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ドラマや映画の中に出てくる本の装丁が気になってしかたない

気になる。気になるのです。
氷菓」的に言うと「わたし、気になります!」だ。

何が気になるか、「装丁」が気になるのだ。

本のデザインを仕事にしてるからなのだと思うけど、ドラマとか映画とかアニメを見ていて、作中の小道具として「本」が出てくると、つい目が行ってしまう。

そしていろいろと妄想してしまう…。


アニメ「おそ松さん」3期

たとえば、最近だとアニメ「おそ松さん」3期の1話目だ。

「え?本なんか出てきましたっけ?」ってほど一瞬だけど、コンビニの本棚に並んだ方が出てくる。

冒頭、番組が始まっていることに気づかず、いつものようようにコンビニのイートインコーナーで時間を無駄に過ごす六つ子たち。
VRのエッチ動画の話から、夢や目標の話になり、「自由に生きるってなんだ」って文脈で出てくるのが、コンビニの書籍コーナーに並んでいる下のような本のカット。

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「自由に生きる」これはわかる。ありそうな本だ。
実際、そういうタイトルの本がある。
「これをやめれば人生変わる」わかる。
というか、このデザインに既視感が…。
そして「自己発見」。
なんてタイトルの本たちだ…。
後には「今日からできる○○」「新○」「10分でできる」「就○」「人生○○」などが並んでいる。

気になるのが「自己発見」の後ろの本、青い装丁の「キャ××××」で始まる本だ。
2行目は恐らく「ア」だろう。
これだけタイトルがカタカナ
わからない。これ、何?
著者名と思われるところに3本線が。
著者・訳者・監修者の可能性がある。
これはきっと洋書の翻訳本なんだろう。
自己啓発書なら「できる!」的なタイトルで、「キャン・○○○」だろうか?
「キャン・ア○○」なんだろう。
「ア」が下の方にあるからそれほど長い単語ではなさそうだ。
「キャン・アスク」(聞ける)うーん、ちがうな。
「キャン・アイ」(CAN I?) なんだそれ?
「キャント」の可能性もある。
「キャント・アグリー」(同意できない)。
・・・。

うーん、わからない。

そもそもこれ「キャン」なの?

「キャパ」、キャパシティとか?
「キャパ・ア…」なに? ア、なに!?
「キャパ・アウト」
・・・・・・。
たぶん「キャパ」でもない。
きっと、ちがう。

うーーん。
「キャッツ」?
「キャッツ・アイ」!!??
他の本と何のつながりもないけど、おそ松さんではたびたび6つ子の目が猫目になるシーンが出てくる。
そういえば一松は「猫松」って呼ばれてたし、そういえばこの本棚が映る直前に一松が折り紙でネコを作っていた。
そうだ、これは「キャッツ・アイ」だ!
そうにちがいない!
それでいいことにしよう。
うん、この本、「キャッツ・アイ」ね。
いいよね、それで。

あっ!!
あああ!!!
あああああああ!!


もしかして「キャスト・アウェイ」!!!!!!??
トム・ハンクス!ロバート・ゼメキス!!

キャスト・アウェイ=捨てられた、世間から見捨てられた、難破した

これじゃないか!!!

ちがうか!!?

「キャリア」では? とご意見をいただきました。
なるほど。

「キャリア アップ」これかも。
一番しっくりくるな。

誰か、答えを知ってる人がいたら教えてください。

…こうして作品の中に出てくる「本」の装丁に目が行ってしまうのだ。
そして、それについて考えてしまう。

実写だとなおさらだ。
架空の本の装丁を実際に作っているのだ。
イヤでも目がいってしまう。

ドラマ「未解決の女 警視庁文書捜査官」Season2

例えば「未解決の女 警視庁文書捜査官」Season2の第6話。

未解決の女、ザックリ言うと肉体派、頭脳派、2人の女性刑事のバディもの。
主人公は警視庁の文書解読係に所属しており、言葉や文字が事件解決の鍵になってくる。

第6話で出てくるのが「億りびと」というタイトルの本だ。
詳しいあらすじはこちら
被害者男性の書いた著書として登場するが、画面に映るのはほんとに一瞬だ。

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画面には一瞬しか映らないけど、実はものすごく細部まで作り込んである。

