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愛すべきミステリー小説〜『名探偵のままでいて』〜

こんにちは。桜小路いをりです。

「このミステリーがすごい!大賞」受賞作、小西マサテルさんの『名探偵のままでいて』を読み終えました。

語彙力をすっ飛ばして書くと、ほんっとうに(!)素敵な小説でした。

古典ミステリーへの愛、ミステリーそのものへの愛が随所に溢れていて、オマージュも散りばめられていて。

古典ミステリーがお好きな方にはもちろんのこと、あまり馴染みのない(私のような)方も、すごくすごく楽しめる1冊だと思います。

この物語の探偵役は、主人公の小学校教諭・楓の祖父。

かつては小学校の校長先生をしていた切れ者でしたが、現在はレビー小体型認知症を患っています。
この認知症は、記憶障害や幻視を伴う症状が特徴。

楓は、仕事の合間をぬって祖父の家に行き、介護をしています。

しかし、祖父は、その知性が衰えたわけではありませんでした。
楓の身の周りで起こった不思議な出来事を話すと、祖父はたちまち生き生きとその謎を解いてしまうのです。

推理が始まるときの合図は、決まってこの台詞。

「楓。煙草を一本くれないか」

認知症の祖父が安楽椅子探偵のミステリー、という触れ込みに、いったいどんなお話なのかとワクワクしながらページを開いたのですが……もう、たまらなく惹きつけられました。

「幻視」を伴う認知症を患う楓の祖父と、身の周りの謎をもってくる楓。
ふたりの空気感は優しくて、でも、ひとたび謎解きとなれば、その空気がきりっと引き締まって。

何より、校長先生時代は「まどふき先生」の愛称で親しまれてきた楓の祖父の人柄が、とても魅力的。

私自身、父方、母方の祖父共に私が生まれた頃には亡くなっていたので、「おじいちゃんって、こんな感じなのかな」と、楓に自分を投影するような気持ちで読み進めていました。

もちろん、他のキャラクターもみんな魅力的なので、ミステリー要素だけでなく、人間模様もとても見どころ。
ミステリーとしてのドキドキだけではなく、登場人物どうしの関係性の変化の展開も、楽しむことができます。

しかも、テンポよく進む会話は、くすっと笑えたり深く考えさせられたり、時には、心がきゅっとなったり。ページの向こうから、じんわりとその空気感が伝わってくるような文章が印象的でした。

何より、この本は読後感がすごく素敵。

「良質なミステリー」を凝縮して点滴してもらったような、絶妙かつ見事な塩梅のラストでした。
また、それ自体がとあるミステリーのオマージュにもなっています。

終わり方が、とにかく綺麗すぎる。
私は大好きな終わり方でした。

『名探偵のままでいて』というタイトルは、主人公の楓自身の祈りであり願いです。
でも、読み終える頃にはきっと、このタイトルに、読み手自身も「楓の祖父に、名探偵のままでいてほしい」という祈りと願いを重ねてしまいます。

また、私がこの物語から感じたのは、「知性をどう使うか」という問いでした。

楓の祖父の知性の使い方は、その知性の豊かさあってこその、美しさと強さ、温かさに溢れている気がします。

知性を、人と比べたりすることなく、真っ直ぐに正しく使っていける人って、すごく素敵で。
「本物の賢さ」のようなものも、見せてもらった気がします。

この本をきっかけに読んでみたい古典作品、名作も増えたので、読書の幅も広がる予感。

『名探偵のままでいて』、ぜひお手に取ってみてください。

きっと、かけがえのない読書体験になるはずです。

今回お借りした見出し画像は、(季節外れですが)たんぽぽの写真です。作中、『たんぽぽ娘』というお話がキーワードのひとつになっていたのが印象的で、選ばせていただきました。『ビブリア古書堂の事件手帖』シリーズを読んだときから気になっていたので、近々読む予定です。

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