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DX推進を阻むのか?あなたの会社の“ユニット勢力図”【第一回】

様々な企業のデジタル化の支援をしていると、どうにも厄介な問題にぶち当たることがあります。一人一人のスキルが…とか経営者の質が…とかのレベルではなく、事業を常に改革してゆくミッションバランスと意思決定の歪みの問題です。

筆者の仕事観点で見ると、目の前のクライアントのデジタル化がどうにも進まないという危急の問題。しかし周囲をマクロ視点で眺めてみると、日本社会全体や各種団体の津々浦々に広がる組織文化の問題だと気が付くのです。
今回はそれをちょっとモデル化してみたいと思います。

組織ユニット001

組織はこの四つのユニットによって運営・推進されるという考え方です。そしてこの四つのユニットの力関係とポジションによって、仕事が順調に進んだり容易に頓挫したり、事業が成長したり停滞したりするという視点です。

以下、この四つのユニットの仕事の概要を洗い出してみましょう。

組織ユニット002

『経営者』と『現場・作業者』のミッションは想像がつき易いでしょう。
そして『コロナ禍』で良く耳にするようになった『専門家』という仕事。
こちらは特定専門領域においてその構造や作用・機能(仕組み)を熟知しており、問題の原因究明や今後の予測、具体的なアクション手法・対策を示唆・助言する役割です。
さらに、組織の中でこれまであまり明確にミッションとして定義されてこなかった『市場家(マーケター)』というポジション。
常に変化する市場の構造を読取り、自社の取るべきターゲットを常に再定義してゆく役目。そして市場獲得のためのプロセス+技術とKPIを定義、評価して経営のコンパスとなります。

この可視化フォーマットを使って、特定業種や組織の状況を評価してみましょう。まずは筆者の客先のメインである実店舗を持つチェーン小売業界の場合は以下のようになります。

組織ユニット003

実店舗チェーン小売業(従来型)の特徴は、市場もオペレーションも成熟して定型化・類型化の極みにあるということです。
なので『専門家』も『市場家』も、社内に居るには居るのですが、その役割範囲も発言権も非常に弱い構造です。
商品のあり方、調達・仕入ラインと店舗フォーマット、出店方法等のビジネスモデルがあまりにも成熟・確立・固定化・定型化され過ぎたため、新しい発想でのブレイクスルーを考えようがない…。
専門家も常に研究して新しい構造や技術を探索するというよりも、自分の狭い分野の通年のルーティンをひたすら繰り返しているだけ……という状況です。

彼らの今の業務状況を整理したものが以下になります。

組織ユニット004

この事業をけん引する柱になっているのは、MD(マーチャンダイザー)と店舗運営者のはずなのですが、そのいずれもルーティンワークの罠にはまっています。なので彼らも現場作業者の一人でしかありません。
専門家も市場家も本来の市場や技術の『開拓者』ではなく、日々の運用担当者に落とし込まれています。会社の社員の大部分が作業者または管理者になってしまった状態と言えるでしょう。
もちろんこれはマンパワー型のチェーン小売の場合です。
ここに例えば『完全無人店舗』などの新規事業フォーマットを持ち込んだ場合は、このユニット構成では全く成り立ちません。

続いて、この成熟したチェーン小売にEC事業を導入するとどうなるかを描いてみましょう。

組織ユニット005

筆者が事業支援や改革に参加して最も苦労している世界なので、その問題点も赤字で記載しました。
この事業体の大きな問題点は
各ユニットのプレイヤー同士が離れていて、接点が薄い・会話が成立していない…ということです。そして、そもそも、現在の状況を俯瞰して、道を指し示す専門家も市場家も欠落しているということです。
以下、この事業領域における各ユニットの業務内容を記載します。

組織ユニット006

このジャンルの専門家は
『ITが専門領域です……』みたいなざっくりした専門性では通用しません。
見込客を的確な場所から集客してその行動を最適化して買上率を上げるところまで、多種多様なツールやデータ、プログラムロジックに精通している必要があります。
かつ年次単位でトレンドが変わり、利用すべき主要ITベンダーやサービス仕様も変化していきます。なので専門家の中にも①守備範囲の広いジェネラルな専門家と➁特定技術に特化したディープコアな専門家が必要です。

さらに困るというか…数が少ないのが、
このジャンルにおける市場家です。
小売業におけるデジタル化・EC化のターゲット市場は、極論すると従来型の消費行動ではありません。そんなことない、Amazonや楽天は定着したじゃないか?と指摘する読者もいるかもしれないですが、彼らオンラインの先駆プレイヤーがやったことは、従来の買い物行動の一部を便利に安上がりにすることがメインだったからです。
シェアエコノミーやサブスクリプションサービスが普及するように、購買行動や消費志向そのものが激変する中にあって、『買い方を再定義すること』がこのジャンルの市場家の主要なミッションになります。しかしデジタルマーケティング出身の担当者はこの部分に中々踏み込んできません。既に今起こっている現象やKPIの値から、全てを導き出そうとする癖があるからです。ここも、デジタルに詳しいというだけではない、マクロに俯瞰する視座が必要になるのです。

次回は、今度はIT・デジタルベンダーやベンチャー側ではこれらのユニット構成がどうなっているか?解き明かしてみようと思います。
第二回に続きます。