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【ハートフル】さよならは別れの言葉だとしても

カフェでお茶している絵美里の耳に、近くの席で女性同士によって繰り広げられている激しいバトルが飛び込んできました。
そのやり取りが面白すぎて、絵美里は笑いが止まりません。
嫁と姑と思われる玲と万智が、娘の進路について真っ向から対立する終わりなき闘い──
絵美里は興味津々で聞き耳を立て、どんどんのめり込んでいきます。
が、少しずつその違和感に気がついていきます。
おかしい……二人は一体何について話しているの?
そして絵美里にも関係する重大な事実に気がついた時、すでに後戻りはできなくなっていたのです!

*************
▶ジャンル:ハートフル

▶出演

  • 万智:原田有紀(東北新社)

  • 玲:高林香紀(東北新社)

  • 絵美里:水原絵理(東北新社)

▶スタッフ

  • 作/演出:山本憲司(東北新社/OND°)

  • プロデュース:田中見希子(東北新社)

  • 音効協力:小林地香子

  • 収録協力:オムニバス・ジャパン

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『さよならは別れの言葉だとしても』シナリオ

登場人物
 万智まち(40)
 れい(32)
 絵美里えみり(26)

   カフェのざわめき。
   カウンターの絵美里。離れたテーブル席の万智と玲。
絵美里「(電話で)だからバック・トゥ・ザ・フューチャーだよバック・トゥ・ザ・フューチャー!…………見てない? うそでしょ。高校生の主人公がタイムスリップして両親をくっつけようとする話!…………いや、見てないんでしょ? 知ってるって言えないよ! 全人類の教養だよ、常識だよ。…………え? あ、そうそう。だからバック・トゥ・ザ・フューチャーが来るの! 舞台! 来年。4月に!…………いや面白いに決まってん……つか見てないあんたに言ってもしょうがないか。せっかく教えてやってんのにこんなビッグニュース。いいやもう。(突然調子が変わり小声に)つかさぁ(笑いが堪えきれない)あのさあ(笑う)さっきから(また笑う)いや、実はさっきからさあ(また笑う)なんかすっごいバトってる客がいて。(小声)私のうしろ。嫁と姑だと思うんだけどすっごいのよ剣幕が。お受験? の話だと思うんだけど。…………え? バカ、振り返れるわけないでしょ!……と言いつつ、やば、目合ったかも」
万智「だから何のこだわり? 地元の公立の小学校でいいでしょ!」
玲「でも、私は娘の意思を尊重したいんです。それだけです」
絵美里「あ、とりあえず聞きたいからあとで」
万智「意思ってね、まだあの子6つでしょ? そんな、世界が何かもまだ知らない歳で自分の意志なんてあるわけないでしょ!」
絵美里「決めつけるぅー!」
玲「そうでしょうか」
万智「そのなに、ミッション系のエスカレーター式の学校? そこでなきゃ得られないことでもあるの? そんなものないでしょ!」
玲「それは……」
絵美里「がんばれー……」
万智「子供は親が導いてやらなきゃいけないの。そういう玲さんの考え方は娘の人生を台無しにするだけ!」
絵美里「え……」
玲「でも……私、娘の可能性を奪いたくないから……」
絵美里「そうだよそうだよ」
万智「子供の特性や能力を一番わかってるのは親なの! 親が道を示してやることが、本当の意味で将来的に子供に自由を与えることになるの!」
絵美里「そうかあ?」
玲「でも、自分の娘を信じてやりたいって……」
万智「それは自分勝手ってもんよ。玲さんの押しつけ!」
絵美里「えー!」
玲「押しつけるわけじゃ……私はただ、娘のその……」
絵美里「負けるな!」
   ドン!
絵美里「うわ、テーブル叩いた!」
万智「だからぁ!! あなたがどう思おうと関係ないの! あなたの娘の将来をあなたが決める権利はないの! そうでしょ!」
絵美里「えーっ? ひどっ」
玲「……娘の!」
万智「何」
玲「……娘の気持ちはどうなんです?」
万智「気持ち? あなたの言う“気持ち”が、自分の娘を危険にさらしてることがわからないの?」
絵美里「危険にさらしてる?」
万智「娘を守って正しい・・・道に導くのが親ってもんでしょ!」
