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空から巨人が降りてきた

「ある日、突然、巨人が空から降ってきた。」ロワイヤル・ド・リュクス

舞台演出家ジャン=リュック・クールクーが南仏で1979年に創設した「ロワイヤル・ド・リュクス」は、彼らが訪れる街のすべてが舞台だ。
その街の人たちは彼らが何を、いつから始めるのか全く知らずにその日を迎える。

「この街に、どうやら巨人がやってくる」ということ以外は。

私たちは巨人の到来をなんとなく予想し、数日前からフランスのナントへ入り、街中を観察することにした。
ルワール川を中心に広がるナントという街は、その噂の事実を知るため各地から集まった多くの観光客に賑わっていた。

ホテルの近くのカフェで朝食のバゲットとコーヒーを終え街を歩くと、なんとなく人々の様子がおかしい。
通行人の一人に聞くと、どうやら壁が空から落ちてきて、そこに物語のようなものが描いてあるという。
私たちは早速その壁を見に行った。なんということだ、壁が空から落ちてきたなんて?

壁には、メキシコの衣装を纏った黒髪の女の子とその足元には黒い犬を中心に、過去から現在までいろいろな洋服を着た人間がまわりを囲む。メキシコ革命の指導者サパタのような男性が近くにいて、遠くには巨人男が全体を見渡している。
ディエゴ・リベラが描いたような絵だ。

まわりで人々が、落ちてきたこの壁について考察を述べている。
「メキシコの神様がこの壁を落としたらしい」
「1910年のメキシコ革命時に、サパタがこの少女に話しかけたんだ、そしてそれは月夜の晩だったという噂だ」
「どうやらこの少女は、時間を旅しているということだ。過去も未来も彼女にとって意味はないらしい」


小さな男の子が紙切れを持って私に見せてくれた。そこにはこう書いてあった。

「私たちは結局、何も見ることができない。でも見ることはそれほど重要ではない。それでも私たちは怯えている。なぜだろう?」

あるとき黒曜石の歯を持つ神犬「ソロ」がアステカ族から少女へ贈られた。もちろん二人はすぐに意気投合した。
過去でも未来でもないある夜に、少女はソロとグアダラハラの丘に座り、自分の生まれ故郷を想った。
自分の夢や記憶を、故郷「ナント」へ持っていこう、そう彼女は決めたのだ。

「この子は何も話すことはできないらしいが、少女の目にはすべて写っているらしい。人間の堕落も、歴史の渦も、希望も、すべてね」
タバコを咥え、ユニークなメガネをかけたおじさんが私に教えてくれた。





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