「家のようなもの」の展望─ 「さんごさん」から見るこれからの家のかたち


『新建築住宅特集』2018年11月号は
「特集:「家びらき」のすすめ─住宅を街に開放する」

発売を記念しまして,『新建築住宅特集』2017年10月号掲載の五島列島・福江島富江に立つ築80年の民家を改修した「さんごさん」.
その実践からこれからの家を考える「特集記事:「家のようなもの」の展望─ 「さんごさん」から見るこれからの家のかたち」をお届けします.

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能作淳平(のうさく・じゅんぺい)
1983年富山県生まれ/2006年武蔵工業大学(現、東京都市大学)建築学科卒業/2006~10年長谷川豪建築設計事務所勤務/2010年ノウサクジュンペイアーキテクツ設立/現在、東京都市大学、東京藝術大学非常勤講師

鳥巣智行(とりす・ともゆき)
コピーライター/さんごさん共同設立者/1983年長崎県生まれ/2008年千葉大学大学院自然科学研究科デザイン専攻修了、電通入社

大来優(おおらい・ゆう)
アートディレクター/さんごさん共同設立者/1983年山口県生まれ町田育ち/2008年東京芸術大学卒業、電通入社


目次
●建築の名付け方
●人生100年時代の家びらき
●辺境という言葉から見えた障壁
●これからの家の姿


五島列島でつくった「さんごさん」(『新建築住宅特集』2017年10月号掲載)は、普段東京で暮らす私たちの、もうひとつの暮らしの拠点としての、「家のようなもの」である。

さんごさん全景。2016年8月7日に行われたオープニングパーティには、五島の人びとのみならず長崎や東京からも友人や報道陣など50名以上が集まった。
撮影:新建築社写真部

プロジェクトは、長崎県の五島に、友人と一緒に泊まれる別荘をもちたいというところから始まった。

島の人の紹介で築80年の古い民家を購入して、それをどんなものにするか考えた。しかし、東京の会社員が島に訪れるのは年に数回。自分たちが使っていない間は島の人に活用してもらいたい。
プロジェクトは別荘からゲストハウス、そして図書館、コーヒースタンド、イベントスペースと、プライベートなものから島に開かれた活動の拠点に変わっていった。とはいっても、自分たちが住んでいなかった土地に、暮らしの拠点をもつことは簡単ではない。


開かれたというと耳障りはよいが、場所を用意すればよいわけではないし、通信技術によって遠隔で意思の疎通を図るだけでも足りない。
活きた拠点とするには、ひと時を共に過ごすだけではなく、共に働き、共につくっていく必要がある。そして、島のことが分からないのだから、他所からデザインをするのではなく、島に入り込んでリサーチをしながら設計を進めた。


建主と設計者が一緒に島の様子を知るために「サテライトオフィスを島につくる」という名目で現場のブログを開設し、島での些細な出来事も記録していった。
たとえば、周辺の街並みに見られる朱色の建物は船に使われる防腐剤入りの塗料であるという、船舶技術がある島ならではの理由があったり、島の生業のひとつである珊瑚店から廃棄される個性的な端材があることを知ったり、島の表土の多くは溶岩でできているため、海岸だけでなく塀や建物の基礎にも使用されることを知り、それを使って土間をつくることを思い立つ。


プロジェクトがより開かれた使い方に変化していくと、建築も島に開かれたつくり方が求められ、外壁は島の色である朱色に塗られ、人が入りやすいように床は土間になり、窓からは本棚やコーヒースタンドなどさまざまなものが顔をのぞかせるかたちとなっていった。設計者と建主が島での暮らしや島の産業のネットワークを学ぶ経験が、建築になったもの、それがさんごさんだ。

さんごさんでの日常の風景。入り口前でストリートバーベキュー。
提供:さんごさん

建主と設計者が自分たちの生き方と建築の目指すところを模索しながら、とにかくつくって開いてみて、そこから学んだことを振り返りこの「家のようなもの」の可能性について考える。



