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太宰治『女生徒』にもらった、想いの数々。

こんにちは。桜小路いをりです。

先日、プロフィールの記事に「愛読書」の項目をプラスしました。

(実は、少しずつアップデートされているプロフィール記事。時折のぞいていただけると嬉しいです。)

私が愛読書として必ず挙げる本のうちのひとつが、太宰治の『女生徒』です。

高校1年生のときに出会ってから、ずっと大好き。

今年の夏の角川文庫の「カドフェス」でピックアップされていて、ちゃっかり限定カバーもお迎えしました。

『女生徒』が表題になっていますが、太宰が得意とした女性の告白体小説がいくつも収録された本です。今、一編ずつゆっくり読み進めています。

私が初めて読んだ『女生徒』は、文庫本ではなく、図書館で借りた「乙女の本棚」シリーズでした。

今井キラさんのイラストが繊細かつ美しくて、『女生徒』の世界観にとてもよく似合っていて。
しばらくの間、何もかも忘れて没頭してしまったことが、とても記憶に残っています。

行を目で追うたび、ページを捲るたび、胸が苦しくなるほどたくさん共感して、たまらない気持ちになって、気づけば何度も読み返していました。

ひとりの少女の、朝起きてから、夜眠るまでの1日の物語。

彼女は、他の人から見たらどうということもない一瞬に感動したり、悲しくなったり、考え込んだり、憧れを思い描いたりします。

この傘には、ボンネット風の帽子が、きっと似合う。ピンクの裾の長い、衿の大きく開いた着物に、黒い絹レエスで編んだ長い手袋をして、大きな鍔の広い帽子には、美しい紫のすみれをつける。(中略)ああ、おかしい、おかしい。現実は、この古ぼけた奇態な、柄のひょろ長い雨傘一本。自分が、みじめで可哀想。マッチ売りの娘さん。どれ、草でも、むしって行きましょう。

こんなふうに、目まぐるしく色んなことに想いを馳せて、くるくるとたくさんのことを頭に浮かべていく主人公。

彼女が考えるあれこれは、はっとするほど鮮烈で、共感することばかりで。

時代背景も家庭環境も違うけれど、人知れず同志を得たような、そんな不思議な一体感を、読んでいる間ずっと感じていました。

「こう思うのって、私だけじゃないんだ」

そう知ったとき、心の中の重苦しい何かがふわりとほどけて、ほっとしたような気持ちになりました。

でも、同時に、少し寂しいような、真新しい文庫本に折り目がついてしまった瞬間のような、なんとも言えない気持ちにもなって。

読み終えたとき、ひとつ大人になったような気持ちになったことも、まだ覚えています。

キズ、というと、まるで辛いもののように思うけれど。

本当に、「キズ」としか言いようのない痕が心に刻まれたような、息苦しいようでいて柔らかな読後感が、ずっとずっと大好きです。

読むたびに新しい発見があるから、私は、主人公の「女生徒」と同年代のときに、『女生徒』という作品に出会えたことがとても幸運だったな、と思います。

自分から、本を読むということを取ってしまったら、この経験の無い私は、泣きべそをかくことだろう。それほど私は、本に書かれてある事に頼っている。一つの本を読んでは、パッとその本に夢中になり、信頼し、同化し、共鳴し、それに生活をくっつけてみるのだ。また、他の本を読むと、たちまち、クルッとかわって、すましている。人のものを盗んで来て自分のものにちゃんと作り直す才能は、そのずるさは、これは私の唯一の特技だ。本当に、このずるさ、いんちきには厭になる。

つい引用が長くなってしまいましたが、最も印象に残っているのは、ここの部分です。

私も1冊の本に影響を受けやすいところがあるし、ささいな部分だけれど、周りの人よりちょっと「ずるい」ところがある自負も、心のどこかであって。

だからよけいに、ここの文章が胸に刺さりました。
今もそれは抜けてないんじゃないかな、と思うくらい、私の心の奥に息づいている一節です。

私にとって、「かけがえのない」という言葉では言い表せないほど素敵な読書体験を、想いの数々を教えてくれた『女生徒』。

私と『女生徒』の彼女の年齢は、これからもどんどん離れていってしまうけれど。
私の心には、いつまでも美しく儚く、彼女の姿が在り続けてくれる気がします。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

この記事が、あなたが『女生徒』を手に取るきっかけ、もしくは、もう一度読み返すきっかけになれば嬉しいです。

今回お借りした見出し画像は、ハイカラな雰囲気の女の子のイラストです。『女生徒』の彼女はちょっと夢見がちなイメージがあるので、ファンタジーなイラストを選ばせていただきました。可愛い。即決でした。


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