ちょっと、再現してみた(人物写真は別ものですが)。

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タイトル:億りびと
サブタイトル:絶対損をしない人の投資方法
タイトルキャッチ:初めての人でも大丈夫!/簡単にお金を稼げる!
著者名:西松文也
著者肩書き:イギリスで仮想通貨のノウハウを学ぶ仮想通貨の世界で現在、最も注目を浴びる「億りびと」の一人
帯ネーム:メイン「金儲けは簡単!知っているか知らないかだけ」
サブ「仮想通貨の第一人者が自身の成功のノウハウを赤裸々に語る!!」

こんなことが書いてある。

再現してみて、細部まで考えてきちんと作ってあることに驚く。
タイトルもしっかり目に入ってくるし、帯もしっかり読める。
優れたデザインであるかはともかく、きちんと「お金の本」であることがわかる既視感のあるデザインがほどこされている。
こういう小道具って「こういう感じの本」だということが分かればいいだけだと思うけど、基本をしっかり押さえつつ細部まで作ってあるのがすごい。
意外に画期的なのは、著者名の上に長めの人物紹介が入っているところ。
これは今まであまりやったことがない。
どこかで取り入れてもいいかも…。

これがドラマでは数秒しか画面に出てこない。
この本自体が事件解決の鍵になるわけでもない。
ただの小道具のひとつだ。なのに、この作り込み。
ドラマ制作のスタッフ、すごい。
正直、頭が下がる。

ドラマ「おカネの切れ目が恋のはじまり」

ドラマ「おカネの切れ目が恋のはじまり」にも小道具で本が出てくる。
モノにも恋にも一途な清貧女子とお金にルーズな浪費男子のラブコメ。通称・カネ恋。

いろいろなことが重なって、大きな悲しみと、大変な道のりの中で放送されたドラマだ。主演俳優不在でしっかり完結させた最終回は見事なラストだった。

その第2話に出てくるのが、こんな装丁の本。

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ヒロインが15年間片想いし続けているイケメンのファイナンシャルプランナー早乙女 健(演じているのは三浦翔平)が書いた本。
登場する本には、ヒロイン玲子へのサインが入っている。

著者の早乙女健は、こういう人物。

「顔面を金に換える男」。玲子の初恋の相手。
公認会計士、ファイナンシャルプランナーの資格を持ち、そのイケメンすぎる容姿を生かし、「お金の専門家」としてテレビ番組でコメンテーターも務め人気を博している。大学の社会人向け公開講座でお金にまつわる講義を担当。玲子はストーカーのごとく、講座が始まった時から通い続けているが、早乙女の人気からすぐに定員になってしまうため、その席の争奪に命を懸けている。人当たりがソフトでキラキラした表の顔の一方で、影のある謎めいた裏の顔を持つ。
番組ホームページより

