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ラヴェル『オンディーヌ』におけるリズム・パターンに関する一考察

まずはこの楽譜を見てほしい。

ラヴェル:夜のガスパールの一曲目、オンディーヌです。
そして5小節目からのこの部分。

この楽譜にあるように、オンディーヌの32分音符のリズムパターンには、

1小節目のxyxx yxxy が5小節目の2拍目で xyyx yxxy に変わるものと、

5小節目の2拍目以降も xyxx yxxy のパターンをそのまま続けるものがある。

一般的に広く知られて演奏されているのは自筆譜&初版に書かれている、
5小節目以降のリズムパターンが変わるものだが、

5小節目以降のリズムパターンを変えずに弾くのもラヴェル自身が修正を認めたものである。

結論から言うと、
どちらで弾いたとしても作曲家が描きたかった風景・情景を表せれば良いのですが、具体的にどんな違いがあるのか考えてみようと思う。

自筆譜&初版

この譜面だと真ん中の段、2拍目からリズムパターンが変わっています。
xyxx yxxy から xyyx yxxyに。

リズムパターンが変わる利点や表現の違いとして、

1.
5小節目、左手のメロディーのスラーが新しく始まるところでパターンが変わっているので、新しい息吹を表現しやすい。

2.
最初のメロディー(長調)から、9小節目で二度上がったメロディー(短調)に変わる時にパターンが元に戻るので、
その違い(二度上がったエネルギーの差と、ハーモニーの色)を表現しやすい。

3.
「ソラソソ」と「ソララソ」だと、「ソララソ」の方が滞空時間が一瞬長いので、空気の流れ、音の揺れに表現の違いが出る。
そして、7〜8小節目にある左手の上行の音型とクレッシェンド、そして右手が「ソララソ」から「ラシシラ」に上がった際にそのエネルギーを表現しやすい。
「滞空時間」と言ってしまうと「着地」を前提としてしまうけれど、
この場合、そもそも空気中に舞っていた何かがほんの少し舞い上がる感じ。

ただ、この曲はオンディーヌ(水の精)なので、
32分音符は窓を打つ水とその雫だったりだったりするわけですが、
音の本質として、音程が上がるということはその分のエネルギーが存在します。

修正版

修正版はカサドシュやペルルミュテルの証言を元にしたもので、
ラヴェル本人がその修正を認めたものです。
ここで言う修正とは、5小節目でパターンが変わらずにそれまでのパターンを継続するものなのですが、
リズムパターンが変わらない利点としては、

1.
ラヴェルが楽譜に書いた微細な変化と共に、
ラヴェルがペルルミュテルに求めた
「もっと速く、もっと溶け込むように」という指示を表現しやすい。
ラヴェルの音楽の場合、何かを表現するために時間を使いすぎてしまうとラヴェルの持つリズム感の美しさが表現できない。
それは機械的なリズムではなく、より細かく、より深く音楽を感じることでしか表現できないリズム感の精緻さである。
(ただ、全く時間を使わずに微細な描写を表現するのは不可能なので、
歌として自然に消費される時間は使うべきだと思います。)

2.
音の微細な揺れが初版と比べると少ないため、音楽の大きな流れを感じやすい。

まとめ

色々書きましたが、
結局のところ、実際に弾いてみた時にほとんど違いはわかりません。笑
曲を知っている人が違うパターンを聴いた時にほんの少しの違和感を感じるくらい。

ただ、修正版で弾いている人が現段階ではまだ少ないため、
あえて修正版で弾いてみるのも面白いと思います。
その違いを知ってから初版で弾くとまた説得力が増して良いと思います。

と、文章では簡単に分析して意見を述べられるのですが、
それを演奏として表現するにはまだまだ練習が必要なので明日からまた練習に勤しみます!

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