望やビジョン・進め方について改めて教えてください。
一つはいろんな巻き込みを作らないといけないこと。検討メンバーや区の職員も、本来の仕事の枠からはみでているからこそ、この仕事を頑張りたいと思ってもらわないといけない。作り手側の共感も大事だと思います。どうやってコミットを引き出していくか、ムーブメントとしていくかというのは、まず区役所内でも拡げていかないと外にも広がらないと思っています。
あとは外部から関わってくれている人がどれくらい興味を持ってくれるか、研究室から学生がきてくれるかとか、外の人たちの巻き込みも大事になってくると思います。その時にわくわくさせる、一緒に作って行きたいって思わせる仕掛けやエネルギーになるものをこれから作っていきたいです。
 
-最後に、この記事を読んだ人向けに何か一言あればお願いします。
予測ができない時代になってきて、日本だけじゃなくて世界的に不安定になってきている。政治が不安定だったり、経済が不安定だったり、そういう時代になった。
少し油断すると、暗い気持ちにしかならないなって思っています。もしくは淡々と生きている人が多いと思うんです。けれど、そのままだと本当に社会全体がやばくなると思っています。
次の世代に何を残すかをみんなが考えないといけない時に来ていると思っています。ただ、「何かしないといけない」みたいな、ちょっと重たい感じじゃなくて、「めっちゃおもしろい未来を一緒に作る」みたいな、ワクワクするような、このラボをやることで暮らしも良くなるとか、新しい企業が出てくるかもしれないとか、楽しいものがいっぱい生まれるんだっていう希望が持てるようなものにしたい。それにできるだけ多くの人を巻き込みたいと思っています。

-参加者という枠を超えて、住民の人も含めてみんながワクワクできる場所、未来を開ける場所ができるのが楽しみですね。


インタビュアー・構成:岩田健太
編集:Shibuya Scranble Lab

※取り組みに関わりたい企業やNPO、技術者などの方はこちらまで連絡ください。
shibuyascramblelab@gmail.com

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