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【下手なホラーよりよっぽど怖い】映画『ファーザー』が示す宿命

5/14から全国公開している映画『ファーザー』。本作は世界30ヶ国以上で上演され、トニー賞など世界各国の演劇賞を受賞している名作戯曲を映画化した作品だ。

監督は、今回の映画の元となっている戯曲も手掛けたフロリアン・ゼレール。主演は『羊たちの沈黙』(1991年)、『日の名残り』(1993年)など多数の作品に出演、アカデミー賞主演男優賞など数々の経歴を受賞している名優アンソニー・ホプキンス。共演に『オリエント急行殺人事件』(2017年)、『女王陛下のお気に入り』(2018年)でアカデミー賞主演女優賞を受賞したオリヴィア・コールマン

本作はアカデミー賞の脚色賞を受賞したほか、主演のアンソニー・ホプキンスは本作で主演男優賞を受賞している。今回はその感想含めて内容を紹介していきたい。

※直接的なネタバレはしてませんが、内容に触れてるため未鑑賞の方はご注意下さい

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物語はアンソニー・ホプキンス演じるアンソニーの視点で描かれる。ロンドンで独り生活しているアンソニー。81歳という高齢のため、生活を心配した娘のアンは介護士を雇うが、プライドの高いアンソニーは介護士を次々を辞めさせてしまう。

そんな父を心配した娘のアンが毎日様子を見に訪れるという日々を過ごしていた。そんなある日、アンソニーはアンから新しい恋人とパリで暮らすと告げられる。しかしアンソニーが次に自室から出た時、リビングにはアンの夫を名乗る男が座っており、この家は自分の家だと語る。混乱するアンソニーの元にアンが現れるが、そのアンの顔は別の女性の顔であり…というあらすじだ。

本作は、ヒューマンドラマというジャンルで紹介されているが、心暖まるようなお話だと思ったら大間違い。むしろ逆、まるで良質なサスペンスかミステリー映画のような作品だ

そう思わせるのが、巧みなストーリー構成とスリリングな演出。特に螺旋階段を思わせるようなストーリー構成と、繰り返される度に新たな驚きのある物語は、片時も目を離すことができない。

冒頭数分の展開で、頭が「?」状態になった後は、観てる側も劇中のアンソニーと同じく、迷宮を彷徨うような気持ちを体感することになるだろう。決定的なネタバレは避けるが、本作はまさに意識と記憶の迷宮に囚われた男の物語だ。

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記事のタイトルにも書いたが、この映画がそこら辺のホラー映画より怖いのは、劇中で起きることは、もしかしたら自分の身にも訪れるかもしれない事だから。

ホラー映画なら作り物のエンターテイメントと割り切ることもできるだろう。だが、劇中で起きることは、いつ自分の身に降りかかるか分からない現実的なことだ。筆者は今後、人生を過ごしていく中で、この映画のことを思い出すことが何度もあるだろう。そんな事すら考えてしまう作品だった。

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そして本作の魅力をより引き上げているのが、キャスト陣の素晴らしい演技。特に主演のアンソニー・ホプキンスの演技はアカデミー賞受賞も納得。

ゼレール監督は、映画化にあたって主人公の名前と年齢、誕生日などをホプキンスと同じにするなど、脚本をホプキンスへのあて書きへ変更したという。その甲斐あってか、知性的だがプライドが高いアンソニー役の演技はまさに迫真モノ。特にアンソニーと介護士のローラとの、場を一瞬にして凍りつかせるやり取りは本作の見どころの一つといえるだろう。

(本編紹介映像として挙がっているので、未見の方はぜひ観て欲しい)

また、アン役のオリヴィア・コールマンの演技も素晴らしい。最初、観た時は『女王陛下のお気に入り』のアン女王と同じ役者さんとは気づかなかった。今作では父に献身的に尽くしながらも、妹と比較されるという辛い役どころを見事に演じ切っている。

序盤は強気なアンソニーだが、物語が進むにつれ、弱まっていく姿は苦しく胸を締め付けられる。本作の魅力はただ恐怖を描いているだけでなく、人間という生き物の辛さ・悲しさも描かれているところだ。それが本作をより深く重みのある作品へと仕上げている。

アンソニー・ホプキンスは今回の役を演じる中で、自分の父親を参考にしたとも語っている。そのエピソードを知ってから見ると、より一層感慨深いものがあるだろう。

映画『ファーザー』、気になった方は是非ともチェックしてみて欲しい。


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