絵美里「正しい道?」
玲「……私、理解しようとはしてます。でも、これでいいのかなって……私は娘が自分の目で世界を見て、自分の信じるものを見つけてほしくて……」
絵美里「そうだよね」
万智「わかんない人ねえ! 私の道こそが彼女が真の幸福を見つけられる唯一の道なの!」
絵美里「何この自信……」
玲「私は……私は娘が自分の選択をする歳になったとき、彼女自身で決めるべきだと思うんです」
絵美里「そうだ」
玲「今は、彼女が学校で友達を作って、いろんな経験をすることが最も大事なんじゃないかって……」
万智「だからね、それは公立行ったって同じでしょ? 入り口が違うだけでしょ!」
絵美里「強引だねー」
玲「ええ……まあ……。私、娘のことを心から愛してるんです」
万智「私が愛してないとでも言うの!」
玲「いえ、そんな……」
万智「というよりどっちかと言うと私のほうが愛してるわ!」
絵美里「んなことはないっしょ」
玲「それはわかってます」
絵美里「え、なんで?」
玲「だって万智さんにとっても私の娘はかけがいのない存在ですからね」
万智「もちろんよ!」
絵美里「ん? どういう関係?」
玲「でも母親の気持ちというのも少しはわかってほしいんです。母親っていうのはどうしても娘の幸せを願わずにはいられないんです」
絵美里「だよね」
万智「わかってるわそんなこと! でも、私には見えてるわけ。あなたの娘の将来が!」
絵美里「将来が?」
玲「ええ……」
絵美里「見えてる?」
万智「それは厳然とした事実なの!」
絵美里「なんでこの人こんな自信たっぷりなの……」
玲「わかってますけど……」
万智「わかってると言いながらあなたは全然わかってない! あなたは娘に未来を選ばせたいと言いながら、やってることは真逆なの!」
絵美里「……ん?」
万智「娘を敷かれたレールに乗せようとしてるだけなのよ!」
玲「はい……」
絵美里「言いくるめられちゃだめ!」
万智「あなたの娘の未来は決まってる・・・・・
絵美里「決まってる?」
万智「あなたはその決まってる未来の通りに娘を仕向けようとしてるだけ!」
絵美里「どういう話?」
玲「そんなことは……」
万智「本当に娘の自由にさせてあげたいんなら、逆に娘の意志に従わないこと。そうじゃない?」
玲「ええ……」
絵美里「ん? もしかして嫁と姑じゃない……?」
万智「あなたのその選択が、娘の未来を決して明るくしないことがどうして分からないの!」
絵美里「え、逆になんで分かんの?」
玲「……絶対、なんですか?」
万智「ええ!」
玲「絶対に?」
万智「絶対に!」
玲「絶対に娘は世界を破滅・・に導くんですね」
絵美里「え……?」
万智「そう。絶対!」
絵美里「あ、占い?」
玲「そうですか……」
絵美里「そうか占いか! 占い師と客なんだ!」
万智「あきらめなさい!」
絵美里「なるほどー」
玲「……揺らぐ、ってこともないんですか?」
絵美里「ん?」
万智「揺らぐ?」
玲「時の流れがです」
絵美里「何の話?」
万智「(ため息)わかってないのね!」
玲「だって……だってそうじゃないですか。私が今持ってるこのアイスティー、私飲むと思います? 飲まないと思います?」
万智「は?」
玲「私、まだ飲むかどうか決めてないんですよ。でも決まってるんですか? 未来」
絵美里「未来を占ってもらってんのねー……」
万智「私はあなたがそれを飲むかどうかなんか知らない。占い師じゃないんだから」
絵美里「占い師じゃなかった!」
万智「でも、現に私は今ここにいるじゃない」
玲「はい……」
万智「それが証明・・になってるでしょ?」
絵美里「証明?」
玲「……わかりません……」 」
万智「じゃあ何度でもわかるように説明する」
絵美里「はい」
万智「私が今存在するのは」
玲「はい」
絵美里「はい」
万智「今存在するのは、あなたの娘が25のときに結婚して、私を産んだからでしょ?」
絵美里「はあ?」
玲「……そうです」
絵美里「はあぁぁぁぁぁぁぁっ???」
万智「あなたの娘から生まれた私が2085年からこの時代に戻って」
絵美里「はあ?」
万智「祖母のあなたに会いに来てる」
絵美里「2085年?」
万智「そのことが、つまり未来が決まってることの証明じゃないの!」
絵美里「バック・トゥ・ザ・フューチャー?」
玲「……そうですね」
絵美里「うそでしょー!」
