座談月評

閉鎖系建築家と開放系建築家 ─ 特集/「環境住宅」その先へ 地球と共存する住まいのアイデア─『住宅特集』2018年4月号月評

『新建築住宅特集』では、毎月、さまざまな作品や論考、記事を掲載し、広い射程をもって住宅から明日を拓く建築の可能性を伝え記録しています。しかし重要なことは、議論の場をつくることにあります。限られた誌幅の中で示されたものから何を考えていくべきか、それぞれの読み解きや発見を共有し、建築を取り巻く多くの事象や環境と共に議論を重ねること。この座談月評は、その場を広げていくことを目的に掲載します。2018年1~12月号は、西沢大良さん、吉村靖孝さん、西澤徹夫さんを評者として、1年を通して前号への批評を座談形式で議論いただきます。それぞれの個別の評と共に、それが相乗して新たな示唆に展開する連載記事として毎月掲載いたします。どうぞご期待ください。


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評者
西沢大良(建築家・芝浦工業大学教授)
吉村靖孝(建築家・早稲田大学理工学術院教授)
西澤徹夫(建築家)
目次
●閉鎖系建築家と開放系建築家
●「快適さだけが必ずしも正解ではなくて、豊かさや楽しさも必要」
●開発しないと育たない技術
●冷却空間をパッシブに実現する
●中間領域をつくること
●外断熱とパッシブの徹底
●竹林に寄り添う
●新しい発見的な形式との往還


閉鎖系建築家と開放系建築家

大良 特別記事「地球に暮らすリアリティ」は、国内の環境住宅の試みを8つに大別しています。丁寧な調査で好感をもちましたが、補足すべき論点がひとつあります。

環境住宅の実現は、グローバルには「北から南へ」進行中だということです。地球環境の「北」、つまり北欧のような高緯度地方で先進的な事例がまず先行し、次に日本のような中緯度地方で取り組みが始まり、将来的には「南」のASEAN諸国やインドなどの低緯度地方へノウハウが伝わっていく、というグローバルな流れのことです。

このうち、デンマークなどの北欧諸国やドイツなどの北海沿岸国は、環境先進国として優れているとはいえ、気候条件としては寒さを防げばよいという単純な地域です。ゆえに、閉じて暖めるという閉鎖型の環境住宅に行き着き、それが日本の高気密高断熱住宅のひとつの起源になりました。

ところが中緯度地方でそれを展開していくと、日本の北部はその延長でよいですが、残りの地域は上手くいかない。日本は中緯度の温帯に横たわる長い列島で、夏期と中間期が長く、湿度の問題もあるので、閉じて暖めるだけでは省エネにならない地域を抱えています。いわば冷却や除湿をいかに低エネルギーで行うかという、中緯度特有の問題が出てきます。

その回答は、今の日本の建築界でもまだ模索中ですが、その最終的な到達点に「南」の国々が注目しています。以上の文脈は、巻頭の8つの試みを見る際に考慮されるべきです。

今月号にも東北から沖縄までの異なる試みが掲載されています。非常に面白い号ですが、今回は作品単体の完成度よりも、細かいアイデアに対する部分的な評価をした方がよいかもしれません。

徹夫 私たちが表現や批評として扱うものには、敷地の由来や技術の系譜といった通時的な文脈と、現前する社会の諸問題やデータで可視化されるような地球規模の熱の問題などが引き起こす共時的な文脈とがあると思います。

より喫緊の課題を経験則以上の解像度で細やかに対処しようとする場合、測量やシミュレーションの技術の発達は、後者の文脈での有用性が明らかになってきています。一方で、共時的であるだけにその試みは常に試行錯誤で見通しがよいわけではありません。

巻頭の特別記事と以降の作品は、さまざまな手法とデータの紹介がそのまま気候条件や直面する社会問題の諸相を示しています。高効率な閉鎖系に意識が向きがちですが、諸条件を俯瞰した視点によって解決できることがあるようにも思います。

靖孝 この特集は、断熱小窓一択の閉鎖系建築家と、そこからなんとか脱したい開放系建築家の間の長い議論と作品を通じた切磋琢磨のうえに成立していることが、巻頭の特別記事からひしひしと伝わってきます。

読者にもそこはぜひ汲み取ってもらいたいところ。ただ全体を通して見ると、論調や作品数から開放系に肩入れしているように読めなくもない。実質的に閉鎖系が席巻しているマーケットで、孤軍奮闘といってもいいのではないでしょうか。

