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カスタードクリーム 【詩】

八十八夜が近づき
うつろになっていく
君の眼差し

鏡に映っているのは
真っ白な眼球
割れた灰色の舌先の
生え際の奥まったウラガワの
黄色みがかったイブクロ

病院帰りの汗ばむ陽気
鼻が柘榴のように膨れて
何だかうつろな脳内
消毒液のにおいがして
世界が遠くなる
このほのあついオヒルドキに
親知ラズがしんしん痛みます

カナカナカナカナカナ

今年はずいぶん時計を巻いている
裕福なお屋敷の二階の
あの娘の部屋
抱きしめて眠っていた腔腸動物が
食べられてしまったらしい
黒い鳥が逃げていった
朝焼のようにゆらゆらと
未来が膨れあがっていた頃だった

いつも眼帯をしていた隙間から
カスタードクリーム

(キミのうらがわを見せてほしい)
(アナタのも見せてくれる?)

僕らは腫れあがった瞼を見せ合うと
空の半分が割れて見えた
凶々しい香りがただよった

昼下がりの寝息を立てている
池のほとりに
大きなイボが見える
虚ろにふるえている巨大な背中に
蠅がしがみついている

(アレが君なのかい?)
(アレがワタシよ)

膨れたり縮んだりしている
草葉の陰で
見え隠れしている
薄青い空の向こう側から

ZAZAZAZAZA ZAZAZAZAZ

あの夏はゼンマイを巻きすぎて
ちぎれた螺子がはじけとんだ
僕が階段を
上がっていくと その部屋から
異臭がただよい
処理水が流れ落ちる
漆黒の羽音が遠ざかった

君の眼帯から溢れていた
黄色いカスタードクリーム

八十八夜が近づいていた


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