万智「それとも玲さん、あなた、私の存在を否定するの?」
絵美里「ガチ? ガチのやつ?」
玲「いえ、そんな……」
万智「もう十分私があなたの娘の子だってことを証明したわよね?」
絵美里「この人は孫」
玲「……しました……」
絵美里「こっちおばあちゃん」
万智「じゃああと何が!」
絵美里「うそ……」
玲「でも私みたいなね、専業主婦ですよ、ただの専業主婦。その私の娘が、そんな地球の運命を変えるようなことをしでかすなんて、どうしても信じられないから……」
絵美里「え?」
万智「それはわかるけど。でも一刻の猶予もないの。一週間の猶予はもうそこまでなの。地球が滅びるのっ!」
絵美里「はあ? なにこの話!」
万智「ねえ、考えてみて。この平和な地球、平和な日本で想像することなんて無理だと思うけど。明日滅びちゃうわけ」
絵美里「明日滅びちゃう?」
万智「ね? 人類の存亡があなたの娘であり私の母にかかってるわけ!」
絵美里「うそでしょ……」
玲「……何せいでしたっけ」
万智「だからアンドロメダ座。あるでしょ? そのM31といわれるアンドロメダ銀河の中心部の……ってそんな説明してる場合じゃないの!」
玲「でも……どんな宇宙人なんですか?」
絵美里「宇宙人出てきた!」
万智「そんなの私も知らないしまだ人類も見てないの。ただ地球を侵略しようとして一週間の猶予が与えられてる。それだけ!」
絵美里「うそだうそだうそだうそだ」
玲「(泣き声になり)でもどうして娘が……」
万智「だから、それは仕方なかったの。母が月に行って、月の裏側で発見したその異星人の遺跡。それを掘り出しさえしなければ信号が宇宙に向かって放たれることはなかったんだから」
絵美里「えーっ!」
万智「だからそこだけは信じてほしいの。決して母は地球を滅ぼしたいと思ってそれをしたわけじゃない」
玲「はい……」
万智「ほら見て」
玲「これが、私の娘……」
万智「あくまでも人類の科学の進歩のためにやったこと」
玲「月でピースしてる……」
絵美里「写真見てええええ……」
万智「だけど! 私の父とさえ出会わなければ、母は月へは行かなかったの」
玲「(ふと気づき)……あ、でも! それならその結婚相手と出会わせなきゃいいんじゃないんですか?」
絵美里「あ、そうだよ!」
万智「やったわよ! やったやった。もう全部やった」
玲「え?」
絵美里「え?」
万智「これまでたくさんの使者がね、時代をさかのぼって母の行動を阻止しようとしてきたの」
絵美里「ターミネーターか……」
万智「でも無理だったの。どうしても軌道修正されてしまうの」
玲「軌道修正……」
万智「宇宙飛行士となる母とJAXAの有人飛行部門の責任者となる科学者の父が出会ったのは高校の同窓会。だから最初はまず同窓会の出会いを阻止しようとした。でも無理だった」
絵美里「そっかー」
万智「その後も母の進路や父の就職も阻止しようとした。でもダメだった」
絵美里「そうだったんだー」
万智「きっとあなたが今入れようとしてるミッション系の学校に何かわからないパワーがある。そうに違いないという結論に達したの。国連は」
玲「国連が……」
万智「だからもうこの入学だけは止めなければならない。未来を変えなきゃならない」
絵美里「そっかー……」
万智「そして、そのことができるのは私だけ!」
玲「え……」
万智「私の母であり、あなたは私のおばあちゃんなんですもん。他人にはやらせられない。だから今回のタイムリープは、私から立候補したことなの!」
玲「そうなんですか?」
万智「私は、自分の『命』をかけてここに来たの。わかる? 父と母の出会いを妨げるということは、それが成功すれば私はこの世に生まれないということ」
絵美里「うそ……」
万智「私の話をあなたが聞いて納得してくれたら、その瞬間に私は消えるの!」
絵美里「エーッ!」
玲「消える……」
万智「……わかった? 私の覚悟。ね、だからお願い」
絵美里「いやー、これキツイっしょ……」」
玲「無理無理無理無理無理無理。そんなこと聞いたら逆に無理」
万智「無理じゃない! 私一人が消えるのと人類が滅びるのとどっちを選ぶの!」
絵美里「エーッ」
玲「それは……それはもちろん──」
万智「私なんて言わないで! 私がどんな思いでここに来たかこれ以上言わせないで!」
玲「でも……」
万智「頼むから! 決めて。今ここで!」
玲「(泣き出す)ぐすん、ぐすん……」
