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職人さんに会いに~藍染:野口染物店~

藍染の工房である野口染物店にお邪魔しました。型で柄を付ける技法(長板中形)で藍染を続けていらっしゃる工房です。200年の歴史から人々の暮らしが変化していく様子を伺う事ができました。そして、新しく間口を広げる新しい取り組みについても話をして頂きました。

野口染物店の歴史

野口染物店は創業時中央区の京橋に工房を構えていましたが、より良い水源を求めて大正時代に八王子に移りました。現在でもその建物のまま残され、佇まいは情緒を感じさせるだけでなく人々の暮らしを伺い知ることが出来ました。人と仕事と生活が一体となっていたかつての日本の暮らしを感じます。

野口染物店は現在型を付けるところから行っている工房ですが、かつては藍染のみを担当する分業性で作業を行っていました。分業制であるものの型付けの作業自体は工房内で行われ、型付けの職人さんは住み込みで作業していました。そのため工房は宿舎も兼ねていたそうです。

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かつて染色業の需要が多かった時代、型を付けることを生業にしていた職人は需要や修行が積める場所を求め工房を転々として生活していたそうです。当時は今のように契約というものがしっかりなかったこともあり、文字の読み書きができなくても技術さえあれば仕事ができる、仕事をしたいタイミングだけ働くという生き方が出来ていたのでしょう。今でも当時の職人さんの道具が残されていたり、作業場の横には勝手口が取付られていたりと住み込みの職人さん達の生活が垣間見えます。職人さん同士で夜な夜な集まり出かけていく、そんな賑わっていた様子を感じる事が出来ます。

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段々と染物の需要が減ってくると共に藍染だけでなく型を自分で付ける事が必要だと考えた野口染物店は、住み込みの職人から技術を学び始めます。当時贔屓にしていた職人さんの中に腕の立つ方がいたこともきっかけの1つだそうで、所属関係なく技術を共有し合い人が集まる環境が今の野口染物店を作り上げているのだと感じます。先代の「技術は教えてもらっていない、見て盗んだ」との言葉が印象的で、需要が今よりも多く作業を見る機会が多かったかつての修行方法との現在の環境との変化を肌で感じていらっしゃるようでした。

作業過程

藍の型染である長板中形は、糊を生地に付着させることで藍色に染まらないよう柄を付ける作業を生地の両面に行います。その両面の糊はぴったりと重なり、藍色でない柄となる部分の白さがより美しく引き立ちます。手間と技術が必要な作業ではありますがその仕上がりは美しく、現代でもその美しさを求める方も多い技法です。

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藍染の作業は天候による影響が大きく、良質な水源も必要となり自然と密接に関わる一方、化学反応を利用した人類の知恵が詰まった技術でもあります。型を付ける糊にはもち米やぬかが使われ、乾燥し固まるまでは天日干しを行います。糊はすぐに天日干しをしなければカビてしまうため、次の作業まで日数を置くことが出来ません。そして、藍染を行った布は庭いっぱいに広げられ乾燥し色が定着します。雨が降ってしまうと型付けも染色も作業が出来なくなってしまうのです。

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長板中形の特徴である両面に同じ型を付ける技法は染料の特性を理解することが必要です。両面にぴったり同じ型が付けられるよう糊に染料を混ぜる必要がありますが、その染料で生地に色がついてしまうときれいな白色とのコントラストが生まれません。目印として型に色が付くこと、生地に色が付かないことを両立させる染料を使う必要があるのです。野口染物店ではウール用の染料を糊に混ぜることで木綿の浴衣自体には色はを付けず、両面ぴったりに柄が施された美しい浴衣を仕上げています。

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藍染は藍の葉を粉砕したものに水を加え、そこにアルカリ性の成分(石灰)入れることで発酵し藍色に染まります。化学が発展した今となっては成分として技法が確立していますが、発酵の具合で色が変わるため未だに色の制御が難しい奥が深い技法でもあるのです。発酵した藍は良い状態になると泡が浮かんでくるそうです。その藍の発酵具合の見極めこそが職人技といわれるものでしょう。木綿の量産で一般に広く普及した藍染ですが、紀元前から歴史があるにも関わらず制御の難しい技法であることには変わりがありません。その謎の深さがいまだに人々を魅了する所以かもしれません。

道具へ拘り

手仕事でやはり大事になってくるのが道具です。野口染物店では、生地を張り付けるための板に自ら加工を施し、染色後の生地を広げるための場所は自作、糊を洗い流すはけに至っては材料を庭で栽培しています。

型を付けるのに使用する糊は職人1人1人が自分のやりやすい形(粘り気等)をカスタマイズし、自分に一番良い形で作業できるよう鍛錬を欠かしません。型を付ける際にははけを使用しますが、染め方によって使い分ける必要もあります。かつて住み込みの職人がいた時代には自分用のへらを自作していた方もいたようで、その職人が残していったという竹の棒を加工した細長い特殊な形をしたものも見せて頂きました。

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また、型は伊勢で作られたものを使用し通称「伊勢型紙」として染色業界では広く知られています。両面で同じ絵柄を付ける必要のある長板中形にとって型紙は重要なポイントの一つで、型紙には和紙を使います。水分を吸うことで波打つことが無く歪まないため、今でも化学紙には敵わないそうです。

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藍染体験

野口染物店では、一般の方へ向けて2020年の夏から藍染体験を始めました。
近年までは呉服店への卸業専門の工房として看板を掲げることはしていなかったそうですが、コロナの影響も受け自らが窓口となることが必要であると考えました。現在は藍染体験をはじめオリジナルの商品開発に取り組む等、間口を広げるため邁進されています。

藍染体験に来る方は「これを藍色に染めたい!」とアイディアをもって来られる方が多く、Tシャツ等の衣類だけでなく、革や中には木材を持って来られた方もいたそうです。様々な持ち込みがあるにも関わらず、濃淡はあるものの色が入らなかったことはほとんど無いそうで藍の汎用性を伺い知ることも出来ます。アパレル関係の方が商品の試作として訪ねて来られる等、体験で訪問される方の背景も様々です。
想像もしてないような縁で来られる方も多く、持ち込む素材も様々で野口さん自身の刺激にもなっているそうです。

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今回は特別に形付けを片面に施したハンカチに藍染をさせて頂きました。最初は薄かった藍色が2回でかなり濃い色に変化しました。浸けたばかりの時は緑掛かっていた染料が、空気に触れると徐々に黄味が取れ青く変化している様子を見ることが出来ました。

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商品としてだけでなく技法を大事にしている工房だからこそ聞けるお話が多く、業界にとどまらず間口を広げ刺激を与えあう関係性を築いていらっしゃることを強く感じました。野口さんの人柄もあり真摯に対応して頂く様子に、今後更なる発展を感じさせる魅力がありました。藍染で新たな挑戦を考えている方にも強い味方になって頂けるのではないでしょうか?

企業情報

野口染物店
住所:東京都八王子市中野上町4-20-11


浴衣の購入は、竺仙のオンラインショップより行えます。



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