本のタイトルは「Money is...」。
「お金の専門家」の本なのでお金の本のようだけど、帯にはこうある。

「投じれば動く──お金も、恋も── 
話題のお金のプリンスが伝えたい、幸せのルール」

どうやら、単なる「お金」の本でなく、「人生」や「恋愛」についても触れた本のようだ。
帯に蛍光ピンクを使っているので、女性ファンをターゲットにした本だと推測できる。
イケメンで女性ファンが多い著者。
メインターゲットを女性に絞るは正解だ。
どんな内容なんだろう。
「幸せのルール」とあるので、自己啓発的な内容の本なのだろうか。
ただ、そうすると帯にある「お金の成る木」のイラストに少し違和感が出てくる。
とするとやはり「お金を増やす」がメインテーマの本なのではないだろうか。
「投資」の本として出すと、女性に売りにくいので、「恋愛」を例えに出して、お金や投資に結びつけていくような内容のマネー本。
目次はこんな感じだろうか?
第1章 恋もお金も準備が大切
第2章 本物の投資先の見極め方
第3章 全てを手に入れる引き際と駆け引きの法則
第4章 恋もお金も本当に豊かになるための10ヵ条
お金の本のコーナーにも、恋愛本のコーナーにも、ビジネス書の棚にも展開を広げようとしているなかなか戦略性の高いマネー本。
できるな!早乙女! そして編集者!
テレビでのパブもバッチリで、これはそこそこ売れるに違いない。
…という勝手な妄想。

ちなみにこの装丁のモチーフはこの本ですよね。


映画「響 -HIBIKI-」

映画を見ていてもやっぱり装丁が気になる。
例えば、映画「響 -HIBIKI-」

突然、文壇に現れた天才女子高生作家が巻き起こす物語。
小説家がテーマの作品。
もちろんたくさん本が出てくる。

映画で主人公・響が所属する高校の文芸部には1400冊の本が並んでいて、右の棚は面白い本、左はつまらない本という並べ方をしてる。
パンフレットによるとこのうち「つまらない本」の装丁はすべてスタッフが作ったのだそうだ。
そりゃ「つまらない本」って実際の本を分類するのは気が引けるよね…。
「あっぱれ!独房」「天使ミカエル」「憧れスタンガン」「戦争ごっこ」「やさしい珈琲」…作ったのは背表紙だけだとは思うけど、それでも大変な作業だ。

映画全体では1万5千冊くらい本が出てくるそうなのだけど、本のコンシェルジュに頼んでリストを作ってもらったり、出版社の編集長に好きな本のアンケートを取って集めたのだそうだ。それぞれのキャラクターごとに部屋の本棚においてある書籍もこだわっている。

さて、そんな映画で出てくる装丁。
もちろん作中オリジナルの架空の本で、装丁もこのために作られている。

作中の人気作家、祖父江秋人(吉田栄作)が書き下ろした新刊「白のズエラット」

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発売日には書店に読者が殺到する様子がテレビ中継されるほどの人気作家で、「ソブエスト」と呼ばれる熱狂的ファンがいる。(詳しくはこちら
発売日に80万部刷り上がっていて、すでに20万部の増刷が決まっているという。
発売日ミリオン!!

小説「白のズエラット」は、祖父江秋人が5年ぶり、50歳で出版した本で、ファンタジー要素を取り入れ、新境地を開拓した内容なのだという。

「ズエラット」は地名で、ティリス・ゼムール州の州都。

州のほとんどがサハラ砂漠という地域、そこを舞台にしたある少女の話のようだ。

映画の中では装丁の全貌がなかなか見えず、帯も何が書かれているのかよく見えないのだけど、どうやら帯の文字数などから推測するに、宣伝パネルに小さく書かれている

「砂漠の果てで少女は何を見る──」

このコピーが帯に入っているようだ。

いろいろ調べていたら、テレビのリポーター役として映画に登場した真崎かれんさんのインスタに少しキレイな画像があった。帯コピーはこれで間違いなさそうだ。

装丁にあるシルエットは、砂漠の城だろうか?
映画版の装丁では、はっきりわからなかったので原作を見てみた。

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どうやら、砂漠の真ん中で倒れかかった塔のようだ。

宣伝ポスターには「衝撃のラストに驚愕する──祖父江明人の新たなる最高傑作」とある。
そしてポップには「圧倒的面白さ!」。
サハラ砂漠が舞台のファンタジー要素のある純文学で、少女が主人公、砂漠の果てで起きる驚愕するほど衝撃的なラスト、そして圧倒的面白さ! この塔は物語にどう絡むのか。いったいどんな話の内容なんだ、気になる。

