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クリスマスにはロックウェルの絵を……

 12月のクリスマス前のこの時期、「ノーマン・ロックウェルの絵が見たいなぁ」と思うことが多くなる。ノーマン・ロックウェルは1910年代から1978年に亡くなるまで、精緻なタッチで古き良きアメリカの様子をユーモアを交えて描いた画家、イラストレーター。1916~1963年にはアメリカの人気雑誌『サタデー・イブニング・ポスト』の表紙の絵を担当しており、多くのアメリカ人に愛されてきた画家だと言っていいだろう。

 クリスマスの絵も多く、1990年代後半には日本の大手デパート伊勢丹のクリスマスラッピング紙で使われていたこともある。サンタクロースが小さな靴下に添えられた手紙を見てにっこりしながらプレゼントの太鼓を置こうとしている《A Drum for Tommy(トミーへの太鼓)》、たくさんのプレゼントを抱えて祖母の家へと家族みんなでやってくる《Merry Chiristmas Grandmma(メリークリスマスおばあちゃん)》――こうした絵が描かれた紙袋を抱える、幸せそうな表情をした人をクリスマス前の町でよく見かけたものだ(僕もその一人だったのだけれども……)。この時期に彼の絵が見たくなるのは、そのイメージが強いからかもしれない。

 ロックウェルの作品に会いたくて、晩年彼が住んでいたアメリカの地方都市にあるノーマン・ロックウェル美術館を訪れたことがある。ボストンから車で2時間30分ほどのストックブリッジという町にその美術館はあった。緑の芝生が美しい高台に建つこぢんまりとした美術館で、敷地の一角にはロックウェルがアトリエとして使っていた建物も移築されていた。
 家族旅行に出かけるときに車の中で大はしゃぎしていた子供たちが、帰りにはぐったりしてしまっている様子を描いた《Going and Coming(日本語タイトル不明)》、病院で注射を打たれる前の子供が恐る恐るズボンを下げてお尻を出そうとしている《Before the Shot(注射の前)》など、子供を描いたものが多く、見ているだけで思わず顔がほころんでしまう。とにかく子供たちの日常の切り取り方が絶妙なのだ。

 ストックブリッジを訪ねた夜に宿泊したのはレッドライオン・インというホテル。ロックウェルの大作のひとつ、クリスマスの日のストックブリッジの町を描いた《Stockbridge Mainstreet at Christmas(日本語タイトル不明)》にも出ているコロニアルスタイルの瀟洒なホテルだ。エレベータは蛇腹式のドアを自分で開閉するクラシックなもので、客室はバラ柄の壁紙のアーリーアメリカンスタイル。
 ホテルの入口にはメインストリートを望むバルコニーがあった。夕暮れ迫る町を眺めながらバルコニーでコーヒーを味わった。自然豊かで幸福感あふれる町の様子は、ロックウェルの絵に描かれた当時とほとんど変わっていない。
「変わらない贅沢、幸せってあるな」
 そう思った。
 今年のクリスマスも、いつもと変わらず迎えたい……そんな願いを込めて、このコラムを読んでくださった皆さんへ。

 メリークリスマス!

(秋田魁新報土曜コラム『遠い風 近い風』2020.12.19を一部修正)

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