個人的には、これだけ夏の暑さが厳しくなると、冬だけでなく夏も閉鎖系が有効というところまでは納得済みで、あとは中間期の開放系の圧倒的な心地よさをどこまで取り入れるかのせめぎ合いだと思うのですが、花粉や蚊、防犯性など、中間期の開放性を脅かす現代的な課題を丁寧に解いていけば、開放系にも勝機はある。特に湿度が高い地域では単に閉じればよいとはならないはずです。

ただ今は、開放系のデザイン言語は拡散しがちで、誰でも解ける方程式のようなものがない。勢力図を塗り替えるプロトタイプが出てくることを期待します。



「快適さだけが必ずしも正解ではなくて、豊かさや楽しさも必要」

徹夫 入江曜さん髙橋將悟さん古市渉平さん加藤隆矢さんの「垂水の住宅」は、本棚を空気の通り道にしていて、空気の塊をベニヤやガラスを使うのと同じように建築をつくる材料として扱っているのは、とても古くて新しい態度のように思います。

今月号では、「快適さだけが必ずしも正解ではなくて、豊かさや楽しさも必要」という建築家がたくさんいました。

私たちが造形できるのは目に見えるものや手で触れられるものだけではないはずで、それらを建主と建築家がどのように議論してどのようなバランスでレイアウトしたのかが重要だと思います。なぜなら現時点では環境住宅は豪邸化しているからです。多くの建主にとって潤沢でない建設費をどのように配分するかという知見はまだまだ必要です。議論を進めて全体的な底上げをしつつ本来的な豊かさや楽しさに結びつかせることが、プロセスとして必要だと思います。


開発しないと育たない技術

大良 SUEP.の「淡路島の住宅」は、住宅全体をシェイドで覆うことで、夏期を中間期のような快適さに近づけるという発想ですね。地熱やプール水のエネルギー利用も面白いですが、技術を統合するという感覚があまりなく、性急に全体像を描いたことが残念です。

例えば、瓦という比熱の大きな素材でシェイドをつくったこと、北面まで覆ったことは腑に落ちません。夏期の炎天時に生じる瓦からの輻遮熱が、直下のバルコニーの快適さを損なわないか心配です。

徹夫 「淡路島の住宅」は、豪邸といえると思いますが、そこでの実践は環境住宅を前に進める力になると思います。F1カーやロケットを開発しないと育たない技術もある。とはいえ、大良さんの指摘する通り、瓦のオール・オーヴァーで意匠をまとめたところは性急な気がします。瓦ひとつは立体的に解かれているものの、配置やボリュームで見た場合、SET*評価を見る限りではほぼテラスにしか効果が現れていません。設備的なグレードだけでなく、F1カーやロケットのような造形的な特殊解を期待してしまいます。

靖孝 環境的なアイデアに満ちた末光さんらしい労作です。太陽光パネルの配置などは、まだデザイン的にインテグレートする余地があるように見えますが、3次元シェードは開放系のプロトタイプになり得る発明ですね。



大良 片田友樹さんの「ARI」は綺麗な外観で、パッシブな冷暖房を目指そうとしたのかなと思いますが、このままでは夏期の小屋裏は外気温よりも暑くなり、余計な冷却エネルギーを使うことになりそうです。何らかの夏期対策、例えば透明な波板を減らして不透明な波板を混ぜる、簡単な置き屋根を付加して熱負荷を下げる、波板を開閉して小屋裏を排熱する、などの工夫が欲しいです。

靖孝 開口部=ガラスという先入観をなくせば、閉鎖性と開放性を両立できる可能性がある。これこそ中間期の開放性を祝福するアイデアですね。汎用品を流用して天井の開閉を自動化しているので、今後センサーなどと組み合わせれば、可能性は広がります。


冷却空間をパッシブに実現する

大良 垣内光司さん吉岡寛之さんの「石垣島の躯体」は、コンクリートの比熱の大きさを利用して、沖縄で冷却空間をパッシブに実現するという姿勢がよいです。

置き屋根を設けることで屋根スラブの躯体を気温に近づけて、さらに散水による蒸発潜熱によって気温以下に冷やし、床スラブ下にも通風ピロティを設けて、洞窟のようなひんやりとした居住空間を目指しています。短手断面が非常に魅力的で、この住宅は快適でしょう。石垣島は温帯の最南端で、ほぼ熱帯直前ですが、ぜひ低緯度の設計者に参照してほしいです。強いて欠点を探すと、長手断面をロの字型で解いたために、西側壁面が全面コンクリート壁になったこと。沖縄特有の強烈で長時間の西陽による輻射熱が心配です。もっとポーラスな壁体など、東西南北の立面が違ってしかるべきです。