映画では、この本を書店での展開を作るために実際に500冊、製本したようだ。

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一瞬のシーンのために本を500冊…。
映画製作って、途方もなくお金がかかるのがよくわかる。

映画に出てくるこの装丁、ちょっと気になったのが著者名のところについている「著・」の文字だ。
よく見ると著者名の前に「著・」と入っている。
原作に描かれた装丁には入っていない。
著者が祖父江秋人なので、「著」は間違いではない。
ただ、あまり小説で「著」と入っているものを見ない気がする。
ではなぜ、あえて「著」と入れたのか。

そこには5年のブランクが関係してくるのではないだろうか。
超人気作家が本を出さなかった5年の間、「祖父江秋人」研究本や評論本、祖父江秋人の作品をテーマにした二次創作など、本人の著作とは直接関係のない作品がちまたにあふれかえったのでは。
それらがはん濫してしまたがゆえに、著作であることを明らかにしなければならなかったのでは? そのための「著」だったのではないか。
謎は深まる。

この映画ではもう一冊、気になる装丁が出てくる。

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「豚小屋の豚」
芥川賞を目指して10年、工事現場でアルバイトをしながら小説を書き続ける作家・山本春平(小栗旬)の新作だ。
「豚小屋の豚」はバイトを辞めて本気で挑んだ渾身の作。
見事、芥川賞にノミネートされるも受賞は逃してしまう。

帯コピーにはこうある。

「犯罪者の更生率100%の監獄施設 絶望していく囚人たち」

更生率100%なのに、絶望する…かなり恐ろしい内容の本なのだろう。
装丁には牢屋で鉄球につながれた囚人とその影。
よく見るとカバーの中央に透かしのような感じで、心臓のようなものが薄く印刷されている。
最初はカーテンの模様の写り込みかと思ったけど、カバーの上部にも何か模様のような透かしがあるのでどうやら印刷のようだ。
この小説の装丁は原作には出てきてないと思うので、映画オリジナルのものだと思う。

けっこうしっかり作り込まれている印象だ。

しっかり作り込まれているはずなんだけど、不思議なことが一つある。
表1、つまりカバーの表面に著者名がないのだ。
カバーに著者名がないというのは考えられない。
帯に小さく「山本春平完全書き下ろし小説」とあるが、これで著者名表記とするのはあり得ない。
帯を外した下に著者名がある可能性はあるけど…
本来なら出版できないほどの致命的なミスと言っていいだろう。
これは単なるミスなのだろうか。
何か理由があるとしたら、どんな理由だろうか。

──売れていない作家だから名前で売ることを諦めた出版社の戦略。
あえて、著者名を表に出さないことで勝負しようという、、
・・・・
うーん、苦しいか。

とするとこれは編集者の無言のメッセージか。
「まずは4000部スタートだけど、もっと行くと思う。狙いは芥川賞でもふつうに売れると俺は信じているから」
本が完成した日、編集者からそんな電話がかかってくる。
売れない作家と向きあい真剣に二人三脚でやってきた編集者。
そんな編集者が著者名をあえて入れていないとしたら…
本当はもうやめるべき、諦めてくれ、そんな思いが裏にあったのではないか…。
芥川賞を逃して、踏み切りで列車に身を投じようとする著者の山本だけど、その絶望の一端には、実はこのことがあったのではないか…。

そんなわけあるかーーーい!
なのは分かっているのだけど、そういう妄想が楽しいのだ。
映画も面白かった!

