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酔いどれ船 【自由詩】

生まれて初めて
月光を吸い込んでみたら
僕ら 嘘みたいに
ウイスキーボンボンになって
喉の奥で蕩けて
全身麻酔のように心地いい

ああ このようにして
茹で蛸になってしまう僕ら
ひしゃげたアコーディオンを揺すって
鰓をふいごにして膨らませる
海の酒場は難破船
もうとうに 正気をうしなっている

(ひとりぼっちだった
 故郷では
 昼はアスベスト工場で働き
 夜はマンホールの底で眠った
 オレは船乗りになるのが夢で
 ワイン樽に忍び込んで貨物になり
 そのまま船乗りになった
 住所不定の船乗りになった)

八本足のティーカップと
鯨の肋骨がヒゲダンス
カラフルなヒトデがピアノを弾き
ギロチン台の人魚姫が笑い出した
黄色いナメクジリになっていく夜は
セイレーンの歌声が響き
三等航海士のイカれチャンポン
船長の夢はテキーラを駆けめぐる
言わずと知れた
サンフラワーは開いて閉じて
紅いプランクトンが悠然と泳ぐ
もうここは東シナ海なのか
白鯨の通り道なのか

(ワイン樽になって
 船に乗ったオレは
 故郷を捨てて
 大海原に出る
 産業廃棄物にされる前に
 捨ててやるのさ
 ザザザザザ
 放射性廃棄物になる前に
 祖国を捨てるのさ
 ザザザザザ
 夜明けの桃色の海がどんぶらこんと
 オレを酔わせる)

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