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北野武映画の魅力

北野武さんの映画が大好きです。
北野映画というと、「あー、アウトレイジとかね?」と95%くらいの確率で言われます。
うーむ、私が圧倒的におススメなのは90年代のいわゆるキタノブルーを基調とした「切なさ・哀しみ」を描いた作品群です。

という訳で北野映画の魅力を独り言に近いですが、語ります。

映画はあくまで映画という表現方法なので、文章でそれが十分に説明できるとは思いませんが、語ります。

※『HANA-BI』、『あの夏、いちばん静かな夏。』についてのネタバレを含みます。ただ、ネタバレしても揺るがない傑作なので大丈夫です。

「切なさ・哀しみ」を「静か」に描いている

なんといっても切なさ・哀しみを描いている点が好きです。
切なさ、哀しみ、やりきれなさ、情けなさ、破壊的、絶望感、死・・・。
あまり人が見つめたがらないこうした感情を描いていると思います。
そしてそれらは「静かに」描かれている印象があります。
これらがどういう形で描かれているのかについてみていきます。

無表情、無言

「無表情、無言のままカメラに向かってじっとしている」
というコマが北野映画には良く出てきます。これは北野映画特有の表現です。しかもこのコマは一瞬では無く2~3秒続きます。これが独特の間というかリズムを作っています。

この表現方法が「やりきれなさ、情けなさ、哀しみ、切なさ」といった感情を演出していると思います。

もしも北野映画をご覧になる際は注目してみてください。

(この表現方法の意図について北野さんが語っている映像などが無いので、真意を知りたいなぁと思ってます。)

説明しないカッコ良さ。

北野映画はセリフが少ないです。
くどくどと状況や心情を説明したりしません。
最小限の情報で最大に伝えます。

例えば、『HANA-BI』のラストシーンでは、「死=人間の終わり」を空と海を背景に銃声2つだけで描くところがその最たる例かと思います。

セリフは、「ごめんね。ありがとう。」だけです。しかも劇中で最初で最後のセリフです。

何が、「ごめんね。」なのか。何についての、「ありがとう。」なのか。
ここを言わない。
言うのはあまりに野暮です。

死を前にして、「いやぁ、あの時これこれこうで、悪かったね~。てかあれもこれもいい思い出だ、ありがとう!」とかもはや不要ですよね。。

なんか送別の色紙とかでもそうですが、くどくど書くより一言のほうが伝わることがありますよね。

いやぁ、あの終わり方は他に類をみません。天才だ・・・。

切なさ・哀しみを表現する際に説明的になりすぎると、なんだかお涙頂戴感が出るというか、、、「こういう感情になってください」と言われているような押しつけがましい感じがしてしまいます。

行間を読ませる、書かない、描かない、読み手や視聴者に理解させるという手法。俳句っぽいというか。

勿論、会話劇とかの表現方法もあるけれど、北野映画はその逆で、絵画のような表現だなぁと思います。

『あの夏、いちばん静かな海。』に至っては主人公は一切喋りません。
(主人公の性質上の理由が第一だが)

説明しないカッコ良さがあります。

このように、無表情・無言で佇んだり、セリフも少ない。
こういう「静かさ」をもって切なさ・哀しみを描いていると思います。
ハリウッド映画とは真逆の手法だと思います。

キタノブルー、海と死

キタノブルーは既に語りつくされていると思いますが、、、あらためて。
北野映画の中で、ほぼ確実に海が出てきます。
これは推測ですが・・・海は死を暗示している気がします。
いくつかの作品で海で死を迎えるシーンが出てきます。
または海辺で死を予感させるシーンが出てきます。
もし海が死を暗示しているならば、海はまた、哀しみや絶望も内包しているのかもしれません。
海以外にも全体のトーンとして青っぽい色調が基調となっており、哀しみや切なさを演出しています。

久石譲の音楽

多くの作品について久石譲さんが音楽の制作を担当されています。
特に『菊次郎の夏』の「Summer」は有名ですね。
あそこまで夏の情趣を表現しきった音楽は他に思いつきません。

これがまたどれも信じられないほどに作品のイメージと合致していて天才ってこういうことを言うのだなぁと。。。

おススメ作品、一言紹介
『その男、凶暴につき』(1989年)
めちゃくちゃバイオレンスです。苦手な方は観ない方が良いです。。
武さんの初監督作品。仁義なき戦いの深作欣二監督の代役としてメガホンをとりました。北野映画をある程度観て、もっと観たい!と思ったら観るという形で良いかと。
それにしてもタイトルが秀逸ですね。「その男」のあとの句点が素晴らしく良いですね。凶暴につき。で終わりなのもクールですね。

『3-4X10月』(さんたいよんえっくすじゅうがつ)(1990年)
なぜでしょう、何回も観たくなる映画です。草野球という日常的でのどかな情景と、対照的な非日常的な情景。最近シュールという言葉が流布していますが、これぞまさにシュールな作品だと思います。

『あの夏、いちばん静かな海。』1991年
まず、、タイトルが秀逸すぎませんか?「一番」がひらがななのも良いです。タイトルの意味は観終えたらちゃんと分かります。珍しく恋愛モノです。恋愛モノではありますが、こんなに爽やかな恋愛モノもなかなかありません。真木蔵人主演。家でひとりでボーっと眺める感じで観ることを勧めます。

『ソナチネ』(1993年)
狂気とバイオレンス。
そしてとにかく音楽を聴いてみてください。
シンプルなメロディですが、ソナチネの世界観がすべて詰まっています。

『キッズ・リターン』(1996年)
人生で希望を見失っているすべての人に観てほしい作品です。そしてまた音楽が素晴らしい(涙)

『HANA-BI』(1998年)
第54回ベネツィア国際映画祭にて金獅子賞を受賞した作品です。
人生の絶望、最愛の人、幸福、生と死・・・すべての大人が観ておいたほうが良い映画です。

『菊次郎の夏』(1999年)
日本の夏の情趣、親と愛、人々の優しさ・・・。
夏になったらどうしても見返したくなる映画です。
メインテーマの「Summer」が名曲すぎて聴くだけで泣けます。

ちなみに・・・最新作「首」

武さんの映画最新作「首」が23年11月23日に公開予定です。
ただ、今回主に扱った「切なさ・哀しみ」を描いた作品とは趣が違うかと推測されます。とはいえ構想30年とのことなので、大変楽しみです。

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