万智「泣かないでよ。私だってつらいんだから」
玲「(泣き声)だって、私が娘を公立に入れたらあなたはこの世に生まれなくなるんでしょ」
万智「そうです」
玲「顔、見せて」
万智「え……」
玲「覚えておきたいから」
万智「……あったかい手」
玲「そうね。よく見たら私に似てる。いや、私の母に似てるかもね。年齢的に」
万智「歳のことはいいから」
玲「ありがとう……人類のために」
万智「いいえ」
玲「私、誇りに思うよ」
万智「玲さん……」
玲「おばあちゃん、でしょ?」
万智「え……?」
玲「一回、呼んでくれる?」
万智「こ、ここで?」
玲「お願いします」
万智「……お、おばあちゃん……」
玲「なんか変な気分」
万智「言わしといて!」
万智・玲「(泣き笑い)」
万智「(不意に)さよなら」
玲「待って!」
万智「楽しかった。会えてよかった。悔いはないわ」
玲「そんな……」
   絵美里、立ち上がる。
絵美里「(二人に)感動しました!」
万智・玲「え?」
絵美里「お二人の親子、じゃなくておばあさんと孫の愛情に打たれました!」
玲「聞いてたの? 人の話。あなた」
絵美里「だってあんな大きな声で喋っといてー」
万智「(突然キッとなり)あなたっ!」
絵美里「はい?」
万智「ストップ!」
絵美里「え?」
万智「そこでストップ! こっちに来ない!」
絵美里「な、なにか?」
万智「あなたね。あなただったのね!」
絵美里「え? あ、す、すいません。盗み聞きするみたいなことしちゃって。でも耳に入ってきちゃったんで」
万智「違うの!」
絵美里「え?」
万智「来ないで!」
絵美里「な、何が?」
万智「いいから座って。立たない! 座らないと変えられる歴史も変えられないから!」
絵美里「わ、わけが……」
万智「この玲さんは、娘の入学願書を旦那さん、つまり私の祖父に預けてるの。そうでしょ?」
玲「なんでそれを?」
万智「でも旦那さんは、願書を出すかどうかまだ決めかねていて、確認の電話を玲さんにしてくるの」
玲「そうなの? いつ」
万智「今」
玲「今?」
万智「でも、その電話に玲さん、あなたは出ることができない。そして電話に玲さんが出なかったから、旦那さんはそのまま願書を出して、その結果ミッション系のエスカレーター式の学校に入学してしまうことになるの。全部母に聞いた話」
玲「どうしてそんなことに……」
万智「どうして電話に出られなかったか。それは、あなたに駆け寄った客がいたから」
玲「え?」
万智「駆け寄って来た客がこけて、はずみでテーブルのグラスを倒してあなたのスマホを水びたしにするの!」
絵美里「……(気づく)え、私? 私が?」
万智「見てて」
   スマホが鳴る。
絵美里「あ、ほんとだ!」
   玲、スマホに出る。
玲「もしもし……あ、あなた。…………うん、うん。そう。願書でしょ」
万智「早く!」
玲「…………うん、うん……」
万智「早く言って」
絵美里「玲さん!」
万智「決めたんでしょ? ね?」
玲「……だって、だって……」
万智「お願い。頼むから!」
玲「…………え? ううん、なんでもない。友達。その……(泣き出す)ごめんなさい。…………うん、うん。そうなの。やっぱりやめる。願書出さない。あの子は、地元の学校に。…………うん……」
絵美里「玲さん……」
玲「うん、ごめんなさい。そういうことだから。うん、じゃあ」
   スマホ切る。
絵美里「……玲さん?」
玲「……(我に返って)あ、ごめんなさい」
絵美里「あの……」
玲「え、どこ? あの人は?」
絵美里「……消えました」
玲「そんな……」
絵美里「未来が……変わったんだ」
玲「さよなら。でもいつか会える。きっと。また会える、そんな気がする」
                              〈終〉

シナリオの著作権は、山本憲司に帰属します。
無許可での転載・複製・改変等の行為は固く禁じます。
このシナリオを使用しての音声・映像作品の制作はご自由にどうぞ。
ただし、以下のクレジットを表記してください。(作品内、もしくは詳細欄など)
【脚本:山本憲司】
オリジナルシナリオへのリンクもお願いします。
また、作品リンク等をお問い合わせフォームよりお知らせください。

*番組紹介*
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