中間領域をつくること

靖孝 早稲田大学と芝浦工業大学の「この郊外の片隅に」は、既存の外壁に関係なく断熱ラインを挿入して中間領域をつくる提案で、温熱環境に積極的にムラをつくる考え方に共感します。着衣の量や運動量などは人それぞれだし、適温でも同じ環境に長くいると寒さや暑さを感じて不快になる。選択できた方がよいわけです。


リノベーションに際しての取捨選択

徹夫 吉永規夫さんの「佐世保のリノベーション」の既存の建物に断熱を強化する気軽なアップデートの方法や技術の提案には、今回ここは手をつけない、という決断がよく見えていいなと思います。

川島範久さんの「Yuji Yoshida Gallery / House」(『住宅特集』2017年2月号掲載)を思い出しましたが、建主の仕事やプライバシーや卓越風の扱いなど、リノベーションに際しての取捨選択の操作が、きちんと押さえられているという印象です。


外断熱とパッシブの徹底

大良 西方里見さんの「能代の家」は、通常の外断熱とはレベルの違う高度な仕事です。

矩計を見る限り、家の隅々、収納の隅々まで温度差も湿気も皆無でしょう。サッシ周りの結露防止の工夫も面白く、壁体の熱貫流率も驚異的です。外断熱とパッシブを徹底すると、単なる省エネに留まらず、躯体も長寿命になります。

ここでは木の躯体を壁内でなく室内に置き、部材の4周を温度差のない安定した空気で包み、土台から小屋組までの長寿命を実現しています。むしろ北欧の人びとに見せたいです。

今月号には床下をチャンバーにした例がいくつかありますが、2馬力強のエアコン1台で東北の1軒全体を空調したのは見事です。木造の床下チャンバーは、20年前には土台の防腐剤やボンドの蒸散で健康被害を起こしましたが、そうした障害をひとつずつ克服した究極的な回答です。


竹林に寄り添う

靖孝 眞田大輔さん名和研二さんの「竹林の住処」は、竹林に連なる豊かな中間領域が気持ちよさそうです。開放系の住宅をつくる時、蚊の排除がひとつの課題ですが、竹林の性質や蚊帳のつけ方など、しっかり考えられている住宅ですね。

徹夫 竹林がもつ冷やす能力に寄り添えばいい、というとても身軽な態度と、住宅のインターフェイスのオン/オフや設備的な効率に依存するのではなく、暖かさや涼しさを熱や風のエネルギーの動的な平衡の中に位置づけようとする方法にはとても感銘を受けました。


新しい発見的な形式との往還

川島さんの「一宮のノコギリ屋根」は、南北を反転するかどうかの前段階で、ノコギリ屋根が表現レベルのモチーフから脱することなく、はじめからある程度解決可能な図式を先取りしているように感じてしまいます。

一方向から光と風を取り入れる断面形状にプランが従いすぎている。その結果、周辺の文脈からノコギリ屋根を選択したことを、シミュレーションによって補強しているように見えてしまう。環境技術を恣意性のアリバイに使うことへのありがちな批判をかわすためにも、プランがとても重要だったのではないでしょうか。一般論として、図式に陥りやすいのも環境建築の隠れた罠かもしれません。

大良 この場合はノコギリ屋根が3つあり、天空を3回入れられます。温熱環境と光環境を3段階にできます。屋外から屋内にわたって、3種類の環境を備えた住宅の可能性があったのではないかと思います。

靖孝 図式的という指摘もありますが、シミュレーションは本来、図式から開放してくれる技術。今のところできたものを計測しているだけですが、温熱環境を最適化するための形状を逆算できると面白いです。

徹夫 堀部安嗣さんが、温熱環境を整えることで、家全体の稼働率を上げるといっていました。環境技術がより豊かな空間を導き出すための当たり前の引き出しになっていくためには、新しい発見的な形式との往還がもっと繰り返される必要があると思いました。

靖孝 一口に環境といっても、閉鎖系と開放系、均質系とムラ系など、日本の地勢や季節の豊かさが解釈の多様さを生んでいます。継続的な議論と探求が必要だと感じました。




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新建築社

株式会社 新建築社は、1925(大正14)年の創業・『新建築』創刊以来、月刊誌を中心とした建築関連の雑誌・専門書を発行しています。建築を様々な角度から取り上げ、新しい建築を求め誌面をつくっています。 https://shinkenchiku.online/

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