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ほこりまみれの模造紙 #1 【短編小説】

〝社会へ出る〟とは名ばかりの謳い文句。社会へ〝放り出される″と形容した方がよっぽどしっくりくる。


生まれてこの方、僕にやりたいことなどあっただろうか。それ以前に、僕にやりたいことを考える充分な機会は与えられていただろうか。大学を卒業し、地元の企業に就職した今ふと考える。


僕は今、名の知れた大手某車販売会社の傘下にあるグループ企業で、部品製造に携わる仕事をしている。中でもベアリングという一種のねじの部品の製造を担当しているが、うちの製品は他社に比べ質が高いため、グループ企業内だけでなく外部の航空会社とも取引をしている。一見すればやりがいがあるし、元来より車が好きでここへの就職を試みたはずなのだが、毎日心か頭のどこかに違和感を覚えながら生きている。


 
 ――思えば大学時代、就職サポートセンターの先生に――
「いいか、お前らが就職先を選ぶときに考えるべきはこの3点だ。1つはやりたいこと、もう1つは自分の強みが活かせること、あと1つは社会が欲していること。以上だ。やりたいことでなければ続かない。強みが活かせること、すなわち自分が得意とする能力を発揮できる仕事でなければ常に心が不完全燃焼になる。そして最後に、社会が欲している仕事でなければ社会貢献の実感は湧かない上に事業自体も長く続かない。結局また新たな職を探す羽目になる。だからその3点の共通部分にあてはまる仕事を見つけることが最良の選択だ。」
といわれたことがあるが、僕は初めの1つめを考える時点で既に出口のないトンネルに直面している状態だったのを覚えている。


これは僕だけじゃなく、周りの学生も同じ空気を発していたと感じたのは気のせいではなかったと思う。生まれて20余年にして初めて自らの欲求と真面目に向き合った。これが世界的に遅いのか早いのかは別として、僕はもっと早めに経験してもよかったんじゃないかという若干の後悔の念が砂浜に打つ余波のように今になって段階を経て押し寄せてきた。


そんな不安を時折抱えている僕を、毎週の月曜日は飄々と迎えに来る。

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