映画「舟を編む」

本を作ることがテーマの映画もある。
「舟を編む」だ。
1冊の辞書「大渡海」を作る15年の物語。
「辞書作り」の映画だ。

この映画、15年かけて1冊の本を作る話だけあって、紙選びの話など、本を作る上でほかでは描かれない工程が映画に登場する。
紙屋が紙見本を持ってきて「厚さ50ミクロン 重さも1平方メートルあたり45gしかない 裏写りもしない」と自信ありげに披露するが、「ぬめり感がない」と突っ返されてしまう。
そして後日改良した別の紙を持ってくる。
そう、辞書ってこういう紙の選定がすごく重要よね、っていうシーン。
こういうのが描かれている映画ってめったにない。

終盤では、デザインについての話も出てくる。

装丁のデザインについての打ち合わせのシーンがある。
デザイナーの戸川を演じるのは、ピースの又吉直樹。
まだ小説家デビューする前の出演。
「読書大好き芸人」というのがキャスティングの理由だったようだ。

「大渡海」編集の馬締(松田龍平)と、西岡(オダギリジョー)との打ち合わせ。
台本には、

戸川「この装丁どうでしょう?」

としか書かれていないシーンだけど、本編ではセリフが足されている。

戸川「この装丁はどうでしょう? 海を渡る舟をイメージしました」
西岡「シンプルですけど、やわらかいですね。やわらかいけど、ちゃんとインパクトがある」
戸川「はい、そこをねらいました」

こういうやりとり。
西岡=オダジョー!!!
「シンプルですけど、やわらかいですね。やわらかいけど、ちゃんとインパクトがある」
うーーん、当たり前のことを言ってるだけにも感じるけど、説得力がありすぎる。
オダジョー、マジック!!!
すごく短いやりとりだけど、なかなか装丁の打ち合わせのシーンなんて映画で描かれないので、すごく貴重なシーンだ。
左が、打ち合わせ時のデザイン案、左が完成した辞書。

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この堂々たる辞書感。王道感のある辞書らしい装丁。
確かに「シンプルだけどやわらかい、でもインパクトがある」そうとしか言えない(気がする)!
いや、ほんと物体として「すごい完成度」と思って映画を見ていた。
本の販促のために作られた麻生久美子をモデルに使ったポスターもどえらくかっこいい。
この映画の美術ヤバイなと思っていたら、「大渡海」回りのアートディレクションは、井上嗣也の手によるものだそうで、そりゃ、いいに決まってるじゃん!
本物だ!!


ドラマ「重版出来!」

ドラマの話に戻るけど、装丁デザインのプロセスをていねいに描いた作品として「重版出来!」(2106年)を忘れてはいけない。

「重版出来!」はマンガ編集部に配属された新人編集者の奮闘を描いた「熱い!」お仕事ドラマ。毎週泣かされた。

その第5話で装丁をデザインするプロセスが、打ち合わせから完成まで描かれている。
デザインがメインのテーマではないので、そんなに長くはないけど、ここまでちゃんと描かれている作品は珍しい。

人気デザイナー野呂のもとを訪れる主人公の新人編集者・黒沢(黒木華)と、先輩編集者・五百旗頭(オダギリジョー)。
またオダジョー
デザイナーとの打ち合わせに欠かせないもの、それはオダジョーだ。
また、このオダジョー演じる五百旗頭が、ほんといい男なんだ!ちくしょう、惚れる。
ま、それはいい。
デザイナーの野呂を演じているのは、ヒャダインこと前山田健一。
この世界には野呂マジックというものが存在しているらしく、野呂が装丁を手がけると売れるのだとか。よく聞く都市伝説だ。

新人マンガ家・大塚シュート「キックス」の装丁デザインの打ち合わせは以下のようなやりとりだ。

デザイナー・野呂「どういう方向性にしますか?」
編集・五百旗頭「売れるデザインで」
野呂「売れる装丁、言うは易しですね」
五百旗頭「すみません」

なんてざっくりした打ち合わせなんだ。
でも「売れるデザインで」って言われたら、そうデザインするしかない。
それがデザイナーの仕事だ。
オダジョーに言われたらなおさらだ。

そしてマンガ家から編集部にイラストラフが3案、送られてくる。

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A案、B案、C案、これを社内でリサーチして意見をつのる。
好き嫌いあって、評は割れのが、編集長の「新人作家のはじめましてのご挨拶に横顔はない」という理由でAが外される。

