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中華の日々⑨ 東の男、深圳の開拓に乗り出す

ギターショップのオヤジがやって来るまでの時間を活かして、私は通訳を務めてくれた人に「美団」という巨大企業のアプリの登録を手伝っていただいた。そのおかげで、やっとシェアサイクルを利用できることになった。ギターを手に入れ、おまけに自転車にも乗れるようになったということで、こうなるともうこのバカ――もとい東の男は止められない。

「さあて、ギターを弾く場所を探そうかい」
外に飛び出し、美団の黄色いシェアサイクルを探した。あった。スマホでQRコードを読み取ると開錠する未来仕様。しかし感動を抱くこともせずに「チャリだチャリ」と乗り込んで漕ぎ出した。

「ああ、自転車はやはりいい」

笑いたくなるような気持になり、口には煙草をくわえ、(これだよ、これ)とひとり頷いた。手ごろな公園を求めて自転車を進めたところ、ものの10分で見つかった。

自転車を乗り捨て、躊躇なく公園内にずかずか踏み込み、そして見つけた東屋(*屋根だけの簡素な小屋)に狂喜して乗り込んだ。さらにうまい具合にそこには誰もいず、私は即座にギターを取り出して弾き始めた。

まともに弾くのは数か月ぶりだった。ストロークがド下手くそになっていた。指もすっかりふにゃふにゃになっていて、20分も弾けば痛くてたまらなくなってしまった。

しかし——
楽しくてたまらず、私は痛みにも構わずに弾き続けた。というか、思いついたフレーズに興奮して、そのフレーズの展開を考えて変化を加えながらも、ほぼ同一のフレーズを延々と弾き続けた。気が付けば周囲は暗くなっており、近くからなんだかEDMみたいな音楽が聞こえてきた。

「邪魔をしては悪いかな・・・」
ということで、その日はそれでギターをしまった。
が、市民の憩いを散々邪魔した後だったことは言うまでもない(と後になって気づき、自分にツッコんだ)。

それから例のEDM的ミュージックの正体が気になり、(ナウなヤングがダンスでもしているんだろうか)と見に行ったところ、公園中央の広場で老人たちが太極拳をしていたのだった。まさに「ザ・チャイナ的風景」だった。

EDM的音楽の性急なビートに合わせているのか合わせていないのかまったくもってわからない太極拳に、なんだかわからないが圧倒された私だった。


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