有機肥料は化石燃料からできている

元教え子から「持続可能な農業とは?」と尋ねられた。私は「当面は持続不可能な農業を続けながら持続可能な農業に少しずつシフトしていくしかない」と答えた。有機農業は持続可能な農業だと思われているが、皮肉なことに現在の有機農業は、化学肥料を用いる慣行農業に支えられているという面がある。

2001年に今の職場に入ったときの新人研修で繰り返し説明を受けたのが、「日本で使用される窒素肥料はウシのウンコだけでまかなえる」というもの。ブタやニワトリの糞尿も必要ない。化学肥料も必要ない。ウシのウンコだけで日本の窒素肥料の全てをまかなえる、ということだった。

ではなぜそんなにもウシのウンコが大量に出るのかというと。大量のトウモロコシを食べているから。そんなに大量のトウモロコシはどうやって育てているのか?アメリカで化学肥料をたっぷり与えて育てているから。つまり、ウシのウンコは元をたどればトウモロコシであり、化学肥料。

ウクライナ侵攻前の日本では、有機肥料が余りまくっていた。そんなに有機肥料があるのは、化学肥料を用いる慣行農業が大量に食料や家畜のエサ(飼料)を作ってくれているから。慣行農業の生産力があふれかえる有機肥料を作り出していたと言える。

もし化学肥料の使用をやめたら、有機肥料も姿を消す恐れがある。カナダの研究者、バーツラフ・スミルは、もし化学肥料の使用をやめたら、地球は30〜40億人を養うのが精一杯だという。今の世界人口は80億人に迫ろうとしているから、約半分しか養えない恐れがある。

現在、化学肥料は天然ガスか石炭のエネルギーで製造している。しかしもう一つの化石燃料、石油が採りづらくなってきた(1の採掘エネルギーで10のエネルギーしか得られなくなっている)。このため、もっと天然ガスや石炭のエネルギーを掘りたいが、地球温暖化の問題があって、むやみに使えない。

しかもウクライナ侵攻をきっかけにロシア産化学肥料が手に入らなくなった。侵攻前、硝酸アンモニウムという重要な窒素肥料の45%はロシア産だった。これが手に入れにくくなったことで、世界中で化学肥料が不足する事態になっている。あまりにも肥料が手に入らないので、有機肥料をほしがる人も増加。

国際情勢が落ち着けば、化学肥料の高騰も収まるかもしれない。しかし化石燃料の代表格である石油が採れづらくなって、天然ガスや石炭も今後、高値が続く恐れがある。投資家も、石油は将来性が薄いエネルギーとして投資を手控えるようになり、そのために設備の更新ができず、石油が採れない悪循環。

エネルギーが高騰すると、化学肥料も高くなる。化学肥料は化石燃料のエネルギーで製造しているから。その視点でウシのウンコの話に戻すと、ウシのウンコの元はトウモロコシであり、その元は化学肥料であり、その元は化石燃料。ウシのウンコは石油など化石燃料でできていると言って過言ではない。

有機肥料さえも、元をたどれば石油など化石燃料からできている、という現代の皮肉。だから、安易に化学肥料を批判したり、化学肥料を使う慣行農業を批判するわけにいかない。現代の有機農業は、慣行農業に支えられているという面がある。

しかし、石油など化石燃料に大きく依存した農業にいつまでも依存することはできない。化石燃料の中でも最も優秀なエネルギー、石油はもうじき採算性のないエネルギーになる(採掘するエネルギーの方が大きくなりかねない、エネルギー的に赤字になる)。となると、どうしてもエネルギーは高騰する。

石油は特に、自動車や飛行機、船を動かす燃料として非常に優秀。輸送エネルギーのほぼ100%を石油に依存している。この石油の代わりを、天然ガスや石炭が果たすことは難しい。他のエネルギーも、大型トラックや大型トラクターを動かすのにはパワー不足。石油はあまりにもエネルギーとして優秀過ぎた。

石油が思うように使えない社会は、有機農業もこれまでのようには潤沢に有機肥料が手に入りにくい社会になるのかもしれない。だから安易に化学肥料や慣行農業を否定するわけにいかない。徐々に、しかし確実に、できれば速やかに有機農業にシフトしていく必要がある。

けれど、無理をして急いではならない。一気に有機農業にシフトしたりすると、有機肥料も一気に足らなくなる。最近のスリランカもそうなった。化学肥料が、慣行農業が有機肥料を作ってくれているという現実を無視すると、一気に破綻する。

慣行農業にも敬意を払い、有機農業へと徐々にシフトしていく。そうした難しい舵取りが求められる。有機農業と慣行農業でいさかいしている場合ではない。ソロリソロリと、無理のない形で、しかしなるべく化学肥料(化石燃料)に依存せずとも全人口を養える道を探る必要がある。

次の世代は、私達大人の世代よりもはるかに難しい舵取りを求められる時代に入る。大人である私達は、彼らに見本を見せる必要がある。短気を起こして誰かを罵ってるヒマはない。常に話し合い、調整し、少しずつ、しかし着実に、なるべく早く変化していく必要がある。
話し合おう!

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