B・C案に絞ったあと、これを書店に持って行きリサーチをする。

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書店員さんの意見を聞きつつ、実際に棚に置かれるイメージで、同時発売になる本と一緒にラフイラストを並べてみる。
他のマンガに暗い装丁が多いのでベースカラーは白にしようという方向性が決まる。

この結果を持って、再びデザイナーのこところに打ち合わせに行く。

「ベースの色は白、BかCのイラストで」ということがデザイナーに伝えられる。
「売れるデザインで」から大きな躍進だ。

そしてデザイナー野呂は、深夜の仕事部屋で、思考を巡らす。
「ベースは白、思春期、自意識の強さ・・・」浮かんできたワードをイメージしながら、パソコンに向かいデザインに取りかかっていく──。

こうして単行本のデザインができ上がる。

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イラストはCが採用され、ベースの色は白。
ボールを大きく入れることで動きを演出している。なるほど。
ドラマの中で「マジック」があると言っているのだから、間違いなくこの装丁にはマジックがあるのだ。

このドラマのステキなところは、なぜそのデザインが生まれたかという物語をしっかり描いていることだ。

そう、どんな本でも、本屋に並ぶまでに、たくさんの物語がある。
デザイン一つ取っても物語がある。

そこに厚みを与えるのが、デザイナー野呂が師匠から受けた教えだ。
「マジックなんてない、師匠の教えを守っているだけだよ」という野呂が師匠から教わったこと──

考えろ! 考えて、考えて、決められた予算の中で、できうる限り最高の仕事をしろ。
常に己に問え!
自分の仕事だと胸を張れるものを世の中に送り出せているのか

すごく短いエピソードなんだけど、デザインができるまでに色んな人の色んな想いがこもっていることを重層的描いていて、ほんとにこのドラマ、良いドラマだな〜と思った。

「真剣に働くのって、ものすごくカッコイイ! 
そして本気でやれば仕事は楽しい」

そう思わせてくれるドラマだ。ほんと見る度に泣いちゃう。
もちろん原作も大好きだ。

こんなにかっこいいものではないけど、一個前にnoteに書いた「本がデザインができるまで」にも通じる話だと思う。

こんな感じで物語の中の装丁、つい気になってしまうのだ。

最近だと他にドラマ「親バカ青春白書」とか、映画「男はつらいよ お帰り寅さん」「小説の神様 君としか描けない物語」とか、ちょとでも装丁が出てくると、それが気になってしまう。

最後に、いちばん圧倒されたのはこれかな?というのを。
公開時に話題になったので「ですよね〜」的なヤツですが、やっぱりこれは圧倒的だ。

映画「バクマン。」

映画「バクマン。」だ。

この映画のエンドクレジット。
このアイデアの素晴らしさ!!!

マンガのコマと吹き出しで、キャストのクレジットを流したあと、カメラが主人公2人の仕事場に入っていって、そのまま仕事部屋の本棚に並んだジャンプコミックの背表紙を映していく。
カメラは横移動で背表紙を映している。
一見、するとジャンプの歴代マンガの背表紙を映しているようなんだけど、これが一つ一つ、制作陣のクレジットになっている。

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「ヒカルの照明」(照明)富川英伸
「衣装の券」(衣装)伊賀大介
「キャスティング翼」(キャスティング)おおずさわこ
など、マンガのタイトルを役職にもじって、作家名がスタッフ名になっている。

この芸の細かさ。
ときどき実際のマンガの背表紙が混じっていたり、原作の「バクマン。」もそのまま出てきたり、つまりそれが原作のクレジットとして使われていて、何とも気が効いている。

こんな装丁の使い方があったとは!!
映画本編より、エンドクレジットで興奮した珍しい映画体験だった。
今見てもこれはアガる。
傑作エンドクレジット!!!最高の装丁使い!!!



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