ビールとパプリカ
俺にはわかるんだよね、どこかで、外来種が、泣いている
やっぱりそうだったのね、あなた、テレポーテーション使えるんでしょう
…相変わらずの美貌、本当にお美しい
やめてよ、私が肉食系なの、覚えているでしょう?
テレポーテーションは使えない、でも俺にはわかるんだ、その一方、わからないことだってある、自分の宇宙がわからない
いいの?この会話が聞かれてるわよ?
誰かが言ってた、外と遮断された井の中の蛙は、それがゆえ、まっすぐ自分だけの宇宙を見上げることができる、俺は世界と繋がっている、ゆえに自分の宇宙が見えない、いくつもの雲が視界を遮っている
雲の悪口を言ったからかしら?稲妻が降ってきたわ、致死量の稲妻を浴びる前に中に入りましょう
知らなかった?稲妻って一発アウトなんだよ
ようこそ、鏡が1枚もない家ですが、、、
この子、あのメイドさんか?見ない間に少し変わったな
ビールを人数分頼むわ
かしこまりました
こんな屋敷でビールだなんて、君もしゃれてるな
違うものと違うものを組み合わせた方が文化的に豊かになるわ
ビールも館も海外から取り入れた文化じゃないか
そろそろコートを脱いだらどう?
ああ、悪いな、それにしても冬は良いよな、俺たちの結束が強まるから
風が救いを求めるように窓を強く叩いてるわね
今、俺と暴風、どちらが驚異だ?
お待たせしました、ビールとパプリカです
パプリカ…?頼んでないぞ
城田さんが…
城田も来ているのか
いやあ、悪いね、お邪魔させてもらっているよ、では、乾杯といきましょうか
うん、城田さんの焼いたパプリカは絶品ね
嬉しいことを言うね、天国の城田さんも喜んでるよ
お前、誰だ…?城田じゃないのか?
城田は城田でも、別の城田だ、パプリカを作った城田は、お前たちが来る前に死んだ
なるほど、それがお前の…
挨拶代わりにちょうどいいじゃない、ねえ城田さん、ところで、大事な話があるんだけど
待ってくれ、いつも観察しているんだ、今回は体に注目してみたんだけど、君は肉付きが良くなってる、母親の体をしてるんだよ、そういうことだろ?
…正解、私は今、でっかい命と小さい命持ってる
ちょっと待ってくれ、誰の子だ…?まさか、城田と俺を呼んだのはこのためか?
なんだよ共犯者を見るような目で、僕も知らされていなかったよ
なんで彼と俺を会わせたんだ、鈴子、君の口から俺たちのことについて話してくれ
あなたのことは、もういいの
どういう意味だ?
まあ、つまりこの子の父親は僕ってことだろうな
お前…準備をした方がいいぞ、この世に生まれたことを悔い改める準備だ
城田さんは悪くないの、春でも夏でも秋でも冬のせいでもない…ぜんぶ私のせいよ
俺は君を家族のように思っていた、それなのにどうして…不完全な人間は不完全を通して集まるんじゃなかったのか
小説なんかに変えられてしまうような薄っぺらい人生だったわ、ある一冊の小説を読んだの
小説なんかただの娯楽だろ、本質的に生きる上で必要ない
いいから聞いて、その小説の冒頭はこんな一文から始まる…『村橋は人体模型を作るのが天才的にうまい』
……
……
どういう意味だ……?
なんでもかんでも器用にこなせるやつが早くから結果出したって当たり前のことだからなにも思わない、でもある時からそいつらがひとつの丸に見えたの、あるいは、筒がないから止めどなく溢れていく水にも、たまたま人類が早く気づいただけ、その方が意味があるのよ、本当に長い間待たせてしまったね、あの歌の老兵のように、散りばめていこうよ、日本ってまだまだ平和だから……じゃあ、私たち行くね
…いや!ちょっと待ってくれ…!
なに?
ここは君の家だろ!いったいどこに行くんだ!?
頑張れ私、都会で成功してまたここに帰るの
……
……行ってしまいましたね
君は行かなくていいのか
私はメイドですから
そうか
半年前、ご主人様は生きてる実感がないと言っていました、だから、多分、人生の中でむちゃくちゃをやりたかったんだと思います、ずっとその出口の扉に手をかけていたんです、きっかけを待っていた、城田さんがそのきっかけだったんです
この場にいたみんな共犯者だよ、彼女の物語を作る材料に過ぎなかったんだ、彼女が戻ってきたら言ってください「我々の敗北です」と
嬉しい言葉は、直接言った方がいいのでは?
敗北も分かち合えば、幸せに変わるのか?
今は共有の時代ですから、なんでもかんでもシェアすればいいんです、頭使わずに共有共有♪
こいつも頭がおかしくなっちまったのか、…………ふざけやがって、やけ酒だよ、ビールと共にこんな状況飲み干してしまおう、酒はこの世界の理不尽を飲み込むためにあるんだから、……クーッ、悲しいくらい冷えてるな、つまみは、これしかないのか、……うん、このパプリカ、案外うまいな、だけどビールには、まったく合わないな
小さい頃からお金をもらうことが好きでした