建築の名付け方

計画が始まった頃、さんごさんは「富江図書館」という名前だった。

地元の人たちも交えた最初のミーティングで「富江には大きな本屋や図書館がないため、図書館ができると嬉しい」という意見もあり、地名と機能を組み合わせた名前とした。

しかしプロジェクトを進めるにつれてこの名前に違和感を感じるようになった。
図書館というと大声で話したり、当然酒なんて飲めない。友人を招きたいしバーベキューもしたい。図書館という言葉によって利用者の意識や使用シーンを限定してしまう。


もうひとつのきっかけとなったのが、浄化槽設置の際の五島市役所とのやりとりだ。
さんごさんがあるエリアは下水道が未整備のため、水洗トイレを設置するために旅館業法の基準に合わせて7人槽で届けを出していたが、保健所からは図書館は7人槽では全く不十分だと指導が入った。
図面を見せて、図書館とはいうもののゲストハウスでもあり、交流施設でもあるといくら説明しても、図書館なのであれば図書館の基準を満たしてもらわないと困る、となる。
現代の施設は、使用用途と利用人数がはっきりとしていないと排除されるという典型であった。また、地域の人が抱く印象やこれからの活動範囲が「図書館」という言葉によって限定されてしまうことは本意ではない。


その後挙がった「さんごさん」という名前は、珊瑚漁で栄えた富江という場所の歴史に由来する。普段意識することがないその土地の歴史に「さん」を付けて擬人化することで多くの人の口の端にのりやすく、可愛がってもらえるのではないかという建築のあり方もそこに込めている。

島内の出張本屋、「本処てるてる」による定期イベント。
提供:さんごさん


建主と設計者が描き出した「家のようなもの」には名前がついていないし、定義もされていない。
みんなで運営しながらこの場の成長を見届けてみよう、というスタンスがさんごさんという名前には表れている。

竣工してから2年経ち、さんごさんは着々と近代の枠組みでは説明がつかないものに成長している。
カフェのようなものものであり、イベントスペースのようなものであり、図書館のようなものであり、家のようなものである。



人生100年時代の家びらき

さんごさんの活動が始まって2年経ち、さまざまな活動が生まれている。

人生の3冊を寄贈する際に添えるシート。名前・職業・本のタイトル・本を選んだ理由が書かれている。
提供:さんごさん

まずは私設図書館。
もともと民家だから、どんなに本棚を大きくしても限りがある。だから、自分の人生の中で影響を受けたベスト3の本を寄贈してもらう「人生の3冊」というコンセプトを設け、自分たちで声をかけていった。

いろいろな人から寄贈された本を選ぶ子供たち。
提供:さんごさん

現在までに全国各地、世界各国から145名に大切な3冊を寄贈してもらった。芸能人や漫画家、インスタグラマーなどから地元のおじいちゃんや主婦、バスガイドまで、本を通して外と内さまざまな人の価値観に触れることができる図書館となっている。


2016年の9月から五島に移住し館長を務めている大島健太は、さんごさんの運営を行いながら、もともと興味があったコーヒー事業を立ち上げた。
自らさんごさんの一角に「CORAL COFFEE」というコーヒースタンドを併設し、島で焙煎したコーヒーを提供し、島に新たなコーヒー文化をつくるべくイベントも開催している。


また、民家をリノベーションをする際に出会った珊瑚の端材を活用したジュエリーブランド「1/35」も生まれた。
東京を中心に活動するジュエリーブランド「MMAA」の前田真理子がデザインを手がけ、若い世代が手に取りやすい珊瑚のジュエリーをつくるプロジェクトだ。


また、現在は紹介制ではあるが、宿泊施設として国内外のゲストを迎えてきた。富江商店街で肉や魚を調達し、さんごさんでバーベキューや鍋を囲む体験を提供している。「五島こども大学」「おとな小学校」といったイベントも開催。東京から講師を招き、島での独自の経済圏を模索する「ブロックチェーンとトークンエコノミーがもたらす独自の経済圏」と題したイベントには多くの人が集まった。

富江出身のアーティスト、石本千代乃氏の個展をさんごさんにて開催した際に行った、子供たちを対象にしたワークショップ。
提供:さんごさん

もちろん、私たちが企画するばかりではなく、地元の人たちが企画したイベントも実施している。夏に開催した富江出身の画家の個展は、島の文具店が主催し、期間中さんごさんに600名を超える人が訪れた。


これらたくさんのプロジェクトを生み出すために意識していることがある。


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