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エミリーと僕 〜懐かしい未来【幻想詩】

年に一度
一瞬だけ
幻の橋が架かる

懐かしい未来から
懐かしい風
見知らない父祖たち
未来から来る
エミリーの憶い出

懐かしい未来の僕は
懐かしい駅を過ぎ
懐かしい薔薇を買うと
未来からの風が吹いていただろう

一瞬前に聞いた
神様の声に操られるように
エミリーに薔薇を捧げた
アフリカの漆黒の風を聞いた
あの日
エミリーはいたたまれなくなり
森をさまよった
一瞬前の神様の声を聞き
一瞬前の神様の声に支配されて
亡霊のように生きた
父祖の声を聞き
アフリカの闇から吹き寄せる
風の音を聞き
単調なドラムが
鳴り続けているのを聞き
雨季に入ると
黄色い鸚鵡たちが
どこかへ行ってしまい
探しに行った父も母も
帰って来なかった

それからずっと
通奏低音のように響いていた
ドラムの音
風の音
甘酸っぱい匂い
雨季が来ると
あの甘酸っぱい匂い
滑るような風の音
雨季の匂い
鳥が見ている森
一瞬前の神様が見ていた
懐かしい未来を
エミリーと僕は
同じ眼で見
同じ鼻で嗅ぎ
エミリーに薔薇を捧げる
その日を夢見て
鳥たちの羽ばたきを聞いている
彼女の中から聞こえた
アフリカの風
一瞬前に神様の声を聞き
一瞬前の神様の声に支配されて
エミリーの憎悪の眼が
僕を刺し貫き
全てが決まっていたような
決まっていなかったような
懐かしい未来への橋が
今日だけ架かる

そのときこそ
黄土色の風が吹く
アフリカの匂いを嗅ぐ
エミリーと僕を繋ぐ
唯一の橋が
一瞬だけ現われる


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