大規模農業と小規模農業、どちらが「効率的」か?

私の中で答えが出ていないこと。大規模農業と小規模農業、どちらの方が効率的か?
もちろん、ここしばらくの日本の現状を見れば、答えは明らか。大規模農業の圧倒的な勝利。少ない人数で大面積を耕せる。人件費が安く済む分、経費が少なく、安く食料を販売できる。圧倒的競争力。

ただし、これが成立したのはエネルギーが安かったから。コメ1kcal分を作るのに石油2.6kcalを燃やす、エネルギー的に大赤字なことをしても採算が取れるくらい、石油などの化石燃料は安かった。トラクターや化学肥料を駆使して「石油でできたコメ」は、人手をかけて作ったコメより安く大量に作れた。

石油などの化石燃料は、安い化学肥料を大量に製造し、トラクターで田んぼをあっという間に耕してくれた。昔、有機質肥料は農家が自ら手で草を刈ったり、堆肥につんだりしなければならなかった。田んぼは人力か、よくて牛馬で耕すしかなかった。そうした方法より、石油など化石燃料の方が安かった。

しかし、どうも石油が採れづらくなってきたらしい。柴田明夫氏らがまとめた「石油・メタル・食糧・気候」によると、石油生産がいよいよピークアウト(たくさん掘り出したくても採りづらくなった状態)し始めようとしているようだ。このことは、国際エネルギー機関(IEA)もレポートしている。

現在、自動車、船、飛行機といった交通手段・運輸や、トラクターやコンバインといった農業用の動力は、ほぼ完全に石油で動かしている。パワーが必要な動力は、石油を燃やして動くエンジンに勝るものはこれまでなかったからだ。

電気自動車が急ピッチで開発されている。しかしガソリン車が一度満タンにすると600km走れるのに、電気自動車はまだ200km程度と、やや力不足。それでも乗用車ならまだしも実用化のメドが立ちそうなのだけど、大型トラックなど重量とパワーが必要なものはまだ難しい。

これは農業にも当てはまる。トラクターのような動力は、石油で動かさないとパワーが足りない。電気で動くトラクターの開発が進められているらしいが、すぐ電池切れしてしまう。充電には時間がかかり、これでは現場で役に立たない。今のところ、まだ大型農業機械の電化はまだメドが立たないらしい。

石油や電気以外のエネルギーも、候補としては厳しい。天然ガスはコンパクトに貯蔵するのが難しい(超低温か超高圧でないと液化しない)。これは水素も同じで、しかもまだ安価に製造できるメドが立っていない。

そんなこんなで、大型農業機械を石油以外のエネルギーで動かすのは、メドが立っていない。石油がなくなるとは言わないまでも、高騰すると、大型農業機械を動かしたくても動かせなくなる。コストが高すぎて。そのとき、燃料代と人件費とどっちが安い?となりかねない。

農業はGDPのわずか1%程度しか稼げていないのに、エネルギー消費は全産業の2.4%。つまり、製造業やサービス業などとくらべ2倍以上のエネルギー食いの産業。これだけのエネルギーを食うのは、やはり少ない人数で大規模を耕すには、機械がどうしても必要だからだろう。
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2013html/2-1-2.html

これまでの社会では、「効率が良い」とか「生産性が高い」とは、一人当たりが生み出すお金の額を指していた。エネルギーが安かった時代には、人を減らして機械を導入したほうが、少ない人数でたくさん稼ぎ出せた。しかし石油などエネルギーの価格が上昇すれば。

機械を動かせば動かすほど赤字、化学肥料(これの製造にはエネルギーが大量に必要)を使えば使うほど赤字、ということになりかねない。「エネルギー1kcalあたりが生み出すお金の額」が重要になってくる。つまり、分母が人ではなくエネルギーに置き換わるかもしれない。

仮に、大容量の電池の開発に成功し、大型トラクターを問題なく動かせるようになったとしよう。それなら、太陽電池で発電してトラクターを動かせる。機械で耕すなら、これまで通り大面積を少ない人数で耕せる、ように思われる。しかしことはさほど単純にいかない。

日本のいたるところで太陽電池を目にするようになった。太陽電池や風力発電など、自然エネルギーはどのくらいのエネルギーを作るようになったかというと、9.3%。先程も指摘したように、農業が消費するエネルギーは全産業の2.4%。農業に果たしてそんなにエネルギーを分けてもらえるのか?

自然エネルギーを今の10倍に増やさないと、製造業などに回すエネルギーがない。製造業を動かせるエネルギーを確保できないと、貿易で稼いだお金で食糧を海外から輸入する、ということができない。肥料も輸入できない。そして国内だけでは肥料をまかなえない。日本は狭いから。

もし食料や飼料(家畜のエサ)、肥料が海外から輸入できないなら、日本は3000万人分程度しか食料を生産できないだろう。これでは非常に危険。だから製造業には頑張ってもらって、海外との貿易で稼ぎ、それらをしっかり輸入してもらわなければならない。しかしそれだと。

農業部門に回すエネルギーが足りなくなり、国内の食料生産が低迷する恐れがある。となると、ますます海外から食料を大量に買いつけなければならないかもしれない。エネルギーの取り合いになったら、日本はかなり深刻な事態となる。

まだしも石油などの化石燃料が手に入るうちに、太陽電池など自然エネルギーを10倍に増やさなければならないだろう。たぶん、本当は10倍でもまだ足りない。太陽電池は20年もすれば劣化するから、新しく作らなきゃいけない。作るのにもエネルギーが要る。本当につじつま合わせが可能なのか?

そうこう考えると、今後、エネルギー不足あるいはエネルギー高騰が理由で、農業で思うようにトラクターなどの動力を使えなかったり、化学肥料をまいたりしにくい事態が起きるかもしれない。その際、これら石油に依存した技術で楽をしてきた大規模農業は、果たして運営可能なのか、どうか。

もし、石油から自然エネルギーへの移行がスムーズに進み、電池も大容量のものが開発でき、農業部門にも十分なエネルギーが配分できたら、きっと大規模農業の方が効率の良い生産方法であり続けるだろう。しかしもし、エネルギーが不足したり、高すぎて使えないということになったら。

少人数で大規模、という農業形態が、果たして効率の良い経営でいられるのか、分からない。
以上のような理由から、今も私は、大規模農業と小規模農業のどちらが効率が良いのか、わからない。エネルギー問題と農業経営は、深く関係することになるのだろう。

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