『パン屋再襲撃』(『ねじまき鳥クロニクル』)村上春樹
僕は十八歳で、そのとき下宿先の煎餅布団に寝転び本を読んでいた。その六畳一間はすぐ外を走る電車の小さな駅の光を窓から取り込み、中途半端な明るさを保ちながら夜半を迎えようとしているところだった。
六月の気だるい蒸し暑さが夜を包み、若者ばかりが押し込められた、縦に五列横に十二列のその古い学生アパートを、枡に区切られた陰気な標本箱のように見せていた。やれやれ、まだ零時前か、と僕は思った。
もしも村上春樹が好きかと問われたら、自信を持ってそうであると答えることが僕にはいまだできないよ