情けは自分のところに還(かえ)ってくる

三国志の時代が始まる直前、後漢末には、今で言う新自由主義が流行っていた。財政難を解決する画期的なアイデアとして、「売官」を行った。官職をお金で買えるシステム。上位の官位になればなるほど高額のお金が必要。名誉もほしいお金持ちがこの制度を利用して太守とかにおさまった。

この制度を逆用して金儲けする輩も。官職の権限を悪用して庶民から税金を搾り取り、自分の懐へ。合法的に盗人になれる制度と化した。合法だから誰も取り締まれない。黄巾の乱が起きたのは、政府が盗賊化し、黄巾賊の方がよほど庶民のために働くという、盗賊と政府の役割が入れ代わった状態だったから。

曹操が一国の支配者となり、父親の曹嵩を呼び寄せて親孝行しようとした。実は曹嵩も売官制度を利用して官職を買った人物。
曹操のもとへ行こうとする道中、ぜひ曹操ともお近づきになりたいと考えた徐州の太守は、曹嵩を城に招待、歓待し、しこたま財宝も差し上げ、警護の兵までつけて曹嵩を見送った。

ところが警護についた兵たちは低賃金。なんでこんな金持ち老人のために遠い曹操の国まで警護して付き合わなきゃいけないんだと腹が立ってきた。そして示し合わせて曹嵩とそのお付きの者たちを惨殺、金銀財宝を奪って逃亡した。

貧富の格差を放置し、むしろ拡大するような政策を続け、庶民を低賃金のまま苦しめた結果、法が法として機能しなくなった。犯罪をおかして牢獄につながれるのと、低賃金で金持ちのためにあくせく働くのと、どれだけの違いがあるだろう?となったとき、法律は機能しなくなる。

法律が機能するのは庶民を守るとき。庶民を守るどころか貧困の中に苦しめたままにする法律、金持ちは働く貧困層からどんどん搾り取り、高給を稼ぐという盗賊的構造の法律の場合、法律は機能しなくなる。法律は、庶民の生活が改善するものに設計されないと、いずれ守るに値いしないものになる。

アメリカではベビーシッターによる赤ちゃんの虐待がよく起きるという。依頼主は裕福な家庭、雇われるのは貧困層。この構造に大きな原因があるのかもしれない。
祖母の知人は赤ちゃんのときにお手伝いさんに床に叩きつけられ、一命をとりとめたが小人症になった。

戦前は、お金持ちの赤ちゃんがお手伝いさんに殺されるという事件が時々起きたという。貧富の格差が遠因かもしれない。
下記リンクによると、幼児死亡率は先進国でも、アメリカのように貧富の格差が大きいと高くなるという。北欧のように格差が小さいと幼児死亡率も低い。
https://www.ted.com/talks/richard_wilkinson_how_economic_inequality_harms_societies/transcript?language=ja

今年に入って、富裕層、成功者を自認すると思われる人たちから、貧困層を見下す発言が相次いだ。努力が足りないから、能力が足りないから貧困なのだと。そして自分は勉強し努力したから富裕なのだと。しかしそれは、後漢の時代に売官のシステムを「勉強、努力」した人たちに私は似て見える。

その人たちは、自分たちにはお金があるから安全と豊かさを維持できると考えているフシがある。しかし曹嵩は財宝を持っていたがゆえに殺され、子どもの安全もままならなくなる恐れもある。そんな社会になったら、富裕層も損をする。自分たちに跳ね返ってくる。

「情けは人のためならず」という。このことわざの意味は、「巡り巡って自分に返って来るのだから、情けをかけるのを惜しまないように」。富裕層の方もぜひ、「情け」を忘れないように。ひいては自分たちの身の安全と幸せの増進につながるのだから。

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